蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・143

 ロラン達は半日かけて深い森を抜けた。木々の隙間から見えていた青空は次第に曇り、盆地に広がる枯れた平原を薄暗く見せていた。
 盆地の周囲は峻厳な岩山に囲まれている。ロラン達から北側にひときわ高くそびえる山々が、目指すロンダルキア台地だ。
 3人は表情を厳しくし、無言でさらに西へと急いだ。やがて平原が薄い霧に包まれ始め、足元がじめじめと湿ってきた。かつてここも森だったのだろう。だが今はすべて枯れ果て、毒気を泥から噴き出す広大な湿地帯が広がっていた。
「すごいよ、見てよあれ。ふつう山ってさ、徐々に高くなるものじゃない? でもこれ、まるで空とつながってるみたいだ」
 ランドが霧に半ば隠れる北の方向を見て声を上げた。立ち止まり、ロランとルナも沼地の際を見て息をのむ。
 どのような奇跡が起これば、このような自然の造形が出来上がるのだろう。まるで神の手がそのままの形をそこに置いたかのように――もしくは、地の底から引き上げたとしか思えない、白骨のように白い岩壁がどこまでも高く広く、そびえているのだった。
 3人はそろって見上げたが、あまりの高さに頂上が見えず、かえって壁面がこちらに迫ってくるように感じられた。
 ランドがトラマナを唱え、毒沼の瘴気を無効化する。3人は毒沼を渡って、巨壁の膝元まで近づいた。
「ねえ、ロラン。ここなら、賢者クラウスの話していたあの"奇跡"も起こりそうじゃない?」
「ああ、試してみよう」
 ルナが言い、ロランは邪神の像が入った革袋から像を取り出した。両手で高く掲げる。かつて邪神官ハーゴンがそうしたように。
「――っ?!」
 像がぶるっとふるえた気がして、ロランはぎょっとした。像の二つあるどの口からか、甲高くおぞましい絶叫が発せられる。
「――!!」
 耳をつんざく叫びに、ロランは思わず像から両手を放し、後ろにいたランドとルナも固く目を閉じて耳を塞ぐ。
 像は赤々と輝きながら宙に浮いていた。慟哭するような叫びがいっそう高まった時、すさまじい振動がロラン達を襲った。
「うわあっ!」
 縦揺れの地震に足元をすくわれ、ロラン達は地面に膝を突いてこらえる。像の絶叫に呼応するように地鳴りが響き渡った。
「あ、あれ……!」
 ランドが驚いて霧の向こうを指指す。ロランとルナもそのさまを凝視していた。
 岩壁が轟音とともに、城一つ飲み込めるほどの裂け目を開きつつあったのだ。
 やがて像が絶叫をやめると、大地の鳴動も収まり、あたりには不気味なほどの静寂が残った。
 ぼちゃんと音がして、ロランははっと我に帰った。宙に浮いていた邪神の像が泥水の中に落ちたのだ。
 ロランは立ち上がると、落ちた像を拾い上げた。あの不気味な赤光はなく、像は、憎悪とも歓喜ともつかぬ目で天を見上げている。
 正直、こんな恐ろしいものはここで捨ててしまいたい気に駆られた。だが、ハーゴンに近づく唯一の物だから、捨てるわけにもいかない。
 また革袋に収めると、ロランは開いた裂け目を見上げた。奥には闇だけが広がり、光一つ差していない。
「行きましょう」
 ルナはいかずちの杖を両手に携え、固い声で言った。
「この先に、私達の戦いの終わりがあるんだわ」
「……なんかいろいろ、忘れ物した気がするけど」
 ま、いいか、とランドは気楽に言った。
「行こう、ロラン」
「――ああ」
 短く答え、ロランは先に立って歩きだした。
 深い深淵へ。