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蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・75

 小さな村には宿屋ではなく、一軒だけ民宿があった。だが長く旅人が訪れないので、宿の主人は裏の畑で大根を抜いていた。
「すみません。一晩泊めていただきたいのですが……」
 ロランが声をかけると、主人は折り曲げていた腰を伸ばして驚いた顔をした。
「おお、お客さんかい。珍しいねえ。ようこそ、テパの村へ」
 家の中で作業している女房に客だと呼ばわり、主人は大根を載せた籠を抱えてロラン達を案内した。今すぐ食事もしたいと告げると、喜んで食卓の準備をする。
「ははあ、モハメのじいさんに仕事を頼みにねえ。その若さでこんな山奥まで。たいしたもんだ」
 せっせと給仕をしながら、主人はうなずいた。料理は、村の畑で採れた野菜と、牛や豚の肉の煮込みが中心だった。焼きたてのパンはふかふかで甘く、ロラン達は夢中で食べた。子どもらしい食欲に微笑み、主人はもっと食べろと自家製チーズやハムも切り出してくる。
「でも、残念だけどじいさんはもう、仕事をしないよ」
「えっ……どういうことですか?」
 熱々のチーズをナイフでパンに塗っていた手を止め、ロランが尋ねる。
「この間……つっても2、3年前か。怪盗ラゴスって変な泥棒が、じいさんの商売道具の織機を盗んじまったんだよ。聖なる織機っていって、この世に二つとないものだそうだ。それがないと水の羽衣も織れないんだと」
「ひどいわ。きっとどこかに売りとばしたのね」
 ルナが眉をひそめると、主人はどうかねえ、と言った。
ラゴスはそこらの泥棒と違うんだ。盗む前に予告状を送ってくるんだ、今夜ちょうだいしますとかなんとか。で、誰も知らない間に盗っていく。あいつはただ、盗みの腕を試したいだけなんだろうな。迷惑なやつだよ」
「行方は分からないのですか?」
 ロランが訊くと、主人は肩をすくめた。
「こっちでも人を出して探してるんだ。何しろあいつは、村の大事な水門の鍵も盗んでいったからな。おかげで湖に通じる川が干上がって、外部からの交流が途絶えちまった。あんた達も、だから陸路で来たんだろ」
「そういえば、村の南に川を挟んで島が見えましたが……あそこに立っているのは塔ですか?」
 ランドが質問する。主人はうなずいた。
「ああ、気づいたかい。あれは満月の塔っていって大昔からあるんだが、そこにある月のかけらってお宝を見つけた人間は誰もいないんだそうだ」
「月のかけら?」
「村には不思議な力を秘めた宝石だって伝わってるんだが、見たやつもいないから、どう不思議かもわからんよ。川が島を囲んでるから、前は船で行き来できたんだが、今じゃこのありさまだしね。お宝目当ての冒険者も探検に出てたみたいだけど、強い魔物がたくさん巣食ってて、みんなすぐに逃げ帰ってきたらしいよ。それより、もっとチーズを食べるかい?」
 主人のすすめをありがたく頂いて、いったんロラン達は民宿を出た。まだ日が高いので、ドン・モハメに会っておきたかったのである。
 しかし、村人に尋ねて訪れたモハメの家は、鍵がかかっていた。戸をたたいても、返事がない。
「しかばねのようだ……」
 ランドがつぶやいたが、冗談かまともなのかわからなかったので、ロランもルナも無言でいた。
「……とりあえず、装備の店でも見ない?」
 ランドは動じず、彼の言うとおり装備の店を探した。


 武器防具の店は村の南に構えていた。こののどかな村では、村人も買い物にこないだろう。ひまそうな主人が、副業の畑仕事にでも出るのか、裏口から現れた。やってくるロラン達を見て、おっという顔をする。
「すみません、品物を見せていただきたいのですが」
 ランドが頼むと、店主は相好を崩した。
「やあ、久しぶりのお客さんだ。どうぞどうぞ、見て行ってくださいよ」
 ロラン達が少年でも丁寧な対応である。これだけへき地に住んでいると、魔物も強力だ。それをくぐり抜けてこられる人間を、見た目や年齢で判断しないのだろう。