蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・161

 落ちる。
 落ちる。
 落ちる――。

 今度はロランが二人を両手につないでいたが、冷たく重い空気を切って矢のように落ちながら、これでは風のマントでも空気をはらめず助からないだろう、と考える間があるほどに長い落下だった。
 だが、風のマントは3人を見捨てなかった。先ほどと違い、高度が幸いしたのだろう。落とし穴の底へ激突する手前でマントが広がり、落下の衝撃を幾分和らげる。
「っ!!」
 どんっと体を地面に打ちつけて、3人は息が止まりそうになった。
「いたたぁ……。ロラン、ルナ、大丈夫かい?」
「もうやだ……、どうなってるの、この洞窟は?!」
 打撲はしたが、重傷ではないようだ。二人に安堵して、ロランは膝をついて立ち上がった。
「かなり落ちたな……。もしかしたら地上付近まで来てしまったかもしれない」
「ええっ? またのぼり直しなの?」
 ルナがうんざりした顔になる。ランドも同じ気持ちらしく、ため息をついた。仕方ない、とロランは二人を励ました。
「今度は落とし穴に落ちなければいいんだから。進むうちに正しい道順もできてくるはずだよ」
「……」
「なんだよ、ルナ?」
 ルナがじっと見つめてくるので、ロランが首を傾げると、ルナは柳眉を寄せた。
「その装備、重すぎるんじゃない? 落とし穴に落ちる時、いつもロランが先だわ」
「え」
 ロランはぎくりとした。ああ、とランドも手のひらで拳を打つ。
「そうだよねえ。ロランが一番重装備だから、脆くなった床も早く落ちるのかもね」
「う……」
 ロランは肩を落とした。言われてみればその通りだ。しかし2人の盾として先頭を行かねばならないのだから、先に罠にかかるのは仕方のないことでもあるのだが。
 そうと理解している上で、ランドはルナを見た。
「じゃあさ、君が先に歩けば? この中で一番身軽なわけだし」
「あ、そうね。――って、ばか!」
 ルナは名案といった顔を怒りに変えてランドの肩を平手でたたく。
「いたっ、なんだよう?」
「あんたね、ロランがあとを歩こうと、結局同じ所を歩くんだから落ちるに決まってるでしょう? 私だけ助かっても意味ないじゃない。それに――」
「それに?」
 ロランが後を追って尋ねると、ルナは今までになく不機嫌な顔になって目を逸らした。何やら剣呑な気配まで発してくる。やめよう、とランドがロランに耳打ちした。
「これ以上言うとたぶんぼくらの命が危ない」
「え?」
「だからね、ルナが先に歩いてそれでも床が落ちるってことはルナのたいじゅ――」
「わかった」
 ランドが皆まで言う前に、ルナがものすごい目つきでにらんできたので、ロランは慌ててランドの言葉をさえぎった。
「それより、ここに上への階段はあるのかな」
 ロランはあたりを見回した。この仕草も、もう何度目だろうと自分でも思うが、こうしないと状況を把握できないのだから仕方がない。
 ロンダルキアへの洞窟は、侵入者を中へ入れるのも困難なら、惑わし、何度も突き落としてくるのも常套のようだった。
 ロランの目が、ふと奥の方で留まる。何かが床に突き刺さっていた。無造作に、たった今誰かがそうしたように。
「ロラン?」
 ルナがいぶかしんでロランを見たが、構わずロランはそこへ歩み寄った。なぜか胸が高鳴っていた。息が期待で苦しくなる。
「これは……剣(つるぎ)、なのか?」
 ロランは言葉を失った。
 地面に先端のみめり込ませて立つものは、ロラン達が知る剣の形状とは似ても似つかぬものだった。
 刃渡りはロトの剣と同じ長剣の部類に入る。だが、大きく反り返った幅広の刀身には刃がなかった。赤銅と黄金を合わせたような未知の金属の板を、天から降り注いだ稲妻を切り取ったかのように加工し、その根元に握り手となる柄を組み合わせた、そんな姿だったからである。
 複雑な形をした刀身の面には、炸裂する稲妻を表した彫刻が施されており、刀身の中心には魔法文字が刻まれていた。古代文字に詳しいルナが、顔を近づけて読み上げる。
「……稲妻の剣って書いてあるわ」
「名は体を表すっていうけれど……」
 直裁だなあ、とランドが苦笑する。だが、ロランは笑えなかった。
(胸が……苦しい)
 打ちつける鼓動は、早く手に取れと急かしているようだ。ロランは震える指先で柄を握り、引き抜いた。
「あっ――!」
 見守るランドが目を見開く。ロランが剣を抜いて振りかざした瞬間、青白い稲妻が刀身を走ったからだ。まるで、主の到来に息を吹き返したかのように。
「魔法の剣なんだわ。その名前が示すように」
 ルナも興奮を隠せなかった。この世界で現存する魔法の剣は、光の剣しかない。長い年月の間に、作製技法が失われているからだ。