蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・164

 ドラゴンは竜王の忠実な配下として知られ、ロラン達の先祖が竜王に勝利して以来、地上に姿を見せることはなかった。緑の鱗の竜はもっとも下位とされ、だからこそハーゴンの召喚にも応じたのだろうか。
 しかしそれでも、竜族の持つ威圧感は場を圧倒した。4体も出現している。ハーゴンがロラン達の到着を見越してここに配置していたのなら、完全なる罠といえよう。
 ごうっと空気がうなりをあげた。ドラゴン達が一斉に炎を吐いたのだ。ルナのまとう水の羽衣が熱に反応し、すさまじい水煙を発生させる。
「くっ――!」
 ロランはランドの前でロトの盾を構え、水煙でも防ぎきれない炎を受けとめた。すさまじい圧力と熱気に気が遠くなりかける。炎の噴射はほんの数秒だったが、とてつもなく長かった。
「ロラン!」
 盾も鎧も無傷だったが、それを持つ人間はたまったものではない。ロランは目の前が暗くなって膝を落としていた。ランドが倒れかかるロランの体を受けとめ、すぐにベホイミを唱える。
 意識を取り戻すと、ロランは稲妻の剣を握り直した。その間にも、キラーマシンが矢を複数つがえて一斉射撃してくる。ドラゴンが吠え、耳を聾した。炎の吐息が振りまかれ、鋭い爪が近くの岩を鮮やかに切り裂く。1頭の打ち振った尾が、ルカナンを唱えようと詠唱に入るルナをかすめ、ルナは悲鳴を上げて壁に叩きつけられた。
「ルナッ!」
「ランド、ルナを!」
 ルナはぐったりして動かない。ロランはランドへ救援を叫び、近くの1頭へ斬りかかった。刃のない稲妻の剣だが、斬りつけるときだけ魔力が側面に宿り、魔を切り裂く。ドラゴンの鱗は機械の装甲よりはるかに薄く感じた。やすやすと剣は皮下へ滑りこみ、刀身がまとう電光が肉を焼く。ドラゴンは苦痛に怒号を上げた。長い首を振ってロランへ食いつこうとする。剣を抜き、ロランはとどめを刺そうと剣を振りかぶった。その脇に、隙が生じた。
「っ――」
 ロランはどっと横様に倒れた。ロトの鎧の脇の下へ、長い矢が生えていた。キラーマシンの機械の目は、ロランの鎧のうちで一番隙間が大きい脇腹を見逃さなかったのだ。緻密な精度で撃たれた矢は、正確に装甲のない部分を貫いていた。
「ロラーン!」
 ルナが叫ぶ。激痛と出血に視界がせばまり、ロランは焦りながら立ち上がろうとした。そこへ、傷ついて怒り狂ったドラゴンが血の色をした口を開ける。
ザラキッ!!」
 一か八かのランドの詠唱に、ロランを襲おうとした1頭を含め、3頭ものドラゴンが息の詰まった悲鳴をあげて斃れた。
 ルナは、ベホマを唱えようとすべきか迷った。あの時と同じ――ロランがメタルハンターと対峙した時のように、体に矢が残ってしまっている。しかし、まずは出血を抑えて体力を回復させるのが先決か。
 ランドもそれを考えているのか、すぐにロランへ魔法を使おうとしない。ならば自分がと決断した時、キラーマシンが再び自分を狙ってきた。上半身を回転させながらの剣撃は、赤い光をまとって見えた。
 ルナは必死に攻撃の来ない方へ飛びのいた。勢い余って地面へ滑りこみ、手をひどくすりむく。だが体が急に身軽になったことに不安を覚え、慌てて自分やあたりを見回した。
「鞄が!」
 薬草や携帯食などを詰めた肩掛け鞄が、攻撃を終えて着地したキラーマシンの近くに落ちている。剣を避けた際、知らずに鞄のベルトがかすめていたのだ。
 すぐに取りに行かなければとルナが震える膝を叩いて立ち上がろうとした寸前、炎が燃え広がった。生き残ったドラゴンがルナへ炎を吐いたのだ。
「きゃああ!」
「このおおっ!」
 ロランの体力は驚異的だった。矢を体に受けたまま、ルナを襲ったドラゴンへ跳躍する。血の糸を引きながら、全体重を乗せてドラゴンの首へ稲妻の剣を落とした。硬い鱗を切り裂き、肉を貫いて、刃のない魔法の剣は金剛石にも例えられる竜族の骨をも断ち割った。どっと鮮血が噴出し、ロランも血潮に染まったが、ロトの武具や風のマントは魔物の血を霧消させ、穢れを残さない。
 なんという強靭な生命力か。ドラゴンは絶命しきれずに首のない体をのたうたせた。激しく振った太い尾が、力尽きて膝を折ったロランを捉える。
「がっ――!」
 まともに食らい、ロランは壁に背から叩きつけられた。目の前が暗転し、何も聞こえなくなる。