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蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・119

 ラゴスは、壁の中に作った穴に潜んでいた。脱獄を試みて穴を掘り始めたのだが、岩盤に当たってそれ以上進めなくなってしまったのだと言う。
「いやー、ほんと間抜けだよね……。ボクとしたことがさ」
 悪びれもせず笑うラゴスに、ルナが小声で怒った。
「軽く言わないで! あなたのせいでみんなが迷惑してるんですよ。さあ、水門の鍵を返して!」
「水門?」
テパの村から盗んだ鍵です。あなたが持っていると聞いたのですが」
 ロランが言うと、ああ、とラゴスは笑った。
「うん、持ってるよ。取り調べの時、これだけは取られずに済んだんだ」
「すごいですねぇ。どうやって隠したんですか?」
 ランドが目を丸くすると、ラゴスは自分の腹をたたいた。
「ここさ」
「え……」
 ロラン達は嫌な予感がした。ラゴスは「ちょっと待ってね」と言うと、口に右手を突っ込んだ。
 うげぇ、うげぇとひどい声を上げ始めると、さすがに3人は顔を背けたり耳を塞いだりする。
 やがて大量の胃液とともに、ラゴスは銅製の大きな鍵を吐き出した。
「はい、どうぞ」
 にっこり笑って手のひらに載せ、差し出された鍵を見ても、誰も取ろうとしなかった。
 水門の鍵は、大人の手ぐらいの長さで、分厚い銅板を彫刻してできていた。中心に赤い宝石が、左右に青い宝石をあしらっており、芸術品としても見応えがある。盗賊の腹から出てこなければ申し分なかったのだが……。
「……感謝します」
 仕方なく、ロランが手布で包んで鍵を受け取った。しかしすごいねぇ、とラゴスは開けられた鉄格子を見た。
「君達、許可を取ってあれを開けたわけじゃないんだろ? てことは、例の鍵を手に入れたんだ?」
「まあ、そうですね」
「そうかぁ、ボクは鍵を買う段取りまできたけど、お金がなくってね。だからここで稼ごうとしたんだけど、それが運の尽きになったみたいだ」
「そうでしたか」
 ふむふむ、とランドが腕組みする。鍵屋は、相手が本業の盗賊と察しても2千ゴールドの値で売りつけたのだろう。
「あなたの仲間、デルコンダルで待ってますよ。まだ信じてます」
 ロランが言うと、ラゴスは「めんご」と、拝むようにしておかしな詫びを入れた。
「もうボクは当分出られそうにないし、君達に頼んでいいかな。牢屋の鍵があれば、彼の牢も開けてあげられるし」
「ナリアさんのこと、覚えてますか?」
 ルナが尋ねる。ラゴスは初めて、少し痛ましい顔をした。
「もちろんさ。あんなにボクの話に、真剣につき合ってくれた女性は初めてだったよ。だからボクも、良い人だなって思ってた。君達、ナリアに会ったんだね。なら、彼女も元気なんだね」
「……今は、どう思ってるんですか?」
「……好きだよ。ここにいても、思い出してる」
 また軽い表情に戻って、ラゴスは言った。3人が立ち去ろうとすると、呼び止めた。
「あのさ。ザハンに行くことがあったら、伝えてよ。ボクはまた君に会いに行くって」
「それは、どうかあなたの口で伝えてください」
 ロランは言った。
「それが一番でしょう」
 ラゴスは頭の後ろに手を当てて苦笑した。
「そうだね。いつか……そうしたいよ」


 監獄を出ると、大空洞の天井には星の光がまたたいていた。これも魔法装置によるものだ。ハーゴンの脅威が原因とはいえ、人間の文明と技術の結晶となったこの町は、後世にも残っていてほしいと、3人は思う。
 監獄の正面には大きな教会が立っており、夜とあって訪れる人はいなかった。だが、聖堂の前にぽつんとたたずむ青年に目が留まった。
「あの人……町の人と、雰囲気が違うね」
 ランドが言う。言われてみれば、住人が漂わせている安楽な空気が、彼にはない。思いにふける横顔は、苦しみを抱えたように切なかった。
「かわいそうにねぇ」
 いつの間に来たのか、買い物帰りの老婆が、ロラン達の横に立って青年を見ていた。
「ルークちゃんは、最近魔物に襲われて記憶をなくしているのさ。だからああやって、自分に何があったのか思い出そうとしているのさ」
「魔物に襲われた?」
 ロランが繰り返すと、老婆は恐ろしやと拝むような仕草をした。
ザハンの漁師船が、近くの海で魔物の群れにやられたんさ。船の残骸と、あの子一人だけ浜に打ち上げられててね。ほかの遺体は上がらなんだ。教会の神父様が介抱して、体は治ったけど、自分の名前以外思い出せないんだよ」
ザハンの……」
 さっと3人の顔に痛いものが走った。帰ってこない男達を待つ、女性や子ども達の姿が浮かんだ。
「記憶が戻るまでって、教会に世話になっているけどね。ちゃんと戻るといいねぇ。だってあんなに、どこかに帰りたそうな顔してるもの」
 話したいだけ話してしまうと、老婆は買い物籠を抱え直して家に帰っていった。ロラン達はルークを見つめていた。
 魔物が人間に与える傷は大きい。体だけでなく、心や、人生まで及ぼす。悲しげな青年の横顔に、また深く、3人の胸に決意が刻み込まれた。
 そして、あまりにも楽観的で身勝手な希望と知りつつ、思わないではいられなかった。
 ルークが記憶を取り戻して、一日も早くザハンへ戻り、真実を待つ人へ告げてもらいたい、と。