蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・128

【水門を開く】

「引き受けてくれてよかったね。10日は長いけど、羽衣ができる時間にしては、すごく早いよ」
 モハメの家を出て、ランドが言った。
「そうね。織物って普通、何か月もかかるものだし。それに、待ってる間、私達にはやることがあるからちょうどいいわ」
「ああ。満月の塔へ行かないとな」
 そのためには、干上がった川の上流に水源の水を流さなければならない。村の北にある森の中の湖に、水門はある。雨季と乾季があるこの地方では、水の量を調節することで治水をし、また、豊富な水を動力にして機関を動かして、高度な装備作りを行っていたのだった。
 村で生活する分には、水に困ってはいない。村の中にも澄んだ小川が流れているからだ。
 だが、装備を作る鍛冶職人は飲んだくれていた。ロラン達が水門のある森にくると、筋骨隆々とした男が、酒瓶を手に木陰でうたたねをしていた。何をしているのかと問えば、仕事がないからこうして飲んでいるのだと言う。
「ジーナには内緒だぞ。見つかったらまた怒鳴られるからよぉ」
「水門の管理の人かと思ったよ」
 ランドが笑った。酔いどれは「水門?」と酔ってぼんやりした目で3人を見上げた。その顔がみるみる喜色に染まる。
「おおっ、あんた達、まさか水門の鍵を取り戻してくれたのか?」
「はい。ここに」
 ロランが鍵を見せると、男は酒瓶を放り出して立ち上がった。
「すげえ! 本物だぜ! おおっ、さっそく水門を開けてくれよ! みんな喜ぶぞぉ、俺は村長に知らせてくる!」
 酔いどれは笑いながら村へと駆け戻っていった。あらら、とルナが苦笑する。
「何の疑いもなく行っちゃったわ。――そういえば、私達、村長さんに許可をもらわずにここへ来たわね」
「そうだねぇ。でもあの人が知らせてくれるっていうなら、いいんじゃない?」
「はは、だな」
 ロラン達は森の中を進み、干上がった川を見つけた。何年も水を通していない川は、生き物の気配も当然ない。寒々としたそこへ水を流しに行くのだと思うと、人助けをしているなと実感する。
 しばらく上流へ向かうと、巨大な石造りの水門が見えてきた。城門もかくやというほどの鉄の板が湖の水をせき止めている。ロラン達は裏手にまわると、中に入る鉄格子を見つけた。
「牢屋の鍵があってよかったなぁ」
 ロランが牢屋の鍵を使って鉄格子の扉を開けるのを見て、ランドがのんきに言った。ルナが小さく吹き出す。中に入ると、大きなバルブが設置されていた。回して使うのかと思ったら、バルブの中心に鍵穴がある。
 ロランは水門の鍵をポーチから取り出した。
「ここに鍵を使うのかな」
「そうね、やってみたら?」
 ロランは水門の鍵を差し込んでみた。案の定、鍵はぴたりとはまる。鍵を右に回してみると、バルブはやや抵抗を見せたが、すんなり回転し始めた。内部で機関が作動したのだ。鈍い震動が床に伝わり、内部で巨大な歯車が噛み合う重々しい音が聞こえてくる。
 ランドが真っ先に外に出て、きしむ音をたてて水門が上昇するのを見た。
「開いてる! わあ、水が出てきたよ!」
「ほんと。すごいわ!」
 ルナも続いて歓声を上げる。鍵を一定まで回転させると、そこで止まったので、ロランも表に出て水門を見た。
「うわあ……滝みたいだな」
 目一杯開いた水門から、白く輝きながら水があふれ出ていた。乾ききった川に水が流れて行く様子は圧巻だ。村の方で歓声が聞こえた。水が村へ届くのが見えたのだろう。
「これで満月の塔へ行けるんだな。長かったな……」
 ロランがつぶやくと、そうだねぇ、とランドが言った。
「羽衣ができるまで、10日もあってよかったよね。だってさ、また海から川を上らないといけないしさ」
「……え?」
 ロランとルナの声が重なった。疑問と不審があらわになった二人の顔に、ランドはのほほんと答える。
「だからさぁ。満月の塔に行くにはさ、船で島に渡らなきゃ。テパにはルーラで来られたけど、船はついてきてないんだよね。今ごろ、どっかの岸辺で寂しくぼくらを待ってるよ」
「え……」
 ロランとルナは呆然としていた。楽ができるとすっかり思いこんでいただけに、落胆も激しかった。外海から大陸に川で侵入する行程をまた行かなければならないとは。
 てっきり、村の前に船が到着しているとばかり思っていたのだ。
「まあ、今度は陸路がないから、前より楽なんじゃない?」
 あははとランドは笑ったが、そこに至る長旅を思えば、あまり気休めにはならなかった二人だった。