蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・151

「よかった、無事で……」
 たおやかな手で、ルナは鎧の肩当てをなでた。ランドが嬉々としてロランを見る。
「ねえロラン、さっそく着けてみなよ!」
「えっ、今か?」
「そうだよ、せっかく見つけたんだしさ」
「そうね、私も見たいわ。ロランが身に着けたところ」
 二人に見つめられ、ロランは赤くなった。子どものころ、晴れ着の試着を母にせがまれて、どうしようもなく照れたことを思い出す。
「……わかったよ。ちょっと、後ろ向いててくれ」
「一人でできる? 手伝おうか?」
 ランドが言ったが、ロランは鎧を取り出してみて、大丈夫だと思った。
「いい。完全装甲型だけど、一人で着けられるよう工夫されてる」
「別に隠れて着なくてもいいのに。裸にならなきゃいけないわけでもないでしょ?」
 ルナがちょっとすねて背中を向ける。ランドも後ろを向いた。ロランはガイアの鎧に手をかけ、装甲を一つ一つ外し始めた。
「……できたよ」
 気恥ずかしげにロランが報告すると、いそいそと振り向いたランドとルナは目を丸くした。
「――変、かな?」
 絶句する二人に、ロランが困って見つめると、二人はそろってかぶりを振った。
「そんなことない。……きれい。ロラン、あなた、絵物語で見る勇者ロトや初代にそっくりよ」
 頬を染めてルナが言った。傍らで、ランドがうっ、と声を詰まらせ、拳で口元を覆う。
「……ランド?」
 驚いたロランが近づくと、ランドはついに嗚咽をもらし、ぎゅっと両目を閉じた。赤らんだ頬に涙がいくつもこぼれ落ちる。
「ご、ごめん……なんか、感極まった。ロラン、かっこいいよ。すごく素敵だよ。君のその姿を見られて、本当によかった……!」
「お、おい……そこまで言わなくても……」
 顔を真っ赤にして泣くランドに、ロランは照れて笑った。しかしすぐに、ランドの涙は、彼自身が着ることのできなかったロトの鎧に託した思いではないか、とも思う。目が合うと、ランドは微笑んだ。それでいい、と言うように。
(やっぱりランドにはかなわないな)
 なんでもお見通しだ。けれどそれは、不快ではなかった。むしろ、心が一つにつながっていることに、安心した。
「着心地はどう? 動きづらくない?」
 ルナが興味深そうに尋ねる。非力ゆえにルナも鎧を装備できないが、彼女もロトの子孫なのだ。伝説の勇者が用いた武具を身に着けてみたいという気持ちは、ランドと変わらない。
「この鎧は本当に優れていると思う。全装甲(フルプレート)だけど、ちっとも重く感じないし」
 身をひねって自分でも鎧を眺めながら、ロランは言った。
 翼のように張り出した大きな肩当てと胸部に金の縁どりが施され、動きの妨げにならないよう、脇下は大きく開いている。その弱点を補うように、腕部分は二の腕から手の甲まで装甲があり、腹部は蛇腹様で、これも動きやすさに工夫した点だ。
 腰部分は装甲をつなぎあわせたスカート状になっており、脚部はつま先まで覆う仕様である。
 肩当てには、膝下まで覆う深紅のマントが付いており、雄々しさと高貴さを醸していた。
 完全に身体を覆う鎧は、身に着ける本人の寸法を測らないと作れない。しかし、こうして自分が身に着けられるということは、身長から体格まで、勇者ロトや初代と同じということだ。
(僕も勇者の子孫なんだな……。たとえ魔法が使えないにしても)
 胸甲の中心を飾る不死鳥の紋章に手を当て、ロランは改めて、自分もまた勇者の一人なのだと思えた。
「……ところでさ、水を差すようだけどさ」
 鼻水をすすりながら、ランドが言った。
「鎧はすごくかっこいいけど、何か……足りなくない?」
「え?」
 ルナも顎に人差し指を当て、ロランを見つめる。ロランもいぶかしんで髪に手をやった。その時、ランドがロランの頭を見て叫ぶ。
「兜! ロトの兜だよ!」
 ロランとルナは顔を見合わせ、しばし記憶をたどり……、
「あーっ!!」
 二人して叫んだのだった。