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蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・182

「よくぞ来た、ルナよ。わしはそなたらをずっと待っておった」
 祠の中央は聖堂となっている。祭壇の前に、初老のたくましい男が立っていた。金と緑、赤を組み合わせた神官の服を着ている。
「ロランとランドに会わせてください。一緒に連れて来たんでしょう?」
 真っ先にルナが尋ねると、神官――ジェリコは落ち着き払ってうなずいた。
「ランドは、その奥の部屋に寝かせておる。大丈夫だ、体に傷ひとつない」
 言葉が終わるや否や、ルナは示された部屋へ駆けだしていた。扉を開けると、変わらぬ姿のランドがベッドの上で穏やかに目を閉じている。両手は胸の上で組まされていた。
「あ……」
 ランドの死は変わっていない。後をついてきたマリアンヌが、そっと言った。
「皆様のお身体は、眠っている間にわたくしがお清めいたしました。ハーゴン討伐に出る前は、病や怪我をされた方のお世話をしておりましたので」
「……あなたでも、生き返らせることはできないのね」
 ランドを見つめたまま、ぽつりとルナは言った。マリアンヌはいたわりと同情を込めて沈黙した。
 聖堂へ戻ると、ジェリコはルナを視線で迎えた。穏やかなまなざしは、世の中のすべての感情を超越しているように見えた。
「ロランは……」
 ルナが視線を巡らせると、ジェリコは言った。
「ロランはおらぬ。ここから出て行ってしまった。……止められなかった」
 ルナの光彩が狭まった。


「ロランは、破壊の剣を手にしておった。あれは持ち主を破滅に導く、呪われし剣。マリアンヌがそなたらにベホマをかけたあと、わしが解呪の呪文で剣を破壊しようとした。だが、ロランはわしが魔法をかけようとした途端、昏睡から目覚めたのだ」
 跳ね起きたロランは自分が回復したのを知ると、自分一人でハーゴンを倒しに行くと言い、祠を出て行ったという。マリアンヌが追いかけたが、祠からあまり離れると存在が揺らいでしまうため、途中で断念するしかなかった。
「ロランはおのれの意思であの剣を持っている。解呪を拒む気持ちが、あのような目覚め方をさせたのだろう」
「追いかけなきゃ」
 ルナはローブ姿のままだった。きれいに洗濯されていることに気づく。いくらここが暖かくても、乾くのには半日以上かかる。ということは、自分は丸一日寝ていたことになる。装備を、とマリアンヌに詰め寄った。
「大丈夫だ」
 ジェリコは決して感情に引きずられなかった。穏やかに、力づけるように言う。
「わしはここに新たな生を得て、世界を見通す力を授かっている。ロランはそう遠くへ行っていない。まだ近くにいる」
「でも、魔物が。ロランは回復手段を持っていないんです」
「そなたひとりでは危険だ。そもそも、そなたらは3人で1人。心技ひとつとならなければ、悪霊の神々とハーゴンは倒せぬ」
「3人で……」
 ルナはランドのいる部屋へ顔を向けていた。瞳が潤む。
「もう、遅いわ。大切な、私達の太陽が欠けてしまったもの」
「いいや、まだだ」
 ジェリコはマリアンヌをうながした。心得たマリアンヌがランドの部屋へ消え、すぐに何かを手にして戻ってくる。
 人の拳ほどの青い宝玉は、ルナが持っていたはぐれメタルからの戦利品だった。
「それは復活の玉」
 マリアンヌが宝玉をルナに手渡すのを見守りながら、ジェリコが告げる。
「この世にふたつとない、奇跡を具現する宝だ。それは精霊ルビスの祝福を受けた唯一の魔物――はぐれメタルが、その命を代償に、神々の伝達者として人間へ渡すもの。そなたらが手にしたのは、決して偶然ではない」
「これが……何の役に……」
 ルナは復活の玉を見つめた。
「復活の玉は、名の通り人間の生を司る。その玉を通じて、そなたらを愛する聖なる魂が加護を与えているのだ。ランドがロランをザオリクで蘇生できたのも、聖なる魂の加護が天界へ魂が送られるのを引き止めたゆえだ」
ザオリクは、誰にでも効果がある魔法ではありません」
 マリアンヌが引き継いで話す。
「人は生まれ、死んでゆくもの。摂理をねじ曲げる魔法は、限られた運命の人にしか効き目がないのです。ロラン様達のように、天から重い役目を担わされたお方だけが、その呪文によって摂理を超えることを許されます。だからザオリクは秘法中の秘法。死者を復活させる葉を育てる世界樹もまた、その天運を見て、葉を贈るのです」
「じゃあ、ランドは、生き返ることができるのね?」
 ジェリコとマリアンヌはしっかりとうなずいた。
「たぐいまれなる魔法の才を持つ、ムーンブルクの王女ルナよ。転変の魔法パルプンテをも修得したそなたなら、復活の玉を通じて天へ語りかけることもできよう。わし達も力を貸す。あの世とこの世のはざまにとどまるランドの魂を呼び戻し、ともにロランを追うのだ」