蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・120

【解放】

 鉄格子の前に立った少年達を見て、囚人は暗い顔を上げた。何の期待もしていなかった目が、ロランの持つ牢屋の鍵を見て輝く。
「おお……そいつは!」
「王の許可は取りました。ここから出られます」
 ロランは鍵を錠前に差し込むと左右に回した。ガチャリと錠前が外れる音を、男は呆然と聞いていた。
「もう自由ですよ。さあ、どうぞ」
 ランドが微笑む。男は肩を震わせて笑った。
「はははっ――! ラゴスはついに来ちゃくれなかったが、希望はなくさないもんだな! ありがとうよ、あんたら」
 男は牢から出ると、むさくるしい顔を満面に笑ませた。
「そういえば、もし出してくれたら礼をするって言ってたな。ほらよ、こいつを取っときな」
 男は囚人服の隠しから、一粒の種を取り出した。やや細長く黄色い色をしており、指の第二関節ほどの大きさがある。
「これは力の種だ。もうこの世界には生えていない植物のもんでな。食えば力がつくって話だ」
「ど、どうも……」
 ロランが受け取ると、男は「じゃあな」と笑って手を振り、外へと去っていった。ルナが疑わしげにロランの手のひらを見やる。
「それ、本物かしら……?」
「食べないで植えたらいいんじゃないかなぁ? そうしたら、もっとたくさん採れるよ」
 ランドも興味深そうに種を見つめる。うーん、とロランは首を傾げる。
「育つものなら、絶滅しないんじゃないかな。食べた方がよさそうだ」
「えっ、本気?! 私はいらないわよ!」
 ルナは両手を向けて首を振った。
「それ、本当に力の種かどうかわからないじゃない。それに、あの人がずっと隠してたんでしょ。腐ってるかもしれないわよ?」
「そういう匂いはしないけどな……」
 ロランは種を鼻先に近づけた。うっすら甘い良い香りがする。ランドを見た。
「ランド、食べるか?」
「食べるー!」
「えーっ?」
 ランドは迷わず返事した。ルナが眉をひそめる前で、ロランは力の種をランドに使った。
「ほら」
「あー」
 ランドは虫歯を見せる子どものように大きな口を開け、ロランが種を指先で入れる。
「どうだ?」
「うんん……」
 ランドはいい音を立てて種を噛み砕き、ごくりと飲みこんだ。
「うん、炒り豆みたいな味がした! おいしかったよ」
「あんた達……」
 ルナが、頭痛をこらえるように額に手を当てる。ランドは効果を確かめるように、愛用している鉄の槍を片手で回した。種のおかげか、心なしか動作が力強く、機敏になったようだ。ふと動きを止め、穂先を見上げる。
「これも、だいぶ使い込んだなぁ……」
 刃は常にランドが磨いで切れ味を保っている。しかし、長い柄にはいくつも傷がつき、歴戦を物語っていた。


 ペルポイラゴスに会い、水門の鍵を入手したロラン達は、先にデルコンダルに戻った。
 城の牢に10年も閉じこめられている、ラゴスの元仲間を助けたかったからである。デルコンダル王の所蔵品窃盗未遂で10年も投獄されているのが憐れで、国王バルドスにもその旨を伝えた。
 すると、バルドスは囚人の罪のことは忘れていたと言った。彼を捕らえた時、裁判もなしに50年は放り込めと感情に任せて宣言してしまったという。
 もちろん、司法官は王の世迷い言を真に受けたわけではない。だが、法に基づき、20年の刑に処した。法は国のものとはいえ、それでも長すぎるだろう。助けることにしてよかったと、ロラン達は心底思った。
「それじゃあ、テパの村へ行くかい?」
 城を出ると、ランドがロランに訊いた。
「そうだな……」
「待って。その前に、ローレシアの城へ行きましょう?」
 ロランがうなずきかけた時、ルナが間に入った。
「お父さまが悪魔神官デモニスに襲われたんでしょう? お怪我がなかったと言っても、お気持ちはそうじゃないかもしれないわ。行って安心させてあげるべきよ」
 ルナはロランの父をもう一人の父親として慕うまでになっている。それだけに、実の息子であるロランよりも、案ずる思いは強いのかもしれなかった。
「そうだな、そうしよう。ランド、頼む」
「わかった」
 ランドは右手を天に掲げ、ルーラの呪文を唱えた。ふっと体が浮き上がり、わずかな酩酊を覚える。まばたきした時には、もうローレシアの城下町前に着いていた。
「――おお、ロラン様。ランド様にルナ様も。よくお戻りになりました」
 城門に来ると、衛兵が安堵と喜びを混ぜて敬礼した。
「ああ。君も、役目ご苦労」
「はっ!」
 ロランがねぎらうと、衛兵はきりりと返礼する。ロランはさっと城に目を走らせた。襲撃による、破壊された跡は見られなかったので、少しほっとする。
 ロラン達の帰還は、すぐに王の元へ伝えられた。謁見の間に行くと、すでに玉座にかけて待っていた。
「よく戻った。――おお、ロラン。お前の着ているそれは、ガイアの鎧だな?」
「はい。デルコンダル王から譲り受けました」
「そうか。それは重畳。バルドスは息災であったか?」
「そりゃもう」
 ロランの代わりにランドが答え、王は仰ぐようにして笑った。
「はっはっは! そうか、そうか。バルドスは乱暴なところもあるが、根は正直じゃ。交友を結んだのなら何よりだ」
「――お父さま」
 ルナが硬い面持ちで進み出る。
「少し前、悪魔神官デモニスが、ここを襲ったと聞きました。お怪我などはありませんか?」
「おお。知っておったか」
 王は居ずまいを正した。
「わしは大事ない。ただ、奴の強さに何人もの兵や騎士が重傷を負ってしまった。幸い命はとりとめ、司教らの回復呪文で治癒したがな。奴は地下の結界牢に閉じこめておる。ハーゴンが滅びる日まで、その呪われた生を生きるであろう」
「そうですか……本当によかった」
 実際に報告を聞いて、ルナはやっと安心したようだった。だが、まだ美しい面持ちに緊張が抜け切れていない。
「ルナ……?」
 ロランは気づいて、横顔を見つめた。
「もしかして、会いたいのかい?……悪魔神官に」
 ランドも察し、問いかける。王の威厳ある顔にも、苦渋が浮かんだ。
「ルナよ……それはまことか?」
 ルナはうなずいた。ひたむきに王を見上げる。
「お父さま、お許しを。私は、私を苦しめる感情を、終わりにしたいのです」
 王は目を伏せた。ルナはじっと待った。やがて王は目を開き、うなずいた。
「よかろう。結界牢へ行くことを、許す」
「陛下!?」
 声を上げたのは、傍に控える宰相マルモアである。
「本気でございますか。あの化け物の牢へ通されるということは、つまり……」
「言うな、マルモア。ルナが、ここに至るまで多くを悩み抜き、決断した覚悟なのだ。わしも行って見届けよう」
 告げると、王は立ち上がった。
「さあ行こう、息子達よ」
 ロラン達は深々と礼を返した。