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蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・88

 ロラン達がベラヌール拘置所に抑留されているころ、カイルはキメラの翼でローレシア城に帰還していた。事の次第を王に報告するためである。
(一刻も早く、王子達の身元を証明して保釈してもらわねば)
 取り次ぎも慌ただしく謁見の間に向かうと、王は玉座にて数名の神官と対面していた。近衛隊長シルクスが、部下のカイルの帰還に気づく。
「カイルか。よく戻ってきたな。しかし報告は後だ。今はこのように、陛下はお忙しいのだ」
「その者達は?」
「天の神の神官達だ。ベラヌールから来たらしい。お互いに世界の平和を担う存在として協力をしたいと、ローレシアに寄付を申し出てきたのだ」
 カイルの傍に寄り、声をひそめてシルクスは言った。カイルは嫌な予感がした。
「寄付ですって?」
「ああ。いったいどこで、彼らは我が国の財政難を聞きつけてきたのか。この話、裏があるかもしれん」
 シルクスが横目で神官達を見る。王は、慇懃にローレシア国の功績を述べている神官達を見定めているようだった。
 ふと、カイルは王の周りを取り囲む重鎮達に気づいた。城の大聖堂を任されている、壮年の大司教ミハイル、旅の扉の番人である老魔道士ガウディ、シルクスをはじめとする屈強な騎士達。
 単なる使節を迎えるための顔ぶれではない。
「……貴重なお申し出、まことに感謝の極みである」
 相手の話がひと区切りついたところで、王は重々しく口を開いた。
「しかし、この話は丁重にお断りさせていただこう。我が国民の善意のおかげで、なんとか重税を取らずに国政は成り立っておる。そちらも、差し出そうとされる寄付金は、民の労働の成果であろう。どうか、そちらの民のために使っていただきたい」
「なんと……高潔なお方と聞き及んでおりましたが、これほどの額を前にしてもそうおっしゃられるか」
 神官の代表格が、目を丸くしてみせた。慈善家らしい笑みが、カイルにはどこか冷たく映った。
「ならばいたしかたない。我が法王にはそのようにお伝えしましょう。……だが、こちらとしても何か成果が欲しい。手ぶらでは帰れないのですよ」
 それを聞いた王の目が危ぶむように細まった。室内に緊張が走った瞬間、神官達の姿が一変する。
 翼を広げた竜の彫刻がある長杖を携えた双角仮面の神官を筆頭に、棘付きの棍棒を持った神官の魔物、地獄の使い達が出現していた。
「やはりっ!」
 シルクスをはじめ、カイル達も抜刀して王の前に壁を作った。ミハイルとガウディが杖を構える。王も玉座から立ち上がり、椅子の背に隠していた長剣に手をかけた。
「おとなしくこちらの要求をのんでいればいいものを。苦痛をわざわざ求めるか、王よ?」
「もし我らが誘惑に負けていたら、堕落させて手駒にしようとしていたのだな」
 険しい目で王が悪魔神官を見すえると、悪魔神官デモニスは、仮面の下で邪悪に笑った。
「もしくは、甘美の内に、邪神への生け贄に」
「おぞましいことを……。皆、かかれっ!」
 シルクスが真っ先に言って、デモニスに斬りかかった。デモニスは竜の杖を軽々とあやつり、その剣を受けとめる。配下の地獄の使いがベギラマを唱えた。すさまじい閃光と火炎が王に襲いかかる。
「陛下、お下がりください!」
 カイルが身を挺して王を後方に退かせた。魔法の鎧を装備した近衛兵が数名盾となったが、炎熱の威力に悲鳴を上げる。
ベホイミ!」
 ミハイル配下の尼僧達が、傷ついた兵士を回復させる。
「カイル! お前は陛下をお守りしろ!」
 シルクスが怒鳴り、再びデモニスに斬りかかる。カイルは王を背にかばい、壁際に下がった。
 魔道士ガウディが、スクルトの呪文を唱えた。味方の装備の強度を上げ、守備力を高める魔法だ。尼僧達が一斉にマホトーンを唱和する。デモニスを除く配下の魔物は魔法を封じられ、白兵戦に持ち込んできた。
 神官や魔道士は武力に劣るものだが、ハーゴン配下はどちらも秀でているらしい。振り下ろす棍棒に何人も倒れていく。しかし、ミハイルの僧侶隊が懸命に回復させ、勇敢なローレシアの兵は何度も立ち向かった。勇猛な攻撃に、一体、また一体と配下の地獄の使いが消えていく。
「なかなか手ごわい。ならば、一気にけりをつけさせてもらいましょう」
 最後に残ったデモニスは、両腕を伸ばして杖をぴたりと据えた。棘付きの球体に、細かな光の粒が結集し始める。それを見たガウディが叫んだ。
イオナズンじゃ! 発動したら城が吹っ飛ぶぞ!」
「なっ――」
 シルクスが青ざめる。ミハイル達がマホトーンを唱えたが、デモニスの詠唱は止まらない。集まる光はどんどん大きくなっていく。あれが弾けてしまったら――。
「うわあああっ!」
 カイルは絶叫し、デモニスに向かって突進していた。シルクスも我に帰り、剣を構えて後に続く。
ルカナンッ――!」
 ガウディが後方で守備力を下げる魔法を使った。デモニスの体が暗い青の光をまとう。奇跡的に効果が発動したのだ。
「だああっ!」
 カイルが跳躍し、鋼鉄の剣を降下する勢いに乗せて振り下ろした。
「むっ――」
 肩を割られて、さすがにデモニスは体を揺らした。精神集中が途切れ、結集していた光が弱まる。そこへ、シルクスが懐に飛び込んで剣を胸元に突き立てた。ぐっ、とひと声上げてデモニスは後じさった。イオナズンの光が杖から消える。赤黒い血がローブを染めていく。
「――やったか?!」
 カイルはシルクスとともに間合いを取った。よろめいたデモニスはうつむき加減に低く笑う。
「――ベホマ!」
 デモニスの唱えた回復の呪文で、傷が一瞬で治癒された。
「くっ、これではきりがないぞ」
 シルクスが歯噛みする。先ほど作った攻撃の機会は、ある意味偶然のようなものだ。今度はその隙を見せまい。
 あとどのくらい相手に魔力が残っているか見当がつかない以上、長期戦はこちらにとって不利だった。
「倒すのは難しいか……。ならば、追いつめよ!」
 ミハイルが叫んだ。どうやら考えがあるらしい。カイル達は勇気を奮い立たせて、デモニスに斬りかかった。
スクルト!」
 デモニスもまた、自らの守備力を上げて対抗してくる。一見ただの布のローブに見えるが、スクルトの効果もあって、カイル達の剣や槍を受け流すほどの強度になった。そして竜の杖を振り上げ、先端から雷撃を放ってくる。イオナズンは隙が大きいとして、こちらの攻撃に切り替えたのだ。
 ほとんど精神集中を必要としない杖の効果はすさまじく、また、電撃は魔法の鎧でも軽減できなかった。何人もの騎士が倒れ、前衛で残ったのはシルクスとカイルのみになっていた。
「――今もロラン達が命懸けで戦っておるというのに……わしだけ守られていて、よいものか」
 王は長剣を抜いて、壁際から歩み寄ってきた。いけません、とシルクスが叫ぶ。
「御身に何かあっては! ここはお下がりください!」
「いいや。わしもロトの末裔。一戦もせず朽ち果ててしまうのは惜しいと思っておったところよ」
 厳しい面持ちで、王は宝石を散りばめた、金色に光り輝く剣を青眼に構えた。その幅広い刃や長さに反して、驚くほど軽い魔法の品だ。その名も光の剣という。
「王自らお相手くださるか。それは光栄、光栄」
 デモニスはこちらを嘲笑った。
ムーンブルク王ヒンメルは、少々ふがいない最後でしたからな……。その腕の程、楽しみですよ」
「――覚悟っ!」
 ムーンブルク王の名を出された王の顔色が変わった。ヒンメルは彼にとってかけがえのない親友であり、従兄弟であった。そのかたきが目の前にいては、感情も抑えきれないだろう。