蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・137

 地下5階。溶岩の海を抜けた場所にあった階段を下りて、溶岩に囲まれた曲がりくねった長い回廊を渡る。これまでの空間は自然洞を生かした造りだったが、ここは整然と壁や床が平らに整えられていた。
「嫌な気配がする……」
 すぐ後ろを行くランドがつぶやいた。ロランもこの階に降りた時から、肌に突き刺さるような悪意を感じていた。
 奥へ進むにつれ、低い祝詞が聞こえてくる。3人はおのずと足音をひそめ、近づいた。
 左右にかがり火を備えた入り口の向こうには石畳が敷かれた通路があり、両脇を禍々しい姿の像が4体立って守っていた。奥には燃えたぎる溶岩を背にした祭壇があり、二人の神官が一心に祈っている。祝詞の主は彼らだろう。
 熱気による陽炎で、祭壇に祀られている妖しげな像がかすかに揺らめいていた。あれが邪神の像に違いない。
「何者だ?」
 ロラン達が礼拝堂に足を踏み入れると、すかさず神官達が振り向いた。角の付いた単眼の仮面――地獄の使いだ。
「ここは貴様らの入って良いところではない」
「罪は血で清めてやる。その上で我らが神の贄にしてやろう!」
「来るぞ!」
 ロランは背から抜刀した。棘付きの双棍棒を携えた地獄の使い達は、こちらへ来ずに身構える体勢を取った。ならば撃って出るまでと、ロラン達は魔物へ向かって走る。
「はあっ!」
 裂帛の気合を込め、ロランは1体へ斬りかかる。だが相手は棍棒を交差させて受けとめ、押し返した。
ベギラマ!」
 もう1体がベギラマを唱える。一瞬の白熱の後、炎幕がロラン達を襲った。
「ぐぅっ!」
 脇からの攻撃に盾が間に合わず、ロランは炎を受けて地面に転がった。
ベホイミ!」
 水の羽衣が反応し、ほとんど被害を被らなかったルナがロランに回復魔法をかける。ランドは力の盾をかざし、自分を回復させる。頬と左上腕の火傷が消え、ひりつく痛みが引くと、ロランは剣を握り直して再び斬りかかる。
 最初にロランの攻撃を受けとめた1体が、スクルトを唱えた。詠唱の隙を突いたロランの攻撃をまともに受けてよろめいたが、防御上昇の効果のために傷は浅い。
ベホマ
 相方が冷静に全快させ、回復したもう片方は双棍棒でランドへ殴りかかった。ランドは紙一重で避けたが、反射的に魔法を撃とうとして口をつぐんだ。
(いけない、うっかりベギラマなんて唱えたら、ここから出られなくなる)
 はやぶさの剣を抜き、ランドは地獄の使いへ斬りかかった。ルナはいかずちの杖の電撃で援護する。
「くっ、これじゃ埒(らち)があかない!」
 ロランは舌打ちした。懸命に3人で攻撃するが、相手の連係が上だった。こちらは魔力が底を突きかけて思いきった攻撃ができずにいるが、あちらは体力、魔力とも余裕がある。スクルトの重ね掛けでこちらの攻撃はほとんど効かなくなり、傷を負わせてもベホマでお互いに回復してしまう。
 悪魔神官デモニスにも回復魔法で苦戦させられたが、同じ戦い方の相手が2体そろっていると、こうも厄介なのか。
「ルナ、ルカナンを! こっちの剣が通らない!」
「やってみる!」
 ロランの指示に、ルナはいかずちの杖を縦に構えて集中した。ふっと青い光が2体にともり、呪文の効果があったことを示す。ロランはランドに目配せした。ランドは意を汲み、はやぶさの剣で2体へ斬りかかった。ランドの神速の剣技が2体を切り裂く。
 双方同時攻撃に、地獄の使い達は怯んだ。相方を回復すべきか、ロラン達を攻めるか迷いが生じたのだ。
「いやあっ!」
 ロランは盾を持つ手を剣の柄に添え、両手で1体を斬り伏せた。絶叫し、魔物は黒い影となって消滅する。
「おのれっ」
 残った地獄の使いは、背後を振り向いた。
「ここで像を奪われるよりは……ハーゴン様、お許しを」
「何を……?!」
 地獄の使いが祭壇に走ったのを見て、ロラン達はたじろいだ。まさか、像を溶岩に投げ捨てる気なのか。
 だが、祭壇に駆け上がった地獄の使いは像を両手で捧げ持ち、ロラン達には聞き取れない呪詛を早口で唱え始めた。間を置かず、背後に巨大な魔法陣が出現する。暗い紫色の円陣の中央がぽっかりと深淵を広げるのを見て、ルナが叫んだ。
「あいつ、魔物を召喚する気だわ! きっとあれが魔界の入り口なのよ!」
「何だって?!」
 ロランとランドはぎょっとして魔法陣を見た。黒煙のような瘴気がどっと吹き出し、おぞましい声がとどろいてくる。
「止めなきゃ!」
 ランドはベギラマを唱えていた。最後の魔力で放たれた火炎呪文は、直撃する寸前勢いを失い、敵の前で消し飛んでしまった。愕然とするランドを背に、ロランは決死の思いで祭壇に駆け上がる。だが、見えない壁が体を弾き飛ばし、ロランは床へ転がり落ちていた。
「ロラン、大丈夫?!」
 ルナが駆け寄り、助け起こした。打撲の痛みにうめきながら、ロランは絶望的に地獄の使いを見た。
「どうすればいいんだ……このままじゃ、魔物の大群が押し寄せてくるぞ」