蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・101

【聖なる織機ともう一人の匠】

 ルナはあからさまな感情を見せない。それが人には冷たく映るかもしれない。だが、ルナが徹底して合理的にふるまうのは、感情に溺れて必要な行動を見失わないようにするためだ。
 立ち止まって悩んでいても、何も解決しない。たとえ間違っていても選択し、行動する重要さを、ルナは身に刻んでいるのだ。
 本当の地獄を見て、息も詰まるような感情を抱えているからこそ。
「見てよ、島の女の人達の服。きれいだねぇ」
 場を和ませようとしたのか、ランドが道行く女性達を視線で示した。この島の女性達は、くびれのない筒型のドレスのような服を着ている。柄も派手で色鮮やかだ。自分達で手織りしているらしく、数人の女性が次に織る柄について、熱心に話していた。
「あそこが機織り小屋みたいだよ。ちょっと見学していいかな?」
「ランド、織物に興味あったのか?」
サマルトリアの産業振興のためにさ。何か名物でも作らないと、いつまでも農業国家で終わっちゃうよ」
 意外なほどしっかりした答えが返ってきて、ロランは面食らった。
「そんなに将来のことを考えていたなんて、知らなかった。ランドは熱心だな」
 その点、自分はどうだろうと、ロランは密かに自分を恥じた。いつか父の後を継いで国を治めなければならないとわかってはいるが、どうやったら国が発展できるかまでは、考えていなかったのだ。
「今まで通り、のどかに暮らしていけたらいいとは思うよ」
 ランドは少し困ったような笑みを見せた。
「でも、産業が少ないってことは、国民の仕事が少ないことでもあるんだ。やっぱり生まれてきたからにはさ、自分がやりたいこと、自分で選べたらいいじゃないか」
「ええ、そうよね。私もそう思うわ」
 真っ先に賛同したのはルナだった。
「誰にも得意不得意があるんだし。たとえば農家の子が、親と同じように家業ができるとは限らないものね。いろんな可能性が、人にはあるんだから」
「そうだな……」
 ロランもうなずきながら、考えてみた。もし自分が王子ではなかったら、どんな将来があったのだろうと。
「ぼく、もっと学校とか劇場とかがあったらいいと思ってるんだ」
 どこかうれしそうに、ランドは言った。
「歌とか踊りが好きな人が多く暮らしてるから、もっと専門的に学べる場所があったらいいなって。あと、薬師とか医師になれる学校。これ、父さんにも話してるんだ。まだ実現はできそうにないけど、いつかそうなったらいいなぁ」
「ああ、ランドならできるよ」
 応援しながら、ロランは少し苦さも感じていた。ランドは自分がどう国を治めたいか、すでに考えている。のんびりしているようで、何歩も先を歩いていた。
(僕は国王に向いてるんだろうか……)
 うしろめたさをごまかすため、ロランは率先して機織り小屋へ向かった。


 木造の小屋では、ぱたんぱたんと軽やかな機織りの音が響いていた。女性達は皆、集中して布を織っている。糸を通し、足踏みをして織機を操り、通した糸を押さえ、また横糸を通す。人間とはこうも器用に動けるのかと感心してしまう。
「おお、お客さんかい。珍しいのう。旅の人かい?」
 ロラン達が作業に見とれていると、奥からひどく小柄な老人が後ろ手を組んだ格好で歩み寄ってきた。
 身長はロランの腰ほどで、気難しそうな目をしており、頭部は耳から下が長い白髪で、その上は見事にはげ上がっていた。
「勝手にお邪魔してすみません。こういった場所を見ることがないもので、少し見学させてください」
 恐縮してロランが挨拶すると、老人は長い白髭に触れて人の良い笑みを見せた。
「ほっほ。そうかい、まあそれじゃ、じっくり見て行きんさい」
「ありがとうございます」
 礼をしながら、ロランは「あれっ」と思った。この老人、どこかで見た雰囲気がある。老人は視線に気づいて、どうしたと尋ねた。
「あ、いえ……。あなたの雰囲気が、テパの村で見かけたご老人と似ていたもので」
 ロランが答えると、老人はしわ深い目を見開いた。
「あんた、モハメを知っとるんか。あのくそ頑固じじいは、まだ生きとったんかい」
「じゃあ、あの人がモハメさんだったのか……」
 ランドとルナもテパですれ違った老人を覚えていた。ほえぇ、とランドが気の抜けた声を出す。
「ああ胸くそ悪い。ちょうどいい、あんたがた、奥で茶でも飲んでいきんさい」
「いいんですか?」
「良いからいいと言っとる。ほれ、来い」
 どうやら老人はモハメの知り合いらしい。世界は案外狭いらしいと、ロラン達は思った。