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蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・122

「そろそろ往生なさい。憐れなロトの末裔よ!」
「あなたに憐れみをかけられるいわれはないわ!」
 ルナは魔道士の杖を投げ捨てていた。肩からかけた杖の鞘から、潜ませていた短剣を抜く。刃渡りも合わせて大人の手から肘ほどもあるそれは、邪悪を退ける銀で作られた聖なるナイフだ。
「私はあなたを倒す!」
 ナイフを腰だめに構え、ルナはデモニスへ突進した。
「ルナ!」
 ロランは叫んだ。デモニスが身構える。ルナの後を追ってロランも走る。
「しまったっ、ぼくの武器が――!」
 鉄の槍を折られたランドが焦った。そこへ、王の声とともに一振りの剣が回転しながら飛んでくる。
「ランド王子、それを!」
「――感謝します!」
 飛んできた剣を受けとめたランドの顔が輝く。それは、王も用いてデモニスを一度退けた名剣、光の剣だ。
「たあああっ!」
 かけ声も勇ましく、ルナがデモニスに斬りかかる。デモニスは杖を振り上げてルナの一撃を払おうとした。だが。
「ぬっ?!」
 イオナズンとは違う真っ白い閃光がデモニスの目を射た。ランドが光の剣を両手で高々と掲げている。聖なる光は剣から発せられていた。
「はあっ!!」
 ロランが隙を見せたデモニスに斬りかかる。袈裟懸けの一刀がデモニスの左肩から斜め下へ切り下ろされ、デモニスは絶叫した。
「おのれっ!」
 それでも両腕を動かせたのは、魔物と化した体の強靱さゆえか。血しぶきを上げながら、デモニスは雷の杖を回転させてロランの手の甲を打った。
「っ!」
 ガイアの鎧には手甲がない。手袋を通して激痛としびれが走り、ロランは剣を弾き飛ばされていた。
ベホイミ!」
 ルナがロランに回復魔法をかける。痛みが癒えたロランは、瞬時に剣を拾おうとした。だがそれを許さず、デモニスが剣を蹴り飛ばす。
「しまった!」
「死ね!」
 勝利を確信したデモニスは、杖から電撃を放った。放射状に伸びた電撃はルナも狙っていた。ロランは走り、ロトの盾を構えてルナの前に立ちふさがる。勇者の盾は電撃をも受けとめ、細かな光にして散らした。
「ロラン!」
 ランドは考える間もなく光の剣をロランに投げ与えていた。まるで待っていたかのように、剣はロランの手に収まる。
 ロランもまた、無思考で剣を横に構え、デモニスに走っていた。ロトの剣を拾い上げたランドが風のような速さでそれに追いつく。
「――はあああっ!!」
 少年二人の気合が重なる。光の剣を構えたロランと、ロトの剣を同じ形で構えたランドが同時にデモニスを切り下ろした。
「お父さま達のかたき!」
 聖なるナイフを構えたルナが、のけぞったデモニスの懐に飛び込んだ。
「ぐおおおっ!!」
 ロランとランドの攻撃に加え、ルナの突いた聖なるナイフは、デモニスの腹を深々と貫いていた。仮面の口に当たる部分からごぶりと血があふれる。
「……ハーゴン様……御望みが、かなえられますよう……。私は、先に……」
 もう一度激しく血を吐くと、デモニスの体は黒い破片となって散り散りに消えた。手にしていた杖が主を失い、ゆっくりと草地に倒れ落ちる。
「……見事であった」
 いつの間にか、王の背後にシルクスやカイルをはじめとする精兵達が控えている。王はゆっくりと、荒い息をついて立ちつくすロラン達に歩み寄った。
「悪魔神官デモニスは、ここに討伐された。ロラン、ランド、ルナ。そなたらはまことの勇者じゃ」
 ルナはうつむいて、デモニスが消えた跡を見つめている。王は視線を追い、落ちたままの雷の杖を拾い上げると、ルナに両手で差し出した。 
「持ちなさい。これはそなたにふさわしい物だ」
「私に……?」
 ルナの眉が一瞬くもる。しかし王はうなずいた。
「これは、そなたの大切な物を奪い尽くした敵の武器だ。しかし、主亡き今は、心正しき使い手に収まるべきと思う」
「……私に、そんな資格は……」
「過去は塗り替えられん」
 王は優しくルナを見つめ、言葉を重ねた。
「だが、人は前に……未来に進むことができる。忌まわしき道具も、そなたが使うことで、新たなものを救うことができよう」
「……新しい未来のために……私ができること……」
 ルナはおずおずと手を伸ばした。王から杖を受け取る。魔道士の杖より、ずしりとそれは重かった。両翼を広げた竜の赤い眼がルナを見上げてくる。
「よく、頑張ったな。……わが娘よ」
 いたわりの言葉に、ルナの両目から大粒の涙がこぼれ落ちた。その言葉が欲しかったのだ――ずっと。
「――お父さま……!」
 ルナは王の胸に飛び込んでいた。激しい声で泣く。ロランの父は、我が子にするように、その背を抱きしめた。
「……君の父さんに、いいとこ持っていかれちゃったね」
 ロランの傍らで、ランドが小さく言った。ああ、とロランは微笑む。二人は、ほっとした顔でルナを見ていた。
 ルナは何度も、お父さまと呼んで泣き続けた。それは、どちらの父に対してだったろうか。
 おそらく両方だろう、とロランとランドは思った。
 ルナの泣き声が小さくなるころ、雲間から透き通った光が降りてきた。