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蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・171

【魔群侵攻】

 地鳴りが聞こえたのは、未明のことだった。ロランははっとして目を覚ました。風が強い。吹雪になっている。
「二人とも、起きろ!」
 たき火はわずかな炎を炭化した枝に残していた。土を被せて完全に消し、ロランは素早く毛布を剥がして丸める。寒さにさらされて、眠っていたランドとルナが不服げにうめいた。
「寒いよう……」
「どうしたのよ……?」
「敵だ!」
 ロランは稲妻の剣を手にすると、洞穴の入り口から用心深く顔を出した。びょう、と風雪が顔をたたく。ロランは薄明の森の奥へ目を凝らした。
 夜明け前の闇に、敵の姿はない。だが、どろどろという不気味な音が遠くから聞こえてくる。
「足音……?」
 ロランの隣で耳を澄ませたルナの横顔が緊張に強張る。
「すごい数だわ。私達を探しているのかしら」
「もしかしたら、もう見つかっているのかもしれない」
 ロランは歯噛みした。
世界樹の島と同じだ。向こうには、こちらの行動が見えているんだ。そうじゃなきゃ、こんなに都合よく襲ってくるはずがない」
「本気で潰しに来たのね……。それならいっそ、私達が旅をしている時にけしかけてくればよかったのよ」
 冷たい微笑を浮かべてルナが言うと、のびのびとしたあくびが聞こえた。二人が振り向くと、ランドが伸びをしている。目が合うと、きょとんとした。だがすぐに、近づいてくる地鳴りに眉を寄せる。
「これは……」
 ロランとルナがうなずいてみせる。ランドは真剣な顔で言った。
「……何の音?」
「――遅いッ!」
 思わず二人で叫んでいた。


 3人は森を早足で移動していた。森の中は方角がつかめないので、来た所を戻り、雪原へ出るつもりだった。
 雪原は左右を険しい山脈に挟まれているので、おのずと行く先が限られる。目指すハーゴンの神殿がどこにあるかはわからないが、道なりに行けばたどり着ける予感があった。
 魔物の数は千を超えるだろう。それを相手にしてはこちらが力尽きる。なんとしても戦線を突破して神殿へ行かなければならなかった。
 夜が明けてきて、森がやわらかな白い光を帯びてきた。吹雪は一向にやまず、すねまでもぐる深い雪に、3人の足も鈍ってくる。
「きゃっ!」
 雪だまりに足を取られ、ルナが前のめりに倒れかかった。傍にいたランドが、とっさに腕をつかんで支える。
「大丈夫?」
「ええ、ありがとう。これのおかげで意外と寒くないんだけど、息が上がってきて……」
 ルナのまとうケープ状の水の羽衣は、凍てつく寒さの中でも流れる水のように柔らかさを保っていた。炎熱を遮断するだけでなく、ある程度の保温効果もあるらしい。
「歩きにくいからね」
 ランドは頬を濡らす雪を手袋をしたままの右手で拭った。ルナがランドの頭を見て苦笑する。
「あなたの髪の毛、雪がびっしり。頭だけ雪だるまになっちゃうんじゃない?」
「本当だ。凍るぞ」
 ロランはランドの頭を払ってやった。髪にこびりついた雪は、早くも氷になりかけている。と、背後にざわりと違和感を感じた。素早く振り向く。
 いつの間に接近したのだろう、青白く燃える炎の魔物が数匹、左右に踊り跳ねながら迫っていた。
 炎が人の形を取ったような姿はフレイムと同じだ。炎魔フレイムと対を成す、氷魔ブリザードである。
 ルカナンルカナンと甲高い声がにっかり笑ったうつろな口から発せられた。ロラン達の全身が暗い青光に包まれる。
「いけない!」
 守備力を下げられ、ランドはすぐに防御上昇の呪文スクルトを唱えにかかった。そこへ、ずん、と地響きが鳴る。近くの木々の枝から、積もった雪が一斉に落ちた。
「巨人?!」
 とっさに見上げたルナが身をすくませた。針葉樹の梢に、一本角を生やした一つ目の顔が笑っている。耳はとがり、鼻はなく、残忍に笑った目と耳まで裂けた口は、子どもが怖がる鬼そのものだ。
 岩のような巨躯に荒々しい毛皮をまとった巨人――サイクロプスは、3人を見つけるとうれしそうに吠えた。歩くのに邪魔な木を、左右の手で押しのける。めきめきと音を立て、大木はたやすく胴から折れた。
 ランドが守備力を上昇させる呪文スクルトを唱えた。だが、その脇から次々とブリザードルカナンを合唱し効果を打ち消す。
 サイクロプスが両手を組んでロラン達へ落とした。巨岩のごとき拳が目の前に迫り、3人はそれぞれに跳んでかわす。どうっと雪がえぐれて間欠泉のように高く舞い上がり、振動で近くの木々が枝の雪を落とした。雪煙がもうもうと立ちのぼり、ますます視界が悪くなる。
「森から出るぞ!」
 ロランは叫んだ。ここにいては、伏兵から襲われかねない。魔物の群れとの全面対決になってしまうが、見通しの利く平原へ出た方がましだと思った。
 キイッ、と猿の鳴き声がした。先兵であるシルバーデビルの群れが、枝を器用に渡って襲いかかってきた。
 数匹がロランへ爪で裂こうと跳びかかる。ロランは稲妻の剣を振りかざした。刀身を走る青白い電光が天へ昇り、直後、雷鳴とともに稲妻がシルバーデビル達へ降り注ぐ。
 ギィッ!と魔物達は電撃に弾かれて悲鳴を上げた。その脇へ、吹雪にまぎれて突進してきたバーサーカーが手斧を振り下ろした。即座に振り向くとロトの盾で受けとめ、返す剣で一太刀に葬る。
 ブリザードの群れが一斉にザラキを合唱した。ランドも使う即死の呪文だ。見えない死の手がロラン達の心臓の上をなでた――それも数秒、死の手は心臓をつかまず通り過ぎる。息を止めて死の恐怖に耐えていたロラン達は、思わず肩の力を緩めた。この魔法は気まぐれで、運が悪いとかかってしまうが、偶然にも効果が出ないことがある。今は運が味方してくれたらしい。
ベギラマ!」
 ランドがブリザードの群れへ火炎魔法を放った。あたりが橙色の炎に明るく照らされ、風泣きのような悲鳴とともに氷魔達が消え去っていく。
 おおんと巨人が吠えた。片脚を上げ、子どもが虫を踏みつぶそうとするようにロラン達へ足を下ろす。呪文を詠唱していたランドが気づくも、魔法の精神集中直後はすぐに動けない。ロランが走り、ランドを突き飛ばした。暗い影がロランを襲う。
「ああっ!!」
 ぼきりと嫌な音がした。脳天まで響く激痛にロランは絶叫した。左脚を巨人に踏まれ、地面に挟まれてしまう。
「ロラン!」
 ランドは巨人の足の下敷きになったロランを見て真っ青になった。はやぶさの剣に手をかけて思いとどまり、背負ったロトの剣を抜き放つ。
「このおお!」
 ランドはロトの剣を両手に構えると、サイクロプスの足首へ突進した。力任せに振り下ろし、腱を断ち切ろうとする。分厚い皮を切る手応えがあり、腱まで届かなかったものの巨人は痛みに足を上げた。
ベホイミ!」
 雪に埋もれて倒れ伏したロランへ、ルナが回復呪文を放った。一瞬で骨折が癒え、ロランは瞬時に立ち上がると、ランドの傷つけた足首へ斬りかかる。電光をまとう剣が傷口をさらに深く切り裂くと、傷の焦げる強い臭いとサイクロプスの苦鳴が上がった。
 立っていられなくなったサイクロプスは、よろめいて木々を押し倒しながら尻餅をつく。倒れた木々にシルバーデビルバーサーカー達が巻き添えを食って押し潰される。