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蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・97

 さんざんバルドスの武勇伝につき合わされ、長い晩餐が終わると、夜半を過ぎていた。城に泊まっていけと言うバルドスの好意に甘え、ロラン達は客室に通された。
 いろいろなことがあって疲れているはずなのに、ロランは天蓋付きの寝台に横になっても寝つけなかった。隣のベッドでも、ランドがしきりに寝返りを打っている。ロランは声をかけた。
「ランドも眠れないのか?」
「うん。なんか暑いね、ここは」
「南の方だからな。でも、もう夏も終わりだよ」
「そうだね……。もう、そんなになるんだね」
 少し外の空気でも吸おうと意見が一致し、ロランとランドは部屋を出た。すると、ちょうど隣室からルナも出てくるところだった。
「あら、あんた達も眠れないの?」
「気が合うねぇ」
 驚いたルナに、のんびりとランドが笑う。ルナも笑った。
「ほんとね。今夜は月がきれいだわ。夜の散歩もいいかもね」
 ロラン達は城内から天覧席へ出た。警備の者もおらず、がらんとした闘技場が静かに半月の光を浴びていた。
「ああ、なんかぼく、自分が嫌いになりそうだ」
 昼間のことを思い出し、ランドはため息をついた。
「なんであんなに浮かれてたのかなぁ」
「あの雰囲気じゃ、仕方がないよ。お祭りみたいなものだし。ランドもそれに当てられちゃったんだよ」
 ロランが慰めると、ルナもうなずいた。
「人間って怖いわよね。ロランの試合を見ててそう思った。たくさんの人達が熱狂して、一つの方向に進んでいくのって、決して悪いことじゃないと思うの。でもそれが悪い方向だと、恐ろしいことになってしまう。みんな、自分が何をしているのか自覚もなくなっているから」
「ぼくは、ロランがばかにされてるのがつらかったよ」
 ランドは悲痛に眉を寄せた。
「さっきまでロランを応援してた女の子が、ロランが戦わなくなった途端、弱虫とか言ってた。それで、ああ、とんでもない所にロランを一人で放り出したんだって、後悔した」
「そうそう、あの娘達、調子良すぎよね!」
 ルナも憤りをあらわにする。
「ああいうの、だいっきらい! あんた達にロランの何がわかるのよっ!」
「もう、いいから」
 肩をそびやかすルナに、ロランは苦笑してなだめた。
「僕のことは大丈夫だよ。それより、捕まえられてきたサーベルタイガーがかわいそうだった」
 ロランは天覧席の縁に手をかけ、魔物を倒した場所を見下ろす。
「魔物でもきっと、恐怖はある。みんなの憎しみに反応した心がある。身近に対面してそれがわかったよ。でも、こうして高い所から見下ろしていると、そういったことに気づかないものなんだな」
 距離が遠いあまり、鈍くなってしまうのは、施政者に限らないだろう。安全圏で死闘を楽しむ民衆も同じだ。真実は間近に接しないとわからない。それは、世の中すべてに通じることだ。
「でも、倒すのを迷わなかったロランは、えらかったよ」
 言葉がふさわしくないかもだけど、とランドはロランを見つめた。
「あそこでまだ迷ってたら、死んだ人もいたかもしれない。重傷者もいなかったし、この被害で済んだのは、ロランの決断があったからだよ」
「ええ。だから自分を責めないで。ね、ロラン」
「……ランド、ルナ……」
 ロランが何か言葉をかけようと口を開いた時、空中に三日月の形をした光が浮かんだ。3人が驚いて見上げると、三日月の光は心の声で語りかけてきた。

 ――月はさまざまに姿を変えれど、真の姿は一つ。
 迷いは正しき道を選ぶための思考。道筋は千変万化なれど、決断は常に唯一のもの。強き意思で進むことに相違はなし。
 我が名は慈愛。光と影を合わせ持つもの。どちらの側にも正義であり、真であるもの……。

 三日月の紋章は三つの光となって、3人の胸に吸い込まれた。
「今回の言葉は、難解だ……」
 ううん、とランドがうなる。
「でも私、なんとなくわかったわ」
 ルナが胸元に手を当てて言った。だが、どこか表情は硬い。
「答えは一つじゃないけれど、選んだ人にはそれが正しい答えだってこと。そして、ありとあらゆる存在が、許されて世界にいるんだってこと」
 ……魔物さえも。ルナはうつむき、つぶやいた。ロランとランドは、悲痛に黙った。
 魔物に国を滅ぼされたルナは、ロランほど魔物に対する同情心はない。ルナには、月の言葉は酷だった。
 すべてを許し、存在を認めよということは、魔物への憎しみもなくせと言うに等しい。
 はっきりと口にはしないが、ハーゴンへの復讐が、ルナの戦いへの原動力になっていることは確かだ。それを奪われてしまったら、ルナがここに立っている意味もなくなってしまう。
 ロランは空を見上げた。明るく浮かび上がる下弦の半月は、丸い輪郭をはっきりと現していた。光と影、半々を。
 3人は月を見つめたまま、しばらく動かなかった。胸にさまざまな思いを浮かばせたまま。