蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・152

「遅いッ!!!」
 聖なる祠を守る壮年の賢者は、上品な顔を怒りに染め、勇者の子孫3人を怒鳴った。ロラン達は身を縮めて、素直に叱責に耐えるしかなかった。
 ロトの鎧を入手したロラン達は、ロンダルキア登頂をいったん中断し、ランドのリレミトの呪文で洞窟を出ると、真っ先にルプガナへルーラで飛んだ。
 そして船でアレフガルド大陸を南下し、ここ聖なる祠へ10日かけて到着したのである。
「まったく……。いつまでたってもロトの印を持ってこないから、私はてっきり、忘れ去られたかと思ったぞ。そして、まさか勇者の子孫を怒鳴るはめになるとは思わなんだ」
「本当に申し訳ありません……」
 ロランは膝を折って謝った。もうよい、と賢者は立ち上がるよううながした。
「ここは聖なる祠。かつて大魔王が世界を闇に包んだとき、精霊ルビスに使える強き妖精がここを守り、勇者ロトに虹のしずくを授けた、アレフガルドで最も聖なる場所。そしてロトの勇者が竜王征伐に向かう時、妖精の後を継いだ人間の賢者が、同じく、太陽の石と雨雲の杖を合わせて虹のしずくを授けた所なのだ。その際に求められたのが、まことの勇者の証であるロトの印。ここは、勇者が自らを世界に捧げ、人々のために戦わんとする誓いの場でもあるのだ」
 語り終え、賢者は厳格な面持ちをやや緩めた。ロランの着けているロトの鎧を感慨深く見つめる。
「それは、まさしく伝説のロトの鎧。剣と盾もそろい……あとはこの兜だけとなったな」
 賢者は、ロランからロトの印を受け取ると、祭壇に納められた箱に近づいた。正面の丸いくぼみに印をはめると、箱が展開して青い兜を見せる。
 美しい兜だった。左右のこめかみには鉤状に伸びる深紅の角飾りが付き、前立ては額から頭頂まで覆う大きな物で、金色に輝く不死鳥の紋章が赤い宝珠を胸に戴いて翼を広げている。視界を確保するために、翼の部分に沿った穴が開いていた。後頭部には、長く尾を引く赤い房飾りがあしらわれている。
「それが……ロトの兜?」
「左様」
 ロランの問いに、賢者は重々しくうなずく。
「この兜は、お前達の先祖であるロトの勇者さえ見つけられなかった、幻の品だ。ロトの鎧と対で存在していたらしいが、始祖である勇者ロトもこの兜を着けてはいなかったという」
「え、それでは……」
 ランドが眉を寄せると、賢者は兜に目を遣った。
「真贋(しんがん)はこの私にもわからぬ。だが、ずっと昔、ハーゴンの名が出る以前のことだ。この祠を守る私の父が、ここを訪れた一人の娘からこの兜を授かった。幼かった私もその娘を見たが、まるで透き通るような白い肌と緑色の髪を持ち、笛の音のような美しい声で伝えたのだ。いつか訪れる勇者の子孫のために、この兜を守ってほしい、とな」
「それって……」
 ルナが推測を口にする前に、賢者は言った。
「そう、おそらく妖精だ。髪の色といい、尖って長い耳といい、この世界から去っていった幻の種族そのものだった。おそらく、精霊ルビスから遣わされてこの世に下りてきたのだろう。だがロト王家にはそれを伝えなかった。いつかこの兜が必要とされる時、勇者自らが冒険を乗り越えてこの地に足を運び、手にするよう願っていたのだろうな」
 賢者はロラン達に背を向けると、うやうやしく祭壇から兜を取り上げた。
「ロラン。ひざまずきなさい」
 兜を持ってきた賢者の前に、ロランは言われたとおりひざまずいた。こうべを下げて、待つ。
「今ここに、神聖なる勇者ロトの武具がそろえり……。神よ、精霊よ。ロトの勇者達にご加護を」
 賢者は厳かに、ロランの頭に兜をかぶせた。しっくりとした重みが頭部に加わると、ロランの胸が燃えるように熱くなった。泣きたくなるような歓喜がこみあげてくる。
 立ち上がったロランの勇姿を見て、ランドがまた感極まって泣き、ルナも目頭をうるませて何度もうなずいていた。
「さあ、行くがよい、勇者達よ。そしてこの世界に恒久の平和を。――精霊の導きのままに……!」
 精霊の導きのままに。
 それは、かつてこの世界を創造した大地の精霊ルビスへの、古い祈りの言葉だった。今の世では忘れ去られているが、古き時代、人々は皆この祈りを唱えてルビスへ感謝を捧げ、それぞれの運命に沿おうとしていたのだった。
 3人はひざまずき、賢者へ感謝を表した。賢者はうなずき、天へ手を差し伸べた。ローレシア北海に祠を構える、賢者クラウスが見せた奇跡のように、暖かい光がロラン達の頭上に降り注いだ。
(行かなければ)
 ロランは二人とともに立ち上がり、祠を後にした。
 目指すは、精霊の祠へ――精霊ルビスのもとへ。