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蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・129

【満月の塔】

 満月の塔へ入るためには、大陸の川からさかのぼって、塔のある島へ侵入しなければならない。
 ロラン達はまず、ルーラでペルポイの町まで行った。その船着き場から大陸沿いに北へ進み、塔へつながる河口から上流へ向かった。そして、およそ5日かけて3人は満月の塔がたたずむ島へ上陸したのだった。
「すごく古そうだね……ほとんど木に覆われてるよ」
 密林の中心に忽然と現れた塔を見上げ、ランドが感嘆をもらした。苔色の塔はあまり大きくはないが、外壁に月や星などが彫られた、装飾的な建造物だった。名前のように、月の信仰に使われていたのだろうか。
 ツタや寄生植物が塔を衣のように覆い、古色蒼然とした様は、これまでに見た遺跡の中でもっとも古いように思われた。
 ロランが入り口の大扉に手をかけたが、びくともしない。鍵がかかっているようだ。ランドが銀の鍵を試すと、あっさりと内側へ開いた
 塔に込められた魔法の力は生きているようだ。多くの冒険者が、いまだ攻略していないという話もうなずける。彼らは銀の鍵を持っていなかっただろうから。
 内部は、中央を広間とした複数の小部屋で構成されていた。淡い緑色をした石材の正体は不明で、外壁は神聖な印象があったが、広間には禍々しい怪物の像が四体安置されていた。
「なんだろ、これ……」
 今にも動き出しそうな像を見上げ、ランドが顔をしかめる。ルナも難しい顔をしてあたりを見回した。
「この塔って、良い目的で造られたんじゃないのね、きっと」
「だろうな。――さっそく来たぞ」
 薄暗がりからぞろぞろと寄ってきた群れを見て、ロランが背のロトの剣を抜く。襲いかかってきたのは、青黒い肌をした死人グールと、ミイラ男の上位種マミーだ。死体達は濁った両目に鈍い黄色の光を宿していた。邪悪な力に操られている証だ。
ベギラマ!」
 ランドが右手を突き出し、呪文を唱えた。襲い来る死人の群れを一斉に焼き払う。かなりの数が倒れたが、生き残ったものがつかみかかってきた。
 ロランはロトの剣で薙ぎ払った。轟、と剣の一閃が空気圧を伴って一群を薙ぎ、ばらばらと青黒い手足が舞う。
 グール達は腐った声帯でギラを唱える。放たれた火球が矢のごとくロランに襲いかかった。脚を開き、ロランはロトの盾で受けとめる。何発も火球が炸裂する衝撃を踏みこらえ、攻撃がやんだところで再び斬りかかった。
 ルナはいかずちの杖を振るい、電撃を放ってマミーの一群を撃った。感電した数匹が身を震わせたが、致命傷には至らない。腕に巻きつけた包帯を鞭のように振るって、数匹がルナの手足や首を捕らえた。
 ぎりぎりと締め上げられ、ルナは首を絞める包帯をほどこうと手をかける。だが締め付けが強く、腕に力が入らない。
「ルナっ!」
 ランドが素早く腰から剣を抜いてルナのもとへ走った。手にするのははやぶさの剣だ。水門を開けるためにテパへ行った時、帰りに購入したのである。愛用していた魔道士の杖を売り、貯めていたお金を合わせてやっと手に入れることができたのだ。ロランの父からもらった光の剣は、マントの上に背負っていた。
 空を切り裂く軽やかな音とともに、ランドのはやぶさの剣が舞った。ルナを拘束していた包帯が散り散りに裂ける。
「助かったわ、ありがと」
「うん」
 ほっとするルナにランドは微笑むと、はやぶさの剣を素早く鞘に収め、背から光の剣を抜いた。両手で高々とかざす。薄暗い塔内を閃光が覆った。魔物達が、くぐもった悲鳴を上げてのけぞる。
 ルナが再び電撃を放ち、ロランはしぶとく残る魔物達を片っ端から斬り捨てていった。ランドも光の剣で応戦する。
「いやー、装備の力はありがたいなぁ」
 魔物を全滅させたあと、ランドは光の剣をぽんぽんともう片方の手のひらに打ちつけた。自分の剣を納め、ロランはやや苦笑する。
「何言ってるんだ。強くなったよ、ランドは」
「えへへ……そうかなぁ」
 ランドは照れたが、本当に強くなった、とロランは思った。
 旅を始めたころは、数回魔法を唱えただけで真っ青になっていたのに、今ではさまざまな魔法を使っても余裕が出るようになった。力もずいぶん上がっている。
(もう、僕が守ってあげようとか、考えたらいけないのかもしれないな)
 大事にしていたものが手もとを離れるような寂しさに、ロランの胸がつきりと痛くなった。
はやぶさの剣も似合ってるわよ。ランドはもともと、そっちが得意なんだものね」
 ロランの感慨をよそに、ルナも感心してランドの細身の剣を眺めた。
 細剣(さいけん)の技は、貴族や王族などがたしなみとして覚える技術で、一般には普及していない。高度な技術を習得するより、適当に振ってもそれなりの打撃を与えられる広刃の剣の方が扱いやすいので、一般の武器屋では細剣を取り扱っていないのである。
 しかし長い年月の間に磨き上げられた細剣の技は、ランドの体に合っているようだった。ロランも細剣の技を習得しているが、身のこなしの華麗さは一歩譲るだろう。
「さて……どっちへ行ったものかな」
 光の剣も背に収め、ランドはあたりを見回した。薄暗い広間には、例によって扉のない小部屋が複数あり、中に階段があるようだ。
「一つずつ当たっていくしかないだろうな」
 ロランは言い、目についた部屋へ先に歩きだした。
 いつかランドがロランの相棒になってくれるだろうと、父が話してくれたことがある。
 あの時は純粋にうれしかった。孤独な旅に頼れる仲間がいるのだと、胸が熱くなった。
 だが今は、自分と肩を並べつつある友に、ほんの少し羨望を覚える。
 ――自分にないものを悔やんだり、無理に求めずともよい。完全でないからこそ、人は助け合える。……
(ああ、わかってる。でもやっぱり、ランドはすごいなって思うよ)
 脳裏に甦った父の声に、ロランは心の中で答えた。