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蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・154

「すべての戦いが終わったら、あの宝を運び出した方がいいかもしれないな」
「ああ、オークキングの?」
 察しのいいランドに、ロランは微笑みかける。
「うん。あれは長年かけて、オーク達が人々から奪ったものだし……あれだけあれば、邪教団に襲撃された村とかも再建できそうだろ?」
「そうだね。それに、ルナの城や、ムーンブルクも再興できるだろうし……」
「あ、そうか……」
 ロランは軽く目を見開いた。ルナはローレシア王の養女になっている。つまり自分とも家族になったのだが、それはルナが独立してムーンブルクを継ぐまでのことなのだと忘れていた。
「そうだな……うん」
 ランドはロランの寂しげな横顔を見る。小さく自分にうなずき、言った。
「――あのさ」
「何だ?」
「……ぼく達、きっと、帰ろうね。自分の国に」
「なんだよ、急に」
 ランドのひたむきな顔つきに、ロランは驚いた。真顔になる。
「よせよ。あんまり、そういうことは考えたくない」
「どうして? 大事なことだよ。君がローレシアの城に置いてきたガイアの鎧が、君の形見になったらいけないだろ?」
「それはそうだけど。……でも、嫌なんだ。そんな風に約束してしまうと、何だか……」
 悪いことが起こりそうで。ロランは唇を噛んだ。
 せっかく忘れていたのに、あのオークキングが今際の際に言った「所有者が必ず大切な者を亡くす」という、ロトの鎧の因縁が思い出されてしまった。
 生きて帰ってこられないかもしれない。その確信や予感が、はっきりとあるわけではない。だが、ロンダルキアの洞窟の階層を上るにつれて強くなっていく魔物を見ると、その頂点に達する悪霊の神々やハーゴンの力は相当なものだということは、間違いない。
 今の自分達で勝てるのかもわからない。だが、漠然とした不安はあるが、ランドやルナと行けば何とかなりそうな――淡い期待感はあった。
「ロラン」
 ランドは思いつめた顔で一歩ロランに近づいた。
「もし何かあっても、必ずぼくがロランを守るからね」
「ランド……?」
「だから、もし……だよ? またぼくが倒れることがあっても、君達は先に進んでくれ。……約束」
「――っ」
 ロランは大きく息を吸いこんだ。そのまま怒鳴りたかった。
 そうやって、ランドは一人で何もかも背負おうとする。だから一人でハーゴンの呪いを受け、死に瀕したのではなかったか。
 だが、もし自分がランドだったら、とロランはすぐに考えた。
 大切な者を自分の犠牲で守る機会を得たなら、自分だって迷わず命を捧げるだろう。
 しかし、それで残された者はどうなる?
「……だめだ。約束なんか、しない」
 吸った息をゆっくりと吐き出し、ロランはランドを見て言った。ランドは傷ついた顔をした。
「どうして?」
「……誰かを守りたい気持ちは、ランドだけじゃないんだぞ」
 ランドは頬を打たれたように目を見開いた。空色の瞳がゆらめき、じわりと涙がにじむ。
「おっ、おい」
 まさか泣かせるとは思わなかったので、ロランは舵輪から片手を離し、ランドの顔へ伸ばした。
「泣くことないだろ……」
「ふぐぅ」
 ロランが頬に触れると、ランドは奇妙な声をあげてロランの肩に顔を伏せた。
「ごめん。なんかぼく、ずっと気を張ってたみたいだ。自分でも思ってたより……」
 鼻声でランドは言った。ロランは小刻みに震える背をなでて「うん」と応えた。ぽしゃぽしゃしたランドの暁色の髪の毛が自分と同じ高さにある。
 いつの間に背が伸びたんだろう。
「ランドも、強くなったよ。すごい呪文が使えるようになったし……力もだいぶ上がったんじゃないか?」
「そうかな……」
「そうだよ。だから、頼りにしてる」
 ランドは顔を上げた。泣いて鼻先が赤くなっている。ロランは、ぐいと親指でランドの目尻を拭ってやった。
「これからも、ずっと、な」
「……うん。うん」
 ランドはまたロランの肩に顔を伏せた。いつも朗らかなランドがこんなに涙もろいのは、ランドも心の底で、戦いの不安と重圧に苦しめられているからだろう。
 船に乗ればじっとしている時間が多く、どうしてもいろいろなことを考えてしまう。当番制なのに、この航海に出てからずっとルナが掃除と食事の係を買って出ているのは、彼女も体を動かして嫌な考えを追い払おうとしているからに違いない。
 自分が死ぬのは怖いが、それ以上に、ランドやルナが斃れてしまう姿が怖かった。ランドとルナも同じ思いだったのだ。
(絶対に守る)
 ランドの背を抱きながら、ロランは自分に誓った。
(どんな相手が出てきても、必ず倒す。そのために僕の力があるんだか、ら……?)
 ロランは眉根を寄せて顔を上げた。ランドも、目が覚めた猫のように体を離す。
「ランド、なんか……」
「焦げ臭い?」