蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・127

【ドン・モハメ再び】

 聖なる織機を携えたロランが古びた戸をたたくと、仏頂面の小柄な老人が無言で現れた。
「何の用じゃ」
「聖なる織機を持ってきました」
 真昼の光を背に、ロランは穏やかに答えた。老人――最後の匠であるドン・モハメは、ロランの背に輝く金色の箱を見上げた。短く言う。
「入れ」


 北のお告げ所を出たロラン達は、ルーラでテパへと飛んだ。
 最初に村を訪れた時は、海から川をさかのぼり、山脈と密林を越えての苦しい旅だった。
 思い出すのも苦しいのは、行きの道中は枯れた岩山で水を確保するのが大変だったことと、密林では夜に虫が這い寄って来て、ろくに眠れなかったことである。"ぞわぞわ"が嫌いなルナは一番消耗が激しかった。
 隙を見ては襲ってきた魔物の群れも、言わずもがなである。移動呪文の恩恵をしみじみ噛みしめるのは、こんな時だ。
 村に着いてすぐ、ロラン達はモハメの家を村人から聞き出し、そこを尋ねたのだった。
「何を頼みに来たのか、聞かんでもわかる」
 板の間に上がり、モハメは3人を振り向いた。ちらりと足元を見る。靴を脱げということだろう。ロラン達も、モハメに倣って靴を脱ぎ、板の間に上がった。
 簡素な家だった。木造で土間があり、かまどと台所がある。布団は板の間に直接敷いてあり、あとはタンスと足の短い卓があるきりだ。
「天露の糸と、聖なる織機です」
 ロランは背負っていた織機を慎重に床へ下ろした。その上に、ポーチから出した天露の糸を載せる。
「これで水の羽衣を織っていただけるでしょうか」
「ふん」
 二つの品を見て、モハメは鼻を鳴らした。
「道具はそろえてきたか。――織機があのこそ泥に盗まれて、これでわしも楽になれると思ったがの。まだ働けというのか」
「ご無理にとはいいません。ですが、できることなら、僕らは羽衣が欲しいのです」
 立っていると老人を見おろしていなければならないので、ロランは膝を折って座った。ランドとルナも行儀よく座る。
「お前さん達、どこでこれを手に入れた?」
「糸はドラゴンの角から。織機は、ザハンの島で見つけました。そこで、風のマントを作っていたモハルという方に会いました」
 ルナが答えると、モハメは眉をぴくりと動かした。
「あのくそ爺に会ったか。まだ生きていたとはな」
「……ずいぶん、仲がお悪いようですね」
 眉を下げてランドが問う。モハメは囲炉裏に火を起こすと、鉄瓶をかけて湯を沸かし始めた。
「あいつが勝手にひがんでおるだけだ。風の衣を織るのは実入りが悪いからの」
 そう言うモハメからは、それほどの険が感じられない。モハルもそうだった。最後の匠として、お互い交流もあったに違いない。腕を認め合い、憎まれ口をたたきつつも実は、仲がよいのかもしれなかった。
「あんた達、なんで旅をしている? なぜ羽衣を求める」
「僕達は、世界を蝕む邪神官ハーゴンを倒すために旅を続けています。水の羽衣は、炎を防ぐ力を持つとか。これから強敵に挑むかも知れない。だからこちらも、強い装備が欲しいのです」
 鋭い老人のまなざしから顔を逸らさず、ロランは正直に答えた。モハメはしばらくロランの目を見ていたが、やがてその傍らの織機を向いた。
「よこせ」
 ロランが織機をモハメの前に置いた。モハメは、我が子をなでるように正方形の箱をさする。しわ深い手が、上辺にはめられている人魚の像を押した。すると、箱はあっさりと展開した。正方形を形作っていた面までばらばらになる。
 驚くロラン達の目の前で、モハメは手慣れた様子で部品を組み立てはじめた。たちまち、四つの尖塔のような支柱ができ、胸木と踏み板などが組まれる。織機のてっぺんに瞑目する人魚の像を置いて、織機は完成した。
「はあ……」
 あまりの神業に、ランドが気の抜けた吐息をつく。
 完成した織機は、ちょうどモハメの体格に合うくらい小さかった。おそらくモハメは、ホビットの血を引いているのかもしれない、とロラン達は気づいた。
 ホビットは、ロトの装備一式を作った職人達に加わっていたと伝説にある。気難しいが手先が器用で、魔法の道具作りにも長けていたらしい。だがこの世界には存在しない種族である。大昔に上の世界から流れてきた一族が、その血と羽衣作りの技を伝えたのだろう。
「10日」
 織機に天露の糸をかけながら、モハメはロラン達の方を見ずに言った。
「10日待て。そのころにはできあがっているじゃろう」
「――あ、ありがとうございます!」
 ロランが顔を輝かせて礼を言うと、早く出て行け、とモハメは織機を調整しながら言った。
「気が散る」