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蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・100

「さすがにここは、まだ暑いねえ」
 ザハンの船着き場に降り立ち、ランドが日差しを避けて額に手をかざした。
 季節は秋の始まりだが、地図上もっとも南に位置するこの島は、デルコンダルより暑い気候だった。
 島の植物も暑さに適した植生で、ヤシの木が多く育っている。住民の着る服も風通しの良さそうなゆったりした作りで、肌の色も小麦色だ。
「女の人と子どもばかりだな。あとはお年寄りか」
 着岸を手伝ってくれたのは、活気のある女性達だった。ロランはお礼を言い、お金を渡して船の世話を頼むと、女達は快く引き受けてくれた。
 町と呼ばれてはいるが、集落に近い。店はほとんどなく、小さな畑を作り、鶏などの家畜も飼われている。子ども達が裸足で駆け回り、年寄りは木陰で網を繕っていた。
 その奥の方にあるひときわ大きな建物に、ロランは目が行った。こんもりと盛り上がる丘のような形をした、漆喰の建造物だ。
 逆三角形で、入り口は狭く、先に向かってすぼまるような形をしている。その左右に一回り小さな丸い建物があり、通路で中央の建物とつながっていた。
 奇妙な形をしているなあ、と思っていたら、ランドも呆けたように見つめていた。
「あの建物、変わってるねえ。……なんかに似てる気がするんだけど、なんだったかなあ」
 同じく建物を凝視していたルナが、はっとしてランドを振り返った。ランドはぽやっとしていたが、あっと声を上げて拳で手のひらを叩いた。
「そうだ、あれだよ! ほら、お――」
「だめーっ!!」
 魔道士の杖が神速で閃く。巨大な宝珠の部分でみぞおちを突かれ、ぐふっ……とランドはよろめいた。腹を押さえて前のめりに膝をつき、涙目でルナを見上げる。旅でかなり鍛えられたランドだからこの程度だが、常人なら嘔吐してのたうちまわっているだろう。
「な、なんで……」
「それ以上言ったら……ころすわよ」
「こ、ころすって」
 はわわわわ、と、ランドは助け起こそうとしたロランに泣きついた。
「ロラン~、ルナがこわいよお~」
「ルナ、いくらなんでも殴るなんて……!」
 ロランが注意すると、ルナはぎろりとロランまでもにらんだ。
「いいこと、わかっても気づいてもも口に出しちゃだめよ!!」
「う……」
 ランドを抱き支えたまま、ロランも硬直した。ルナの眼光は、何のことかと問う余地も与えない。
「ぼく、お菓子に似てるねって、言おうとしただけなのに……」
 足早に先に行くルナを見ながら、ランドは涙混じりの小声で言った。まだ腹が痛むのだ。弱々しく咳き込む。
「そうだよな、あの建物、丸いもんな。そういうのあるよな、団子とか……」
 慰めながら、なぜルナはあそこまで怒ったのだろうと、ロランはランドとともに首を傾げた。
 

 ルナはまだ怒っていたが、なんとかなだめすかして、ロラン達は情報集めにかかった。
 とはいえ、どこから何を聞いたものかわからない。いつも通りに生活している人の手を止めさせてまで話を聞こうとするのは、さすがに気が引けた。
 情報が集まる場所といえば酒場だと、ランドが言った。男がほとんどいないこの場所で、昼間から酒を飲む人がいるか疑問だったが、行くあてもないので、昼飯がてらに寄ることにした。
 食堂は、島で一件だけの宿屋が兼ねており、酒場も同様だった。ロラン達は食事と一緒に、今夜の宿も頼んだ。久々の泊まり客に、女主人が愛想良く応える。
 南国らしく、食堂は窓がすべて全開で、開放的だった。海を見ながら食事ができるのはうれしい。
 珍しい果実の盛り合わせと肉の煮込み、新鮮な魚の切り身を生野菜に載せたものや、ヤシの実の冷たい飲み物に舌鼓を打っていると、食堂の片隅でうなだれている男に気がついた。
 さっきからそこにいたのだが、暗がりで黙って座っているので、食事に夢中だったロラン達は気づくのが遅れたのだった。
 これはいけないと反省しながら、残った皿を持ってそっと男に近づく。
「すみません、隣、よろしいですか」
 男の服装は明らかに島のものではなかった。そしてこの島で唯一、働き盛りの年齢だった。それで話を聞いてみようと思ったのだ。
 ロランが声をかけると、人の良さそうな男は断る理由もないと思ったのか、おどおどとうなずいた。
 ルナが女主人に、男へ飲み物と食べ物を頼む。長逗留しているらしい男に同情した目を向けながら、女主人は地酒をジョッキに注ぎ、簡単なつまみを運んできてくれた。
「さあ、どうぞ、召し上がってください」
 ランドが勧めても、男は遠慮して口にしない。ルナが世間話を振った。
「あなたは旅の商いをされているんですか? そういうふうに見えますわ」
「あなた達は旅の人ですか。その鎧、立派ですねえ……」
 男はロランのガイアの鎧姿を見て感心した。自分より年下の少年達が相手なのに気後れしなかったのは、ロラン達が年にそぐわぬ風格を備えているからだろう。
「ええ、普段は道具の店を商っています。私はぺルポイの町から使いに来たんですが、この島に住む女性達を見ていたら、とてもそれを伝えられなくて、悩んでいたんです」
 苦しそうに男はうつむいた。背負うものの重さに気づき、ロランは嫌な予感がした。
「……まさか、帰ってくるはずの人達が、帰ってこない?」
 女主人が奥へ引っ込んだのを見計らって、小声でロランが尋ねると、ああ、と男は顔を覆った。
「その通りです……島の男達が乗ったザハンの漁船が、ぺルポイ沖で魔物の群れに襲われて、それきり……」
「……!」
 気構えをしていても、事実を突きつけられると衝撃が走った。ロラン達もうつむいて黙り込む。男は苦痛から逃れるように、おごってもらった酒のジョッキを傾けた。遠くから、子ども達の遊ぶ声が聞こえてくる。
「みんな、明日か今かと帰りを待っているのに、残酷なことを教えなければならないなんて。せめて島長(しまおさ)がいれば、その人を通じて話もできるんですが、ここにはそういう人はいなくて」
「島長がいない? その方も海に……」
「いや、どうも神殿の巫女さんが長も務めてるらしいです」
 ランドの問いに、男は答えた。
「ここは女上位の島ですから。女性が偉いんです。……で、巫女さんに話を聞いてもらおうとしたんですが、神聖な神殿に近づくなと突っぱねられまして。文字通り、取りつく島もないんですよ」
「そうだったんですか……」
 ロラン達は互いを見合った。島を治める者なら、ここを訪れたというラゴスの足取りも知っているかもしれない。
 しかし、自分達にはほかに、やれることはないのだろうか。必要な情報だけ探ったら、それで去っていいのか。ロランは胸が痛んだ。
「……少し、表を歩きましょうか」
 ルナが立ち上がった。
「貴重なお話を、ありがとうございました。……さ、行きましょう」
 ルナが丁寧にお辞儀をする。ロランとランドも倣った。男は返事の代わりにうめき、頭を抱え込んで、こちらを見ようともしなかった。


「……どうすればいいんだろう。僕らが、島の人に伝えるべきだろうか」
 歩きながらロランはつぶやいた。いいえ、とルナは淡々と答える。
「それは私達の役目じゃないわ。あの人が言わなくても、いずれ事実がわかる日がくる。時間が解決してくれるのを待ちましょう」
「そうだな……」
 卑怯な気もしたが、ほかに考えも浮かばず、ロランもうなずくしかなかった。