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蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・172

 ロランはランドと共にサイクロプスへ斬りかかった。サイクロプスは腰を落としたまま丸太のような腕を振るった。ランドは身かわしの服の効果も手伝って、軽やかにその腕を蹴って舞い上がると、ロトの剣サイクロプスの単眼に突き立てた。サイクロプスが怒濤のような咆哮を上げる。ロランは痛みに暴れる巨人の四肢をかいくぐり、軽々と跳躍して一枚板のような胸板へ斬りつけた。ロトの鎧一式はロランの体の一部となっていた。少しも動きを妨げず、重さを感じない。
 深々と稲妻の剣が胸に突き刺さり、サイクロプスは血を流す単眼を反転させた。背から倒れるそばを、ロランとランドは跳びすさって離れる。
 カタカタと骨が打ち鳴らされる音が複数。紫の軽鎧を着けた骸骨戦士――ハーゴンの騎士達だ。吹雪をものともせず、眼窩を赤く光らせて3人へ斬りかかる。
「邪魔よ!」
 ルナがいかずちの杖を前へ向けて構えた。その先へまばゆい光が集結する。ロランとランドははっとしてルナの後方へ走った。直後、可憐かつ凛々しい声が詠唱する。
イオナズン!」
 爆音と閃光が周囲を薙ぎ払った。ロランとランドが目を開けると、周囲の木々は根元だけを残し、雪は消えて黒い地面をむき出していた。蒸発した雪が湯気を立ちのぼらせている。
「少しはすっきりしたでしょ」
 笑いもせず、ルナは淡々と言った。その赤い瞳に、ロランとランドは顔を見合わせた。こういうとき、ルナは冷静ではなくなっている。
「道は……」
 ロランは気を取り直してあたりを見回した。ルナがイオナズンで吹き飛ばしたせいで、森の入り口は大きく開けてしまっていた。だからよく見えた。白い地平線から、黒々とこちらへ迫る魔物の群れが。
 収まらない風が、ロランのまとう鎧の深紅のマントをばたばたとたたいた。

 

 ハーゴンの神殿の大広間で、悪霊の神々は魔法の映像を空中に浮かべ、ロラン達が戦う様子に見入っていた。
「つまらん」
 雪原で魔物達と死闘を繰り広げるロラン達を見て、ベリアルが吐き捨てた。
「やはり我らが出ねば埒が明かないのではないか? いや、このまま昼夜襲わせれば、いずれ奴らも力尽きようが……それまで黙って見物しているのも退屈だ」
 ベリアルの言葉に応じてか、アトラスが轟とうなった。バズズは長い両手をすり合わせ、嫌らしく笑った。
「そうさなァ。しかし我らはハーゴン様によってこの神殿に縛られる身。ここを離れては現世におられぬ。――まァそう言うと思って、ひとつ余興を用意したのよ」
「余興?」
 ベリアルが視線を向けると、バズズは例の喘ぐような笑いをもらした。
「我ら魔の者が喜悦を感じるは、人間の絶望する様よ。ローレシアの王子……魔力を持たぬ、できそこないの勇者。奴が絶望し、泣き叫ぶところが見たい。世界樹の件では失敗してしまったしなァ」
「……なぜローレシアの王子にこだわる?」
 淡々とベリアルが問う。バズズは舌なめずりした。
「奴が“人間”そのものだからよ」
 バズズの答えに、ベリアルは初めて共感を冷たい瞳に示した。にたりと笑う。
「なるほど」

 

 キラーマシンが単眼を光らせ、小さな頭部をぐるりと回すと、単眼から赤い光線がほとばしった。半円を描いた途端、軌跡の形に爆発が起きる。ロラン達はかろうじてかわし、3人が互いに背をかばうよう体勢を整えた。
 雪原に出てからも吹雪はやまない。視界の利かない中、四方から襲ってくる魔物に対処するにはこの体勢がよかった。
 もう昼間近くになる。魔物達は3人に休む間も与えず、押し寄せる波のように襲ってきた。助け合って切り抜けつつ奥地と見られる方角へ進んできたが、雪原に果てはなく、やまぬ吹雪にさらされて疲労も限界に達していた。
 キラーマシンが左腕に装着されたボウガンを向ける。ロランは雪を蹴立てて走った。稲妻の剣を振りかぶり、肘から切り落とす。かつてロランに死を与えた相手にも怯まないのは、そう考える余裕すらないからだ。
 ルナのルカナンの援護がなくても、ロランが振るった剣はやすやすとキラーマシンの装甲を切り裂いた。この戦いで、また腕力が上がっていた。魔力を持たないかわり、異常に成長した、常人を超える膂力(りょりょく)で、ロランは襲い来る敵を圧倒していた。
 死角から、次々とベギラマが炎の幕を張る。シルバーデビルの上位種、デビルロードの群れだ。鈍く輝く金色の毛皮の上に、野ざらしの人骨のような色をした異様な鎧を身に着けていた。鎧は、君主(ロード)であるつもりだろうか。
イオナズン!」
 真っ先にルナが呪文を唱えた。ランドが脇で魔法封じのマホトーンを唱えようとした矢先である。
「数が多すぎるわ。補助呪文より、こっちが早いわよ!」
「そ、そうだけど……」
 ランドは言い淀んだ。ルナのイオナズンで近い場所の敵が消えたが、生き残りも多かった。人間にも個体差があるように、魔物にも呪文に強いものがいる。生き残りはそれらである。
(なんだか嫌な感じがする……)
 デビルロードが、鎧の左手の手甲に付いた大きなかぎ爪で引っ掻きに来た。ランドはそれをかわし、はやぶさの剣で敵の連撃に応じながら、ロランを振り返った。ロランはひたすら前から襲ってくる敵を斬り伏せている。
(どうすればいいんだ)
 ランドは答えを探そうとした。しかし白魔の向こうから翼竜メイジバピラスが奇声を上げてついばみに来て、応戦に思考が散り散りになった。