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蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・174

「危ない!」
 ルナが叫んだ。またイオナズンが来るとロランも察し、素早くアークデーモンの肩を蹴って離れる。そこへ、ギガンテスが棍棒を振り上げて乱入してきた。構わずアークデーモンは呪文を唱える。大爆発がギガンテスも巻き込んで炸裂した。
「――っ!」
 爆発の余波はたやすく避けきれるものではなく、ロラン達は吹き飛ばされて雪面にたたきつけられた。
「この、愚か者」
 アークデーモンはのろまなギガンテスをにらみつける。巨人もまた爆風の痛手を負ったが、苦痛を逆に恨みに変えてアークデーモンをも凝視してくる。
 ごうっ、とギガンテスが吠えた。咆哮は山脈まで届き、空気を震わせる。次の瞬間、めちゃくちゃに棍棒を振り回して暴れ始めた。
「今だ!」
 ロランは二人に目で合図すると、先へと走り出した。敵の注意が逸れたこの隙に、少しでも先へ進もうと判断したのだ。
「押し潰せ!」
 アークデーモンがデビルロード達へ命じる。一斉に猿魔達が先頭をゆくロランへ跳びかかった。ロランは鋭い爪の攻撃を盾で防ぎ、押し返し、稲妻の剣でまとめて切り伏せながら猛進する。その後を、ランドとルナが剣や杖で打ち漏らした敵を倒しながら懸命について行く。


 黒々とした大群の帯が、わずか3人の少年達によって断ち割れていく。

 腕がちぎれそうだ。
 どの顔も同じ猿顔――デビルロードの群れを延々と斬り倒しながら、ロランは一瞬、悪夢を見ている気になった。
 雪原は遠近感を狂わせ、無限に続いているかのようである。この苦しい戦いの先に、さらにつらい戦いが待っている。悪霊の神々と、邪神官ハーゴンという。
(それでも……進まなきゃ……)
 振るった稲妻の剣が、刀身にまとう電光でデビルロードの毛皮を焼く嫌な臭いに、夢ではなく現実だと思い知る。
 悪魔らが汚れた爪で振るう一撃は、ロトの鎧に傷をつけはしないが、衝撃に鎧の下の体が痛手を受けて悲鳴を上げる。何度骨が折れたか知れない。デビルロードの放つベギラマの呪文はロトの装備でも完全に軽減できず、二人が受けないよう盾で防ぐも、重い火傷を負うこともあった。
 そのたびに後ろでランドやルナが回復魔法を唱え、痛みが癒えた瞬間にロランは敵へ向かって斬りかかる。
 そうだ――ランドとルナがいる限り、自分は不死身なのだ。この地獄……常人ならとうに気が狂う苦痛と復活の中、正気を保って戦えるのは、二人のおかげなのだ。
 後方で、ギガンテスが皆殺しにかかっている。ロラン達を狙うよう命じられたのに、頭に血が上った巨人は味方である魔物も巻き込んで暴れ狂っていた。
 都合がいい。雪原を魔物の血で濡らしながら、そのまま潰し合ってくれとロランは思った。
 やがて群れの前方が薄くなってきた。魔物のいない雪原の向こうに青く光るのは湖だろうか。だとしたら、なんて大きい――。ロランはそこが、世界でもっとも清浄な地に見えた。
「逃がすなァ!」
 後方で、狂ったギガンテスを槍の餌食にしたアークデーモンが怒号した。その声に、周囲を取り囲んでいたデビルロードが一度に動きを止める。一斉攻撃が来るとばかりに身構えていたロラン達は、不気味さに思わず3人身を寄せていた。

「なんだ……? なぜ襲ってこない?」
 剣を下ろし、ロランはいぶかしんだ。3人を取り囲んだデビルロードの群れはこちらを見つめ、にたりと笑った無表情で沈黙している。
 ルナも答えが見つからず、しかしここでイオナズンを使うべきか迷っていた。
 ロランは、目だけで敵の群れに隙間がないか探った。しかし、陣形を組んだように猿魔達は壁を作っていて、たやすく抜け出せそうになかった。
「無理にでも切り開くしかないか……」
 正直、もう歩くのが精一杯だった。剣を振るっても力がこもらない。数匹倒せたとして、さらに立ちはだかる魔物を退けられるか。
「私が魔法を使うわ」
 ルナが言った。
イオナズン……あと数回しか使えないけど、ロランが突撃できる入り口は作れるかも。いいでしょう?」
「すまない、頼む」
 ルナはうなずき、いかずちの杖を両手で持ち、意識を集中し始めた。爆発を司る元素が光となって集まり、ロランの前方で炸裂する。数十のデビルロードが爆発に消え、包囲がやや薄くなった。
「今だ!」
 ロランは稲妻の剣を振り上げ、魔物の群れに突進した。渾身の力で数匹をたたき斬る。ランドとルナも続き、左右から押し寄せるデビルロード達を剣や杖で突き放す。
 だが異様なことに、デビルロードの群れは何か機を量っているようだった。ロラン達を押し包みながら、腹の中で何か練っている。
(これは――)
 ざわっとランドの背筋を悪寒が走った。ザラキの呪文とは違う異様な魔力の高まりに、ランドの中でも動き出すものがあった。
マホトーン!」
 ランドは叫び、魔封じの呪文を放っていた。広範囲に効果が及び、この瞬間にもその魔法を使おうとしていたデビルロードが、ロランの剣にまとめて倒される。
「ランド?!」
 ルナがぎょっとしてランドを見た。少しでも魔力を温存しなければ、先頭で戦うロランの身を守れない。だが、ランドはルナにも魔法を使うよう言った。
「何でもいい、早くこいつらを止める呪文を使って! こいつらに魔法を使わせちゃだめだ!」
 わけがわからぬまま、ルナはランドの迫力に押されてラリホーを唱える。ばたばたと魔物が眠りに落ち、ロランはその体を飛び越えて、さらに先へと斬り結ぶ。
 ランドとルナも後を追う。そこへ、ずしりと巨体が舞い降りた。巨大なコウモリの翼を羽ばたかせたのは、アークデーモンだ。
「通さぬ。ハーゴン様の神殿へ、屍となって我らに運ばれてもらおう」
「――っ!」
 ロランは無言で斬りかかった。アークデーモンが即座に集中し、イオナズンを唱える。ロランは正面から爆発を受けた。
「ロラン!!」
 ルナが悲痛な声で叫んだ。

 ロランは前のめりに倒れていた。低くうめき、立ち上がろうと四肢を動かす。その背へ、アークデーモンが残忍な笑いを浮かべながら足を踏み下ろした。
「う、ぐああ……!」
 じわじわと全身の骨を折られる激痛に、ロランは悲鳴も出ない。がはっと吐き出す吐息に、血が混じった。
「――ロラン、待ってて!」
 ルナがベホマを唱えようと集中する。が、横からデビルロードが一匹、ルナの体にしがみついた。
「いやっ、放しなさい!」
「ルナッ!」
 ランドはロトの剣を抜くと、ルナに執拗にしがみつく猿魔の背を切り下ろした。断末魔を上げて魔物はルナから離れたが、その間にもロランの背骨はアークデーモンに折られようとしている。
「その足をどけろ!」
 ランドはロトの剣を構えてアークデーモンに斬りかかった。アークデーモンは乱暴にロランを蹴飛ばすと、ランドの剣を槍で受けとめる。その隙に、ルナがロランにベホマを唱えようとしたが、またしてもデビルロードが襲いかかってルナの詠唱を妨害した。
ハーゴン様に栄光を。永遠の静寂をこの世に!」
 アークデーモンはランドの剣撃を軽々と槍で弾き、空中でランドの片脚をつかんだ。逃れようと暴れるランドの感触を愉しみながら、集う魔物に告げる。勝利に酔いしれる響きがあった。
「者ども、唱えよ! 破滅の詩(うた)を! その命をもって、この人間の子らを死滅さしめよ! 大神官ハーゴン様へ捧げるのだ!」
 周囲にひしめくデビルロードが、また、先ほどの不気味な沈黙とともに魔力を高め始めた。一斉にベギラマを使う気か。激痛に揺らぐ意識の中で、ロランは今度こそ生き延びることを諦めかけていた。