蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・200

最終章

 

【勇者達の凱旋】

 天意の祠にあった旅の扉は、ベラヌール法王庁の執務室にある旅の扉と直結していた。ロラン達が出現すると、法王ハミルトをはじめ、多くの神官や僧侶、異端審問官達までも盛大に拍手したので驚いた。
「いましがた、暗黒に包まれていた空がきれいに晴れ渡ったのです。おそらく殿下達が邪神官ハーゴンを倒した証であろうと、ここでご帰還をお待ちしておりました」
 ベラヌールの町もこの奇跡に沸いているという。ぜひ祝賀の宴にというハミルトの招待を、ロラン達は丁寧に辞退した。まずは自分達の国へ戻って報告したかったのだ。
 落ち着いたらまた後日に歓待を受けると約束し、3人はランドの唱えたルーラでルプガナへ飛んだ。町と港の主であるルートンに借りていた船を返すためである。
 ルプガナも、空が反転した奇跡にもちきりだった。ロラン達がルートンの屋敷に行くと、自分の孫が帰ってきたかのようにルートン老は喜んだ。ルートンの孫娘エレーネも、最近結婚したたくましい船乗りの夫と出迎えてくれた。
 ルートンも町を代表してロラン達を招きたいと申し出たが、3人は固辞した。
 返した船は、またいつでも貸すとルートンは別れ際に言った。やる、と一言で言わないのがいかにもルプガナの男らしい。好意をありがたく受け取り、彼らの見送りを受けて、3人はルーラで町を後にした。


 邪神官ハーゴンが放った魔物達によって滅びたムーンブルク城は、穏やかな昼の日差しにたたずんでいた。
「瘴気が消えている……」
 城と城下町を見て、ロランは驚いた。毒沼に汚染されたムーンブルク城は、その姿もおぼろげなほど濃い瘴気に覆われていた。だが毒沼は無害な湿地と化し、徘徊していた毒蛇や虫、動く死体も見当たらない。
「ルナ!」
 ランドが声を上げた。ルナが待ちきれないといった風に城へ駆け出したからである。
 二人は追いかけ、崩れた城門をくぐって城へ入った。入って正面にある謁見の間で、亡くなったムーンブルク王をはじめとする城の人々が並んで立っているのが見えた
「お父さま!」
 涙声でルナがムーンブルク王に駆け寄ると、王は慈愛を整った顔に浮かべ、ルナへ両腕を広げた。
 ――おお、我が娘ルナ。よくぞ無事で戻ってきたな。そして、よくぞ使命を果たした。おかげで我らが無念も晴れ、今ようやく、天の国へ旅立つことができる。
「お父さま、私……」
 ルナは何か言おうとしたが、嗚咽があふれた。王は優しく娘の頬に手を当てた。かすんでいたが、ルナの肌に淡いぬくもりが伝わった。
 ――ルナ。そなたが我が娘でよかった。どうか、達者でな。ロラン王子、ランド王子と、これからも世界を守ってゆくのだぞ。
「お父さま、私、きっとムーンブルクを復興いたします。また元のように、みんなが安心して暮らせる場所を」
 王は穏やかにうなずいた。そして、ロランとランドへ向き直ると、一同そろって深々と礼をした。王の隣に、ルナの婚約者になるはずだった若き騎士、キースの姿もあった。
「……さようなら」
 ランドが涙をこらえて言うと、それがきっかけだったかのように、王達は一斉に光り輝く球体となった。天井に空いた穴から次々と天へ昇っていく。
「お父さま……。キース……」
 ルナは頬を伝う涙を拭いもせず、最後の魂が天へ消えるまで見送った。


 サマルトリア城は、沈鬱な雰囲気に包まれていた。空は晴天に戻ったものの、城の主である王とその娘のアリシア王女が悲しみに沈んでいたからである。
 ロンダルキアの地でランドが命を落としたのだと、王とアリシアは家族の直感で確信していた。それを伝え聞いた城の人々から城下にも話が伝わり、皆があののんき者の王子を悼んでいた。
 だから、当の本人がロラン達とのこのこ現れた時、城の門番が「でででで出えたあーーー!!」と、青い顔で絶叫した。のんき者のランドも、さすがに憮然とする。
「……ちょっとひどくない? いくらぼくが期待されてなかったからってさあ……。そりゃあたしかに、1度死んだけど」
「正確には2回だけどね……」
 ルナが小声で言い、ロランが吹き出した時。
「ランドおおお!」
「おにいちゃーん!」
「うわ! 父さんにアリシアまで?!」
 一報を受けた王とアリシアが、しきたりを無視して城門まで走ってきた。なりふり構わずランドに二人で抱きつき、おいおいと泣く。
「よかった、ランド、わしはてっきりお前が……あの地でっ……」
「うわーん! お兄ちゃんが帰ってきた! おばけじゃないよね、ね?」
「大丈夫だよ、ほら、離れてっ。みんなが見てるよ!」
「おお、そうであった」
 王衣の袖で洟を拭い、王は威儀を正して咳払いした。皆で謁見の間に行き、王は玉座に座ると、改めてロラン達を見た。アリシアは王の隣に立つ。
「ロラン王子、ルナ姫、そしてランドよ。よくぞハーゴンを討ち、世界を平和に戻してくれた! サマルトリア国民一同、お礼申し上げる。ランドはいささか頼りないところがあったが……そなた達の役に立ったようで何よりだ」
「とんでもない」
 ロランは笑顔でかぶりを振った。
「ランドがいてくれたから、目的を果たすことができたんです。頼りなくなんて、ありません」
「そうか。成長したのだな……」
 我慢していた涙がまたこぼれて、王は急いで目元をハンカチで拭った。
ローレシアには、先ほど伝令をルーラで飛ばした。今頃はローレシア王ともども、皆がロラン王子の帰還を待ち望んでいることだろう。わしとアリシアも、夜にはそちらへ向かわせてもらう。さあ、ランド、ロラン王子をローレシア城へお連れせよ」
「はい!」
 晴れやかに返事をし、ランドは華麗に一礼した。去り際、アリシアがランドへ駆け寄って言う。
「お兄ちゃんやったじゃない! あたし見直しちゃった!」
「こらぁ」
 ランドは腰に両手を当てて妹をにらみ、こつんとやる真似をした。
「なまいきだぞ、こいつ」
「えへへ……」
 アリシアが笑うと、ランドも笑って妹の頭をなでた。見ていたロランとルナも、なんだか幸せな気分になって微笑んだ。
「さあ、行こう!」
 ランドが言い、王達が城の外で見送る中、ルーラの呪文を唱えた。


 ローレシア城下に降り立つと、すでに衛兵が2人、馬車を仕立ててロラン達を待っていた。城下は出店が出るなどして大騒ぎだ。近隣の人々が、凱旋した王子をひと目見ようと押し寄せているため、馬車を用意したのだという。
 馬車の窓から、ロラン達は喜びに沸き返る人々を見た。よかった、と改めて思う。苦しかった戦いや傷の痛み、恐怖も癒されていくようだった。
 城門で降ろされると、ロランは城を見上げた。中へ、とうながす衛兵にも応えられない。こんなに緊張したのは初めてだった。
「なあに、あがってるの?」
 ルナがからかうようにロランをのぞき込む。む、とロランはルナを見返した。
「そんなんじゃないよ」
「じゃあさっさと行きなさいよ、かっこいい王子様?」
「よせってば……」
「ほら、お父上も待ってることだし」
 ランドも急かす。やっぱり自分はあがっていたのだと、ロランは認めた。観念する。
「うん。わかってる……」
 深呼吸すると、ロランは城の中へ足を踏み入れた。途端、弾けるような歓声が湧く。赤い絨毯が敷かれた通路には城の人々がこぞって立ち、儀仗兵がラッパでファンファーレを吹き鳴らした。紙吹雪が舞う中、ロラン達は奥で待つ王の元へと進む。
「ぼくの時と違う……」
 またも憮然とつぶやくランドに、ルナがぷっと吹き出す。しかしロランは笑える余裕がなかった。硬い面持ちで父王の元にたどり着く。ランドとルナは気を利かせてか、ロランの少し後ろに離れた両脇に立った。
「父上。ただいま戻りました」
 ひざまずいたロランに、父王は深々とうなずいた。
「うむ。よくぞ戻った、ロラン。そしてランド王子、ルナ王女。よくぞハーゴンを討ち果たしてくれた。世界が邪教の脅威から去ったことを、皆が喜んでおる。ローレシア国民一同、感謝している。ありがとう」
 王が言うと、集まった人々が歓呼と拍手の嵐を浴びせた。ロランは立ち上がると、意を決してロトの兜を脱いだ。現れた銀髪に、父王や近臣マルモア達が目を見開く。場が静まり返った。
「お、王子、その髪は……」
 マルモアが震えてロランの頭を凝視した。ロランは苦笑して言った。
「戦いの間に、こうなったんだ。体はなんともないよ」
「そうか……。さぞ、つらい戦いであったのだな……。よく、成し遂げてくれた。我が息子ながら、誇りに思うぞ」
 父王もそう言うのがやっとだった。つらい、と一言で片づけるのが心苦しいが、それしか言葉が見つけられなかったのだと、苦渋に満ちた白い眉が語っていた。
「1年遅れたが、今からローレシア建国100年祭を5日間にわたって行う。正式な式典は明日にして、今宵はまず、その体を休めるがよい。さあ、ランド王子とルナ王女もこちらへ」
 うながされ、ランドとルナもロランの傍らに立った。ローレシア王は一同を見て、高らかに宣言した。
「これより、ローレシア建国100年祭を開催する。そして我らはこの日を忘れまい。勇者ロトの子孫が、再び世界に平和を取り戻したことを!」
 人々が万歳を叫ぶ。ファンファーレが再び高らかに王子達の凱旋を歌い上げた。ロラン達は城下を見渡せるバルコニーに導かれた。3人の姿を待ち望んでいた人々が、一斉に感極まった声を上げる。夕暮れの空に、花火がいくつも打ち上げられた。
「きれいね」
 人々に手を振り返しながら、ルナがうれしそうに色彩閃く空を見上げる。
「でも、私がイオナズンを放ったら、もっと派手なのが打ち上がるかも」
「あ、それならぼくのベギラマも合わせたら色がきれいになるんじゃないかなぁ」
「そうね、今度練習しましょうか?」
「いいねえ」
「冗談だろ……?」
 色と音が弾ける中、3人は笑い合った。そこへ父王も来て、共に空を見上げる。しばし花火に見とれていたが、やがて真顔でロランに言った。
「……ロラン。こうしてお前が若くして偉業を成し遂げたことは、機をうながしているのやもしれぬな」
「父上……」
 喜ばしい気分が一気に消し飛び、ロランは笑みを消して父を見た。
「そろそろ、わしもそなたに王の座を譲る時が来た。ロトの子孫がその名に恥じぬ功績を残した、このことはそなたが将来を築くのに強い礎となるであろう。この機会が重要なのだ」
 ランドとルナもはしゃぐのをやめて、静かにロランと王を見ていた。ロランは返事をしなかった。
「近いうちに、即位の礼を行う。嫌とは言わせぬぞ」
 ロランは黙っていた。いくつもの花火が弾け、空に消えていった。
「……はい」
 どおん。腹に響くような深い音が、まばゆい大輪とともに尾を引いた。ややうつむいたロランの横顔を、光が瞬きながら照らしていく。
 ランドとルナは、無言でロランの手を握った。ロランは目を伏せた。終わらない花火と人々の歓声が続いていた。