蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・107

「ナリアさん?!」
「そういうことだろうと思ったわ」
 ナリアは苦笑していた。笑うと、厳しい面持ちが和らぐ。
「お二人の演技に免じて、特別に入れてあげたけれど、あなたもトラマナが使えたなんてね」
 ランドを見て、ナリアは言った。
「すみません、だましてしまって。でもぼく達、本当に聖なる織機が必要なんです。あれは盗まれた品で、返して欲しがってる方がいるんです」
 ランドが必死に訴えると、ナリアは口元に手を当てて、貞淑に笑った。
「やめて、かわいらしい方。あなたがしゃべると、笑いたくなっちゃう。本当に似合っているわよ、その格好」
「あ、ありがとうございます……」
 ずれた答えに、ナリアはますます笑った。
「うふふ……。こんなに笑ったのは久しぶり。ラゴスさんが来て以来だわ」
「やっぱりここに来たんですね。でもラゴスさんは……」
 ロランが言うと、ナリアはうなずいた。
「こんな眩しいところでは何だから。こちらへ」
 と、ロラン達が開けようとしていた扉に鍵を差し込み、中に入った。
 通路で隔てられた部屋は、ナリアが居室に使っている場所だった。反対側の部屋は、台所など、生活のための空間になっているという。
「これでしょう、あなた達の探しているものは」
 ナリアは、部屋の片隅に置かれている金色の正方形の箱を指さした。人魚の像が正面の中心にぴったりとはまっている。
「それで間違いないと思います。その箱は、技を伝承する匠の人しか組み立てられないそうです」
 ロランが言うと、ナリアもうなずいた。
「そのようね。私も触ってみたけど、びくともしなかったわ。きれいだからこうして飾っているけど、やっぱり、後ろめたい品ではあるから、どうしようかと思ってたのよ」
「ご存じだったんですね、ラゴスさんの正体」
「ええ。テパから来た人が、盗人だと言って追いかけてきてましたもの。私には、ただの楽しい人でしたけどね」
 遠い目をして、ナリアは微笑んだ。
「でも私は、ここに残ると言ったから、あの人は出て行った。こんな神殿なくったって、人々はどこでも愛を交わし、命はつながれていくもの……。私がここにいる意味って、あるのかしら。ラゴスさんに会ってから、ずっと考えているの」
 ナリアは寂しく笑い、どうぞ持って行ってください、と言った。ロランとランドは感謝してお辞儀をした。
「ありがとうございます。もし、ラゴスさんに会えたら……ナリアさんのこと、お伝えします」
 ロランが言うと、ナリアは小さくうなずいた。
「きっと忘れてると思うけど。……お願いしますね」


 箱には背負うためのベルトが付いていたので、ロランが背負った。重厚な見た目に反して、さほどの重さではない。
 神殿の外に出ると、待っていたルナがロランの背負う織機を見つけた。
「やったわね! うまく探し当てたの?」
「いや、実は……」
 ロランが事情を説明した。そうだったの、とルナ。
「でも作戦成功ってとこよね。ランドが変装しなきゃ、ナリアさんの気持ちも動かなかったかもしれないんだし」
「ぼくは早く着替えたいよ……。脚がスースーする」
 言った直後にランドがくしゃみをした。ロランとルナは笑った。
 蒼茫とした空には、満天の星が輝いている。故郷では見られない星座を楽しみながら歩いていると、ランドが疑問を口にした。
「ところでさあ、あの部屋って……何?」
 ロランとルナは立ち止まった。
「あの部屋って?」
 ルナが尋ねる。ロランが、首をかしげながら言った。
「ああ、神殿の中心に大きなベッドがある変な部屋があって……泊まれるみたいだったけど」
 そこまで言うと、ルナの顔色が変わった。
「寝心地は良さそうだったよね。布団、ふかふかだったし」
 ランドも顎に指をかけて言う。ロランはルナを見た。ルナは今にも爆発しそうにわなないている。
「……ルナ、あれってなんの部屋だと思う?」
「知らないッ!!」
 ランドが無邪気に尋ねると、まるで牙をむき出した犬のようにルナが怒った。星空が落ちてきそうな怒鳴り声に、少年二人はびくっと体を震わせる。
「おい、ルナ?」
「ついてこないでっ!」
 ロランが呼び止めたが、ルナは肩を怒らせてどんどん先へ歩いていってしまった。
「――女の子って、よくわかんないなぁ……」
 ばつが悪そうにランドが頭を掻き、ロランも途方に暮れてうなずいたのだった。