蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・93

【惑いの月】

 ロラン達が街門をくぐると、どっと歓声が押し寄せてきた。
「なんだろう?」
 思わず立ち止まると、中年の衛兵が髭面を笑ませた。
「闘技大会さ。今は下弦の半月だからな。腕に覚えのあるやつらが、賞品目当てに勝ち上がり戦をやってるよ」
「賞品? どんな品ですか?」
 ランドが尋ねると、衛兵は自分も参加したい顔で言った。
「ガイアの鎧さ。あの伝説の勇者ロトが、この世界に来た時に身に着けていた鎧らしいぞ」
「ロト?」
 ロラン達は顔を見合わせていた。


「そういえば、ロトの装備は世界中に散らばってるんだな」
 城へ抜ける長い回廊を歩きながら、ロランは言った。そうね、とルナが視線をうつむける。
「私の家にはロトの鎧が祀ってあったけど……魔物の襲撃の時に盗まれてしまったみたい」
「あ、そうか……」
 ムーンブルク城には、始祖やローレシア1世が魔王退治の際にまとったロトの鎧が保管されていたのだ。ロランもそのことを思い出し、眉が曇った。
 目の前のことに集中しすぎて、いろいろなことを失念していた。勇者が身に着けていた装備は、この先の戦いで必要になってくるだろう。
「あとはぼくの家の、ロトの盾くらいかな?」
 ランドは物珍しそうに回廊を眺めながら歩いている。
 ローレシア大陸の南に位置する、ロトの血筋に関係がない唯一の王国が、デルコンダルである。
 国土となる円状の大きな島は、全方位を岩山と岩礁に囲まれており、天然の要塞と呼ばれている。湖から海につながる一本の大河が、外海と接する道だ。湖と海をつなぐ外観が鍵穴のようにも見えることから、そのまま〈鍵の川〉と地元では称していた。無骨なデルコンダル人らしい。
 城と城下町は島中央にあり、高い壁でぐるりを取り囲んでいた。頑強で飾り気のない様式は、戦に備えた造りだからだ。歴史はラダトーム城なみに古く、石組みに補修と改築の跡が見受けられた。
「ロラン、ガイアの鎧、欲しくない?」
 街に出る回廊の入り口で、ランドが訊いてきた。
「その身かわしの服も、そろそろ限界みたいだし……」
「そうだなあ」
 ロランは首を巡らせて自分の服を見た。世界樹の島での戦いで、鎧より強固な服も破れてしまっていた。ルナがきれいに繕ってくれたが、魔法をかけられて作られた服は、一度破れると強度が下がってしまう。かけられた魔法の守護が、ほころびから漏れてしまうからだ。
 またルプガナの店で新調することもできるが、ロトが身に着けていたというガイアの鎧も気になった。
 ロランは、炎の祠の島で見た夢を思い出していた。夢で見たロトは、青く美しい鎧をまとっていた。あれが本物のロトの鎧だ。幼いころ、ルナの城に遊びに行った時、ルナ、ランドとともにルナの父ヒンメルから一度だけ見せてもらったことがある。
 ――お前達も、この鎧に恥じぬように育つのだよ。
 そう言われて、幼い3人は飾られた鎧を仰いだ。それを目にしたときめきを、ロランは今でも忘れない。
 青鍛鋼(ブルーメタル)というこの世界にはない鉱物の、海のように深く空のように澄んだ青い鋼は、幼い子ども心をも熱くうずかせた。
ロトの鎧を初めて見たときのこと、忘れてないよ」
 夢見るようにロランは言う。
「ものすごく古い時代の鎧なのに、全然傷ついてなかったな。青くて、洗練されてて、本当に恰好よかった」
「うんうん、わかるよ。ぼくの家のロトの盾も、見るたびにそう思うもの。あの青がいいんだよね」
 ロトの盾は鎧と違って、高純度の魔法銀(ミスリル)で作られており、鎧に合わせて薄い青鍛鋼で塗装されているのだと、ランドは付け足した。
ロトの鎧……あれは並大抵では壊せないから、たぶんどこかに隠されているのかもしれないわ」
 ルナが言った。
「いつか必ず見つけ出したい。そう思ってここまで来たけど、なかなか手がかりは見つからないわね」
「そうだな……。でも、きっと僕らのもとに戻って来る。そんな気がするよ」
 単なる楽観ではなく、ロランには確信めいたものがあった。背にしたロトの剣が、そう信じさせてくれる。長い年月を経て、始祖、初代と受け継がれてきた剣は、今、末裔である自分のもとにあるのだから。


 ロラン達は回廊を出た。ちょうど試合が終わったのか、先ほどより大きな歓声が、円形闘技場の方から湧き起こった。
 晩夏だが、日差しはカンと照って暑い。南方に位置するデルコンダルは気候も温暖で、冬でも暖かいという。
 デルコンダル城は、この闘技場と直結している。デルコンダル王は代々格闘好きで、試合を見ながら酒宴に興じるのが趣味らしい。自身も武勇に秀で、たまに熱くなってくると試合に乱入することもある、とロランは二人に説明した。
「僕も小さいころ、一度だけ今の王に会ったことがある。ローレシア南の半島には、デルコンダル城に通じる旅の扉があるから、それを使って僕の父さんがあいさつに行ったんだ」
 当時二十代後半だったデルコンダル王バルドスは喜んで、ロランの父が連れてきた赤ん坊のロランを「高い高い」したのだという。
「僕は覚えてないんだけどね」
 バルドス王は、城の天井まで届くほど高くロランを放り上げて、父王やローレシア臣下を青ざめさせたらしい。
 それ以来、ローレシアの近臣が「けしからん」とバルドス王を毛嫌いし、国交は親密ともいかず曖昧な状態なのだった。
 デルコンダル側も国の形状上、長い鎖国のような状態である。自分達で楽しくやっていればいいという性格で、特に干渉もなかった。
「まあ、あっちは僕のことも忘れてるだろうけど……」
「うわあ、ロランを天井まで放るなんてすごいなぁ。会うのが楽しみになってきたよ」
「そうかしら? ちょっと乱暴すぎない?」
 わくわくするランドに対し、乱暴者が嫌いなルナは眉をひそめた。
 闘技場の入り口がそのまま城への入り口になっているという、世界にも例がない造りにまたも面くらいながら、3人は王への謁見を申し出た。だが、受付も兼ねている闘技場前の衛兵は、ぞんざいに首を振った。
「謁見は現在、受け付けておらん。この通り、闘技大会の真っ最中なのでな。王は参加者のみお会いになる」
「だってさ。やっぱり試合に出るしかないみたいだよ?」
「あんたは出たそうね、ランド」
「ロランがいるんだもん。全勝間違いないよ」
「お前達、3人で出るつもりか?」
 ひそひそとランドとルナが話しているのを、衛兵が聞きつけた。
「まあ、参加人数は4人までと決まっているから、問題はない。ちなみに魔法は、スクルトルカナンなどの補助系以外禁止だ」