蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・166

 ルナはランドの胸の内を探るように見つめてきた。一瞬の疑いは確信に変わり、だが、どこかとがめるような目で。
「あなた……使えるのね? 死者を蘇らせるザオリクの呪文を」
 ランドは小さくうなずいた。
「そう、だから……なのね」
 ルナは言いかけ、口に出かけた言葉をのみ込んだ。ランドも何も言わなかった。
 蘇生の呪文を使えるからそうして落ち着いていられるのだと、ルナは言いたかったのだろう。その通りだ。もし何の手立てもなければ、何があってもロランをかつぎ、世界樹のもとへ走っていただろう。世界樹が眠りについたのは本当だ。それでも、自分の命を懸けて、もう一度葉を分けてくれと祈っただろう。
 自分はザオリクを使えることで、油断し、おごり高ぶっていたのではないか。
(だからロランは殺された……殺したのは、ぼくも同然だ)
 ランドの胸がえぐられるように痛む。ロランの死は突発的事故だったとはいえ、そうなる前に防げた可能性はあった。ロランの体力や腕力を過信し、そのために援護を怠った。スクルトで守備力を上げていれば、致命傷には至らなかったかもしれないのだ。ロランへの攻撃が集中しないよう、もっと気をつけて立ちまわればよかったのだ。
 最近、自分の能力が飛躍的に伸びていると実感していた。ロランも常人を超えるその力で、一体で軍隊を壊滅せしめるような魔物を倒してきた。自分達に敵はいないと、心のどこかにその気持ちがあったから。

(こんなことになったんだ)
 慢心。
 死者の蘇生という、人間には許されない最高の秘法を手にして、いつかこのようになっても取り返しがつくと安心していた。
(そんなことはないのに。死は……いつだって重い)
 ランドはロランの傍らに膝をつくと、震える手で顔をなで、薄く開いたまぶたを閉じさせた。自己嫌悪のあまり、死にたくなってくる。死んで、ロランに許しを請いたかった。
(ごめんよ。ロラン、ごめん……ぼくのせいで……)
「……ランド。お願い」
 振り向くと、ルナが強い目で見返してきた。こういう時、ルナはとても冷静だ。そうだ、自分を責めている場合ではない。やるべきことをやらなくては。ランドは必死に気力を奮い立たせた。
(でも、これはぼくの罪だ)

 地面に横たえたロランの左脇に、ランドが立って両手を高くかざす。その隣に、ルナが座って宝珠を抱えていた。
 ランドは目を閉じ、意識を高く飛ばすようにした。呪文を唱える時に、長い言葉は必要ない。ただ意識を集めてその名を唱えればいいだけだが、これから試そうとする魔法は違った。遠のく魂を追いかけるため、言葉が必要だった。
「天にまします、偉大なる神々へ。天地(あめつち)、理(ことわり)、万物流転を見守る精霊達へ。勇者ロトの末裔(すえ)が、心より祈念申し上げる。道半ばにして斃れし、我らが半身ロランを、今一度この世へ呼び戻したまえ。光よ、加護を。生命を司る竜の神よ、お慈悲を……」
 低い声で繰り返しながら、ランドの意識は暗闇に飛んでいた。人間は死ぬと、現世で心を残した者は幽霊となり、地上にとどまるものもいるが、大半はすぐに転生してしまうといわれる。死して神界へ上った魂は、それを預かる神霊にいったん抱かれ、浄化されたあと、次に生まれるべき人間へと宿るのだ。
(ロラン……ロラン、どこだい?)
 ランドは闇を飛びながらロランを捜した。ロランは勇者の子孫として、世界を救う重責を負っている。神々がすぐに転生をさせるはずがなかった。
 ならば神霊のみもとにとどまっているはず。ランドは懸命に高みを目指した。ぐんぐん上へ昇っていくと、大きな光の玉が浮いているのが見えた。
(あそこにいる)
 ランドは確信した。光の近くへ飛んでいくと、淡い金色のドレスを着た娘が、光の中でロランを抱きかかえていた。ロランは鎧を着ておらず、普段着の青い服の姿だった。
(あなたは……)
 娘の前に立ち、ランドは強い懐かしさを覚えた。娘は淡く微笑んだ。背まで流れる豊かな巻き毛の色は、ランドと同じ暁色。
 しかし、母ではない。母は明るい金髪で、ランドの妹アリシアがその面影を濃く継いでいる。ランドの父が、暁色の髪の毛を受け継いでいた。初代ローレシア王の2番目の息子から。
 ランドがその名を口にしようとすると、娘はそっとロランをランドに手渡した。重さは感じない。ロランは穏やかに眠っているようだった。
「――!」
 ランドははっと双眸を開いた。目の前には横たわるロラン、傍らには宝珠を抱いて祈り続けるルナがいる。ランドは掲げた両手に青白く光る球体を宿していた。ランドにしか見えていない、それはロランの魂だ。
ザオリク……!」
 戻れ、魂よ。その器に。ランドは呪文を唱え、掲げた両手をロランの体へ下ろした。宿った光はすっと胸元へ吸いこまれた。