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蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・76

 店内はこぎれいに片付いていて、壁際に見本が置いてあった。
 魔道士の杖、鉄兜は見慣れているが、竜の角の装飾が豪華な手甲に鋭い刃が付いたドラゴンキラー、青みがかった銀色が美しい魔法の鎧、そして金の縁の中心に、魔法の鎧と同じ金属が扱われた壮麗な円形の盾が目を引いた。
「それはミスリル銀っていう、魔法を蓄積・発露しやすい金属が使われていましてね。ミスリル銀は鉄より軽くて強度もあるから、あまり力がなくても扱える人が多いんですよ……持ってみますか」
 円形の盾は、力の盾といった。天にかざせば、盾に込められた大地の精霊の祝福が発露し、傷や体力を回復させてくれるのだという。主人がすすめるので、ランドが手にしてみた。
「うわあ、ほんとだ。持ちやすい。これはぼくでも使えそうだ」
「ちょっと貸して」
 ルナもランドから借りて持ってみる。だが、両手でようやく支えられる重さだった。
「うーん、私には無理ね。やっぱり重いわ」
「……失敗したシチュー鍋は、軽々海に放ってたくせに……」
「……ロラン、何か言った?」
「いや、別に。――あ、あの剣は? あれは売り物ではないんですか?」
 ロランはルナの視線を避けて、カウンターの奥を指さした。薄暗い壁に、横向きに華奢な剣が飾ってある。
「ああ、あれははやぶさの剣ですよ。売らないわけじゃないんですが、使いこなせる人がめったにいないんで、奥にしまってあるんです」
 店主は細身の片手剣を両手で捧げ持つように壁から外し、持ってきた。
「きれい……武器というより、装飾品ね」
 ルナがうっとりと言った。ハヤブサを模した金の柄に、細い金鎖の装飾が華麗な剣だ。片手で持つが、刀身は平型で意外と長く、たしかに扱うには技量が必要に見えた。
「まるで儀仗用だな」
 ロランも、試着してみたドラゴンキラーと見比べてしまう。こちらの頑健さに比べたら、はやぶさの剣はずっとひ弱そうだ。
「ところがお客さん。これはただの剣じゃないんで。切りつける時、素早さを上げる魔法がかかって、相手に二回攻撃できるんですよ」
「二回攻撃? それはすごいな」
 ランドが手を伸ばすと、店主が持たせてくれた。ランドは剣を抜いてみた。軽く足を開いて上下左右に振り、形(かた)を取ってみる。細身剣の技術を学んできただけに、その姿はさまになっていた。
「似合うじゃない。思い切って買う?」
 ルナが手をたたくと、ランドは苦笑し、腰のあたりで剣を鞘に戻した。
「うーん、これは良い剣だけど、ぼくにはまだ、軽すぎるな」
「そんなに軽いの? いいことじゃない」
「いや、そういう意味じゃないだろ。貸してくれ」
 ロランはランドから剣を受け取ると、抜いて軽く振った。なるほど、と納得する。
「この剣、あまり威力はなさそうだな。軽すぎる。かなりこっちの力が強くないと、かすり傷しか与えられない」
「その通りです」
 ロランの説明に、店主がうなずく。
「だから皆さん、その剣を敬遠するのですよ。性能はいいのですが、使い手を選んでしまうんです。まあ、そちらのお客さんなら十分威力を発揮できるんじゃないですか?」
 そちらとは、ロランのことである。ロランは背にしたロトの剣を思った。ドラゴンキラーは、見たところロトの剣より威力を上回っているだろう。刃の輝きを見ればわかる。はやぶさの剣も、二回攻撃という点が心惹かれた。敵の数が多い時に重宝しそうだ。
 だが、自分よりランドが気になった。ランドは店主の手に戻ったはやぶさの剣を見つめている。きっと気に入ったのだろう。
「ランド、欲しいか?」
「え?」
 ランドは振り向き、珍しく言葉を濁した。
「うん……。でも、今はやめとくよ。ぼくじゃ、腰の飾りになってそうだから」
「とりあえず、買っておいたら? あとで役に立つかもしれないわよ」
 ルナが言ったが、ロランが苦笑した。
「ごめん。この中の、どれか一つしか買えそうにないんだ」
「じゃあ、力の盾にするよ。いいよね?」
「ああ。それじゃ、その盾をください」
 ロランが財布を取り出し、店主は愛想よく微笑んだ。
「毎度あり。ああ、はやぶさの剣も取っておきますよ。またテパにおいでになったら、その時買ってください」
「ありがとうございます」
 ロランは礼を言った。店主は、奥から保管していた新品の盾を持ってきて、ランドに持たせてくれた。鉄の槍と相まって、なかなか似合った。ロランと目が合うと、ランドはうれしそうににっこりした。

 

「さて、困ったわね」
 店を出ると夕暮れが近かった。民宿に戻る道で、ルナがつぶやく。
「モハメさんもお留守だし、不思議な石があるっていう塔も行けないし。ここですることは、もうなさそうね」
「そうだな……。残りの紋章も手がかりがないし、行きづまったな」
 ロランも吐息をつく。ランドが言った。
ベラヌールの町は? あそこは、ロンダルキアに一番近い場所だったよね。そこにつながる旅の扉のありかを探してみるってのは?」
「あ、そうか……。それがあったな」
 ロランははっとした。こういう時、ランドはいいところに気がついてくれる。
「それに、盗賊ラゴスって人も探さなきゃ。水門を開けてあげたら、村の人も喜ぶよ。満月の塔にも行けるし」
「そうね。ベラヌールくらい大きな町なら、ラゴスの噂も伝わっていそうね」
 ルナも賛成する。それで次の行き先が決まった。まずルプガナに戻って、そこから北上してベラヌールを目指すことにする。
 ルーラでひとっ飛びすればすぐにルプガナに着けたが、今夜は民宿に泊まって休むことにした。
 今夜の食事はどんなのだろう、と笑いながら話していると、道で小柄な老人とすれ違った。ロランは身長が高い方だが、その腰までしかない背丈だった。
 しかし短く刈り込んだ白髪に鋭い眉とまなざしは、一筋縄ではいかない厳しさと高潔さがあった。着ている着物も清潔で、しかも足が速い。
 ただ者ではない、とロランは直感したが、誰何を問う前に老人は夕闇の向こうに消えていた。