蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・78

「それで、さっそくだけど何かつかめたの?」
 ルナが尋ねる。カイルはうなずいた。
「はい、わずかですがお役に立てるものもあるかと。一度お城に戻って陛下にご報告を考えておりました矢先、こうして王子様達に出会えたので、幸運でした」
 カイルが話したのは、次のことだった。
 まず、ベラヌール北の祠には3つの旅の扉があり、その番をしている老賢者が、ハーゴンについて話してくれたということ。それによると、ハーゴンの神殿は訪れる者に安らぎを与えるのだという。
「それはきっと、まやかしね。竜お……あの人も言っていたわ。ハーゴンは幻術が得意だって」
「おっしゃるとおりでしょう。各地で人を襲う集団が、来る者に安らぎを与えるなどと、矛盾にもほどがあります」
 それから、カイルはデルコンダルについて話した。
デルコンダル王国はローレシアの南にある古い国ですが、そこでひんぱんに武闘大会を開いているとか。命を落とす者こそいませんが、国民は熱狂してひいきの戦士を応援するんだとか……。我々には想像できない娯楽ですね」
「武勇に名高い国らしいけど……。父と過去に会見した時は、そんなに悪い人物ではないと聞いていた」
 ロランが言うと、カイルはうなずいた。
「傭兵業もさかんで、腕利きを各地に派遣しては町の防衛に当たらせたり、魔物退治を受けたりしているようですね。ローレシアとも同盟を結んでいますし、もし何かあっても国防は大丈夫でしょう」
「その大会は連日開かれているのですか?」
 ランドが尋ねると、カイルは、半月と満月の日だけだと言った。
「国ができる前から住んでいた人々は月の満ち欠けを信仰していて、その風習やらが今も根強いんです。半月と満月は人間の生死を意味しているとかで、それで大会もその日に行われているんだとか」
「月に関係しているのか……。そういえば、月に関連することって、世界ですごく多いんだな」
 ロランがつぶやくと、ルナが言った。
「そういえばそうね。私の名前やムーンブルクもそうだし。古い文献で読んだんだけど、かつて勇者ロトが世界を闇に包んでいた大魔王を倒すまでは、何十年も夜のままだったそうよ。星と月だけが空の明かりだったんですって。だからかもしれないわね、夜空で一番明るい月が、太陽のかわりに人々に重んじられるようになったのは」
「なるほど。ルナ様のおっしゃる通りかもしれません」
 と、カイル。あ、とランドが顔を上げた。
「そんなに月に関係あるんなら、月の紋章はそのどこかにあるのかもしれないね。月の名前が付くところか、月にこだわって開かれるっていう、デルコンダルの武闘大会か」
「なるほど、そうかもな。よし、あとで行ってみよう」
「ロラン様、紋章とは?」
 カイルが不思議そうな顔をした。ロランは簡単に、ハーゴンの幻術を打ち破るために、世界各地に散る紋章を探しているのだと説明した。
「そうでしたか。それなら、デルコンダルから南に下った所に、炎の祠という旅の扉を守る場所があります。そこは昔から太陽を信仰した祠で、今でも魔法の炎が燃えさかっているんだそうです。太陽の紋章に関係しているかもしれませんよ」
「そうか、ありがとう。覚えておくよ」
 本当に助かったとロランが礼を言うと、カイルはうれしそうな顔をした。
「そう言っていただけると。私も頑張ったかいがありました」
 その晩は、カイルも交えて夕食を取った。王子達と同じ席で食べることに、カイルは恐縮と感激をごちゃまぜにしていたのが微笑ましかった。


「――それじゃあ、おやすみ、ロラン」
 食事と風呂を済ませ、各自が部屋に入る時、ランドが振り向いて言った。ああ、とロランはいつも通りに返事をした。
「おやすみ」
 ランドは微笑み、ロランの隣の部屋に入った。なぜか立ち去りがたい思いに駆られたが、きっと大丈夫だと無理に自分に言い聞かせ、自分の扉を開けた。


 翌朝、身支度を済ませて朝食を取るために部屋を出ると、隣からルナも出てくるところだった。
「おはよう、ルナ」
「おはよう、ロラン。……あら? ランドはまだなの?」
「これから見に行くところだけど……」
「あ、そうよね。いつも同じ部屋から出てくるから忘れてたわ」
 別室だったのを思い出し、ルナは笑った。ランドの部屋の前に立ち、扉を軽くたたく。
「ランド、起きてる? 朝ご飯食べに行くわよ」
 しかし、返事がない。熟睡しているのかと思ったが、一瞬、嫌な感じがロランの胸をよぎった。扉に顔を近づけ、ルナより強くたたく。
「ランド? いるんだろ? 開けてくれ!」
 やはり、何も応えなかった。ロランは扉の取っ手に手をかけた。回る。鍵がかかっていない。
 ぞっ――と、悪寒が背筋を走った。ロランは扉を押し開けた。
「――ランド!!」
 ベッドを前に、ランドが床に横倒しに倒れていた。装備は解かず、昨日部屋で別れたままだ。シーツがぐしゃぐしゃになってベッドから引きずり落とされている。横になろうとしてその場で倒れ、苦しんだあげくにそのまま気を失ったのだろう。
 ロランは吐きそうになった。胃が石を投げ込まれたように冷たく重くなり、胸が苦しくなる。恐れていたことが起こってしまった。
「ランド!!」
 叫び、ロランはランドに駆け寄ると抱き起こした。ランドは蒼白になって目を閉じていた。胸に耳を押し当てると、弱々しいが鼓動はあった。揺すぶって呼びかける。
「ランド、ランド、起きてくれ! しっかりしろ!」
「ロラン、どいて!」
 傍に膝をついたルナが、両手をランドの胸の上にかざす。まばゆい光が手からほとばしった。
ベホマ!」
 ホイミ系の最上位の魔法で、瀕死の者も全快する効果がある。だがランドの胸元から放たれた黒いもやがぶわりと広がり、奇跡の光ははね返された。
「きゃあっ!」
 見えない力に弾かれ、ルナが床に倒れこむ。すぐに体を起こすも、めったに見せない恐れが顔に出ていた。
「なに、これ……。ベホマをはね返すなんて、普通じゃないわ」
「ロラン様、どうされました……ああっ!」
 騒ぎを聞いて駆けつけたカイルと宿屋の主人が、倒れたランドを見て棒立ちになる。
「ロラン様、いったいこれは……!」
「……わからない」
 ロランは冷たくなったランドに頬をすり寄せ、こわばった手を取り、甲に唇を押しつけた。そうすることで、自分の熱をランドに与えようとしているかのようだった。
 だが、ロランは自分が今何をしているかもわかっていないだろう。ぐったりした体を抱きしめて、言葉もない。固く目を閉じ泣き出しそうな顔を見て、ルナは鋭くカイルを振り向いた。
「医者を捜しに行きましょう! 病気に詳しい人でもいいわ、急いで!」
「はっ、はい!」
「あ、ああこの辺にいる薬師なら知ってますよ! お教えしましょう」
 宿の主人が慌ててその場所を教える。いくらかこの町に詳しいカイルが、そこへルナを連れて行くことになった。
 部屋を出る前、ルナはロランを振り返った。ロランはそちらに目を向けようともせず、ランドを抱きしめたままうずくまっていた。ルナは痛みをこらえるように唇を噛み、カイルとともに部屋を出た