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蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・138

 「……」
 ルナは苦しげにうつむいた。
「魔物が出て来た!」
 傍らでランドが悲鳴を上げる。魔界から召喚された魔物の群れは、門が狭いらしく、入り口まぎわでひしめき合っていた。邪悪な産道を広げるべく、地獄の使いの呪詛が大きくなる。
 ルナは決然と顔を上げた。
「ロラン、ランド。私、もう一度間違っていい?」
「え――?」
 ロランが眉を寄せると、ルナは張りつめた面持ちで言った。
「私が何かやろうとすると、いつも大変なことになるでしょう? だから今度も……あなた達に迷惑をかけるわ、きっと」
「どういうことだよ?」
 ランドが焦れた。魔物の群れは門からせり出そうとしている。ルナは急いで言った。
「あいつよりもっと強い魔力をぶつければ、結界も魔法陣も消えるはず。でも――そのあとはどうなるかわからない」
「やってくれ!」
 間髪入れず、ロランはルナに言った。
「大群が来たらそれこそおしまいだ。止められるなら、君に頼む!」
「――わかった。離れていて」
 ルナは二人を下がらせると、杖を前に突きだして意識を集中させた。金色の光の粒子が杖の先端に集まる。
イオナズンだ!!」
 ランドが叫んだ次の瞬間、集まった光が一個の球体になった。そして――
「――っ!!」
 光球が炸裂し、爆風が轟音とともに堂内に広がった。ロランとランドは反射的に目を閉じ床に伏せる。生まれる前に殺されていく魔物達の怨嗟と絶叫が爆音に混じり、程なくして消えた。
「……やったか?」
 おそるおそる二人が顔を上げると、肩で息をするルナの後ろ姿が見えた。祭壇の上の地獄の使いと魔法陣は跡形もなくなっている。
「ルナ!」
 魔力を使い切り、ルナが膝を崩して座り込んだ。ロランとランドは駆け寄ってルナを支えようとしたが、ルナはかぶりを振って、蒼白な指で祭壇を示す。
「邪神の像は無事よ。早くあれを取って……」
「よし」
 ランドがルナに力の盾をかざすのを見てから、ロランは祭壇に近づいた。邪神の像は何事もなかったかのように壇上に転がっている。
「これが……」
 ロランは膝をつき、片手を伸ばした。それは、双角を持つ三つ目の髑髏に、凶悪な笑みを浮かべた翼持つ蛇が巻き付く、おぞましい姿をしていた。像といいながら、髑髏に宿る目の光は爛々とこちらを見つめ、蛇の緑色をした鱗も生々しい。
 まるで生きているようだったが、意を決してロランは像をつかんだ。蛇が動くかと思ったが、何の抵抗もなく手に収まったのがかえって不気味だった。
「すごいよ、ルナ。イオナズンが使えたんだね」
 ランドが感心すると、ルナは苦く微笑んだ。
「ええ、満月の塔ではぐれメタルをやっつけちゃった時、覚えたの。でもこの威力でしょう、むやみに使ったらどんな影響が出るかわからないから、使わないでいたの」
「でもおかげで助かったよ。さすがルナだな」
 あらかじめ用意していた革袋に像を入れたロランが褒めると、ルナは「ううん」と言った。
「私もうまくいくとは思ってなかったから。でも洞窟が壊れなくてよかったわね」
「……でもない、かな?」
 ランドが即座に否定した。ロランもはっとする。足元が微妙に揺れていた。
「まずいよ、イオナズンのせいで洞窟が崩れるかもしれない」
「ああ、やっぱり……!」
 ルナが泣きそうになって顔を両手で覆った。
「ごめんなさい。やっぱりまたやっちゃった……!」
「いいよ、まずそれよりも、ここから出ないと!」
 ロランが言うと、揺れが急にひどくなった。あわわわとランドがうろたえてロランとルナを見た。
「どうしよう、ぼく、もうリレミトを使えないよ!」
「私も……さっきので、もう……」
「何だって?!」
 ロランは愕然とした。まだ余力があると思っていたのだ。
「走ろう!」
 ロランは叫んだ。それしか手段はない。3人は急いでもと来た道を走り出した。だが、通ってきた回廊はあふれた溶岩に覆われ、行き場をなくしていた。
「そんな……!」
 ロランは立ち止まり、唇をかんだ。今のランドはトラマナも使えない。ルナの水の羽衣は、まとう本人しか冷気を与えてくれない。道は、もうなかった。
「もうだめだ……」
 ランドがへたりこみそうになり、ロランの肩につかまってこらえる。ルナはごめんなさい、と繰り返した。
「もっと別の方法があったかもしれないのに……」
「よすんだ。終わったことを責めてもしょうがないよ。……僕らの運も、これまでだったってことかもな」
「そんなぁ……」
 くう、とランドが鼻声になった。ルナも涙ぐんでいる。ロランもあとは何もいえず、波打つ溶岩を見つめていた。
 不思議と、焼けつくような無念さは浮かばなかった。ここに来れたのが奇跡と言っていいくらいだ。自分はやれるだけのことをやった。
 ここで命尽きても、ランドとルナが一緒なら、それでいい。疲れ果てた心で、そう思っていた。
「もう、祈ってもどうしようもないわよね。神様はいつだって助けてくれなかったんだから」
 自棄になって、珍しくルナが皮肉を言った。ハーゴンをこの手で倒すという願いは、この中で誰よりも強い。悔しさは計り知れなかった。
「ルナ、そんなこと言ったらだめだよ。どこかで見てるかもしれないよ?」
 ランドが弱々しくなだめる。ルナは答えず、あふれた悔し涙を指先でぬぐった。
 その中指に光る青い輝きを見て、ロランは背筋にしびれが走った。
「ルナ、それ……!」
「え?」
 ルナはきょとんとして、ロランが指さす先を見つめた。ランドも気づき、大声を上げる。
「祈りの指輪!!」
 3人そろって叫んでいた。風の塔で見つけた祈りの指輪は、ルナが身に着けたまま使わずにあった。
「お願い……指輪よ!」
 ルナは手を組んで祈った。台座の青い石が淡く光る。閉じていた目をぱっと見開き、ロランとランドを傍に寄せると、杖を高くかかげた。
リレミト!」


 ロラン達が船に乗りこむのと、海底洞窟が火を吹き上げるのと同時だった。噴火の余波を受け、船は津波に押し流される。暗礁に船底が接触する寸前、船は瞬時にかき消えた。ランドも祈りの指輪を使って魔力を回復させ、ルーラを唱えたのである。
 海底洞窟は無数の魔物を胎内に入れたまま、口から大量の溶岩を噴き上げた。崩壊した洞窟の入り口に海水が激流となって流れ込み、蒸気を上げて溶岩を固めていく。
 やがて炎と水の戦いが収まると、奇岩群はそのほとんどを水中に没し、洞窟のあった岩頭もまた、先端だけを海面にのぞかせるだけとなっていた。