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蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・92

「……」
 洟をすする音がして、ロランはぼんやりとかたわらを見た。ランドが起き上がり、しきりにしゃくりあげている。反対側でも、ルナがローブの袖で顔を覆っていた。
「ふたりとも……夢を見たのか?」
「ロランも?」
 泣きはらした目で、ルナが問い返す。ロランも起きて、うなずいた。目元がひんやりとする。自分も泣いていたのだった。
 いつの間にか月が出ていた。夜半まで眠っていたのだった。
 さっき見ていた夢の内容を話すと、ランドとルナも同じだと言った。夢を見ながら抱いていた感情さえも、ロランとまったく同じだと。
「……勇者ロトが、この世界に来てくれて……よかった」
 ルナは淡く微笑んでいた。
「私、生まれてきたことを後悔しないわ。つらいこともあったけど、こうして旅をしている自分は好きよ。あなた達といると、楽しいもの。生きていてよかった。そう思える」
「うん。ぼくもだよ。――ぼくが旅に出たのはさ、ロランが旅に出たからなんだ。ロランと一緒に行きたい、それだけの気持ちだった。でも、今は本当に、世界を救えるなら救いたいって思ってるよ。ロランやルナ……父さんやアリシア達が、今まで通り平和に暮らせる世界にしたいっ、て」
 涙の残る瞳で、ランドも切なく笑う。ロランもうなずいていた。
「僕も最初から、世界を自分の力でどうにかできるなんて、考えてないよ。でも、その助けになるなら、そうしたい。僕は魔法が使えないし、勇者の子孫としては落ちこぼれなんだろうけど……ランドやルナがいてくれるから、こうして戦えるんだ」
「きっと私達、3人で1人なんだわ」
 ルナが言った。ロランとランドにたおやかな片手を差し延べる。
「一人一人じゃ、勇者ロトには遠く及ばないけれど……力を合わせたら、あの人に匹敵するくらいにはなれるんじゃないかしら」
「うん。きっと負けないと思うな」
 ランドが笑って、ルナの手に自分の片手を重ねた。ロランもその上に片手を重ねる。
「そうだな。僕らはずっと一緒だ」
 お互い見つめあって微笑んだ時だった。ふいに、空中にまばゆい光源が生じる。明るく燃えさかる炎の玉が、3人に心の声で語りかけてきた。

 ――炎は、万物を照らし、暖め、生命を育てる活力ともなれば、反して、すべてを焼き尽くし、滅ぼすものなり。
 勇者は、正と負、相反する力を併せ持つ者。癒しと破壊の力は相克なれど、強き心の力によって制御し、正義のためにこれを用いる。
 我が名は太陽。勇気とは、魂が駆り立てる正しき力の源。大義や義務、称賛のためには動かざる力なり。

 太陽の紋章は小さな三つの光となり、ロラン達の胸に吸いこまれた。あたりには静寂が戻った。
「太陽の紋章が心に刻まれた……のか」
 呆然としつつ、ロランは胸元に手を当てた。あは、とランドが間の抜けた笑いをもらす。
「まあ、よかったよね。このまま見つからないんじゃないかと思ってたからさ」
「そうよね。でも、あの夢……私は忘れないわ」
「僕もだよ」
 ロランは座ったまま木を見上げ、幹に触れた。そしてもう一度、心の中でロトに語りかけた。
(あなたがいてくれて……よかった)
 夢の中で振り返ったロトに、声は届いただろうか。
 優しい夜風に、木は、葉ずれのささやきで応えた。