蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・109

 ロトの盾は、部屋の中央にある金色の台座に、覆いもなく飾られていた。ひと目見て、ロランはあまりの美しさに胸を射抜かれた。
 形状は逆三角形型に入るが、まるで竜の鱗を一枚切り出したかのように優美な輪郭をしている。
 金の縁取りを施された表面は、碧玉のような深い青色だ。全体に雄々しく翼を広げる不死鳥の紋章が、これも金で象眼されている。
 紋章の中央には、大きな紅玉が澄んだ色合いで輝いていた。盾の上部には、古代文字でロトと刻まれている。
竜王を倒したロトの勇者は、実はこの盾を持っていなかったそうだよ」
 ほれぼれと盾を眺めながら、フォルストが言った。
「その戦いの折は、当時アレフガルドの町で販売されていた水鏡の盾という、これも強力な装備だったが――それを持って立ち向かったという」
「では、この盾はいつ、どこで?」
 ロランが尋ねると、賢者が答えた。
「初代サマルトリア国王の時代に、勇者の泉の洞窟で見つかったのです。湖底に輝くものがあったので、引き上げたらこの盾じゃったという。以来、サマルトリア王家が盾を守ってきたのですじゃ」
「それは、ひいおじいさまもちょっと悔しかったでしょうね」
 ルナが苦笑した。ロランもうなずく。竜王の戦いの時にそれを持てたら、もっと楽に戦えたに違いない。
「では、盾をこれへ」
「待ってください」
 フォルストが盾を台座から取り外そうとしたとき、ランドが呼び止めた。
「それは、ぼくの手からロランに渡したいんだ。お許し願えますか?」
「……そうか。よかろう」
 ランドの瞳を見て、フォルストはうなずいた。ランドがこの盾に惚れていたことは、父であるフォルストもよく知っている。ランドも男で、勇者の子孫だ。持てるものなら自分が持ちたかっただろう。
 父が数歩下がると、ランドは厳かな面持ちで、そっと台座から盾を外した。両手で捧げ持ち、ロランへ振り向く。
「ロラン。こっちへ」
 ロランは小さくうなずくと、ランドのもとへ歩み寄った。ランドは盾を持ち直すと、表面に軽く口づけした。そしてまた向きを変え、両手でロランに差し出した。
「この盾が、ロランを守りますように。そして、偉大なる勇者ロトの加護があらんことを」
「……拝領いたします」
 ロランはおのずとひざまずき、盾を受け取った。フォルストと賢者が深々とうなずき、陽光もそれを祝福するようにランドとロランを照らし出す。
 ぱちぱち、と小さな音がした。アリシアがうれしそうに拍手しているのだ。フォルストや賢者、ルナも微笑んで、一緒に拍手した。
 ランドはにっこりすると、ロランへ片手を差し出した。ロランは素直に手を取って立ち上がる。お互い、照れくさそうに笑い合った。
「ねえ、お兄ちゃん達、今日は泊まっていくんでしょう?」
 盾がロランの手に納まると、アリシアがランドの腕にしがみついた。ランドはロランとルナを見た。二人とも微笑んでうなずいたので、ランドは優しく妹の頭をなでた。
「うん。今日はゆっくりしていくよ」
「やったあ!」
 旅のお話聞かせてね、とアリシアは本当にうれしそうだった。その様子を見て、ルナが小さく言った。
「家族っていいわね。私も兄妹がほしかったな」
「そうだな。僕も時々、そう思うよ」
「でも今は、私達、兄妹みたいよね?」
 ルナはロランを見て笑った。あ、そうか、とロランも笑う。
「誰が末っ子かは……言うまでもないか」
 二人の視線は、父や妹と笑い合うランドに向けられていた。それに気づいたランドが、「ん?」と振り向く。澄んだ空色の瞳が無邪気に笑った。
 ロランは、自分が戦って守りたいものが何なのか、改めてわかった気がした。
「そうだ、ロランよ。この台座に、その鋼鉄の盾を置いてくれんか?」
 フォルストの申し出に、ロランは驚いた。
「えっ、でも……これはムーンペタで買った汎用の盾ですよ。それに、かなり傷ついてぼろぼろだ」
「だからこそだ」
 フォルストは、ロランの背負う馬頭型の盾を見やった。
「一介の職人が作った名もなき品だが、長くお主らの戦いについて来たものだ。刻まれた傷跡が無言で物語っておる。そこにかけがえのない価値があるのだ」
 ロランが鋼鉄の盾を肩から外すと、フォルストはかがみこんで、魔物の炎や爪痕に傷ついた表面をいとおしそうになでた。
 その姿を見て、やはりランドの父だなと思う。ロランもまた、用済みだからといって、この盾をすぐ捨てる気にはなれなかった。
 今まで手放してきた武器なども、別れる時は切なさを覚えた。命を預けてきた戦友も同然だったからだ。
 鋼鉄の盾はとても重いので、ロランが台座に立てかけた。
 ハーゴン討伐の戦いが終わって、ロトの盾がまたここに戻ってきても、ロランの鋼鉄の盾は共にあるだろう。見つめるロラン達は、そんな気がした。