蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・136

 だが、洞窟は予想以上に複雑な構造を成していた。いくつもの分かれ道と広大な空間に点在する下への階段に惑わされ、やっとたどり着いた地下4階には、さらに広い溶岩の海があった。
「もし地獄があるんだとしたら……ここかな……」
 疲弊した顔で、ランドが溶岩の海を見つめて言った。何度も道を間違ったために、遭遇する魔物との戦闘も多かった。魔力の大部分を使い切り、全員の回復はランドの力の盾を使い回して、なんとかしのいでいた。
 だがここに来る途中、ロランが通路脇の小部屋に置かれていた宝箱を開けてしまい、箱から飛んできた短剣に腹を刺されてしまった。致命傷には至らなかったが、刃には毒が塗られており、ルナがベホイミを、ランドが解毒の呪文キアリーを使って回復させるという手間をかけていた。
「宝箱に罠があるなんてな……。ごめん、うかつだった。余計に魔法使わせちゃったな」
 ロランが済まなそうな顔をすると、ランドは笑って首を振る。
「気にするなよ。宝箱があれば、誰だって開けたくなるものさ。止めなかったぼくらも悪いんだし」
「そうよ。ロランは鍛えてるからあの程度で済んだけど、もし私達だったら死んでたかもね」
 ルナも慰める。ありがとう、とロランはうなずき、ランドを見た。ランドもうなずき返し、何度目かのトラマナを唱える。この魔法は、地形効果のある場所から出てしまうと効果が切れるのだ。そのため、溶岩に踏みこむたびにかけ直さなければならないのだった。
(早くここから出ないと、二人が倒れてしまう。一体どこにあるんだ、邪神の祭壇は)
 焦りをこらえつつ、ロランはまだ行っていない階段を探して溶岩の海を渡る。そこへ、溶岩の熱さをものともせず、キラータイガー3頭とスカルナイトが2体襲いかかってきた。
 キラータイガーのたくましい四肢が、粘つく溶岩を蹴立ててロランに跳びかかる。とっさに盾でやり過ごし、ロランはまずスカルナイトに向き直った。白骨の体に赤い兜と盾、胸当てで武装した死人戦士は、白刃を振るってロランに斬りかかった。ロトの盾で受けとめ、押し返して相手の体勢を崩すと、首筋から肋骨へ斜めに剣を振り下ろす。人骨が断たれる乾いた感触が刃を通して伝わってきた。
 ロランの背後で、ランドは光の剣をかざし、キラータイガーの目をくらませる。魔物は一瞬とまどいを見せたが、音と嗅覚でランド達を見つけた。
「うわっ、効いてない!」
 咆哮を上げて跳びかかった1体を避け、ランドが慌てた。
ラリホー!」
 魔力が残り少なかったが、命には替えられない。ルナは眠りの魔法を使った。だが効果はなく、3頭が一斉にルナ目がけて襲いかかってくる。
「――っ!」
 避けるすべがなく、ルナが目を見開いて襲い来る死を凝視した時。
ザラキ!」
 懸命なランドの声が響いた。ルナに襲いかかった2頭が、跳躍した姿勢でびくりと痙攣する。そのまま凍りついたように落下した。もう1頭は、駆けつけたロランが横から体当たりし、かろうじてルナを牙から守る。
 その隙を突いて、残ったスカルナイトがルナに斬りかかった。ルナは振り向き、いかずちの杖を振るって電撃を飛ばす。衝撃に弾かれたスカルナイトは、バラバラになりながら溶岩の中に沈んでいった。それまで溶岩の上でも歩行できたのは、魔物達にも妖しい力が働いていたからだろうか。
 ロランはキラータイガーの首を両断すると、血糊を払って剣を鞘に納めた。
「また新しい呪文を覚えたんだな、ランド」
「うん……ザラキっていう、相手の息の根を一瞬で止めてしまう魔法さ。でも確実に効くわけじゃないから、なるべく使いたくなかった」
 ランドは目を逸らして言った。心根が優しいゆえに、死の呪文のことを華々しく語りたくないのだろう。
「でも助かったわ。ありがとう、ランド。ロランも」
 ルナが元気づけるように微笑む。
「二人とも、まだ行けそうか?」
「うん、大丈夫。帰りのリレミトとルーラの分は残ってるよ」
「私は、それよりもう少し余裕あるかしらね」
「そうか……」
 ロランは一度戻ろうかと思った。魔力の余分はぴんと来ないが、二人にはもう余力がないことだけはわかる。だが、ランドがロランの背に手を当てた。
「行こう。きっともうすぐだよ」
 傍らを見ると、ルナも微笑んで小さくうなずく。月のかけらは失われてしまった。ここで後退し、またこの洞窟への道が閉ざされてしまったら、もう邪神の像を入手することができなくなる。
「ああ。頑張ろう」
 ロランも淡く微笑を返し、前を向いた。