蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・74

 いきさつはともかく、食事当番の交代制は良い気分転換になった。最初はロランの番だった。海育ちのせいか、味つけは塩が中心だが、スープも焼き物も、素材の味を引き出していると二人に評判が良かった。刃物の扱いも慣れているので、切り方も鮮やかである。
 その次はランド。ランドの当番の時はいつもより時間が遅れた。その理由は、しっかり食卓に現れた。
「こ、これは……!」
「……やだ、何これ、かわいいっ……」
 その日の夕食にロランとルナは驚愕し、なかなか手を付けられなかった。テーブルに湯気を立てているのは、なんとスライムだったのである。
 米を炊いて味を付けて炒め、カップに入れて皿に盛り、スライムの形を整えたところへ、ゆで卵を輪切りにした目とハムで作った口を貼り付けて完成。付け合わせのオニオングラタンスープは、おおなめくじの顔になっていたのはご愛敬か。
「いやー、頑張っちゃったよ」
 こんな料理は初めてだったので、褒めまくる二人に、ランドは照れて笑った。もちろん味も良く、ルナが作り方を熱心に聞いていた。
 3番目の当番はルナだが、ランドの料理に触発されたのか、いつも手際よく準備するルナが、食事の時間を大幅に遅れて作った。腹を減らしたロランとランドに出してきたのは、普通のシチューだった。しかしルナいわく、自信作だという。
 こってりした黒っぽい色合いにスプーンをつけるのをためらったが、ルナが作ったのだからおいしいはずと、ランドとともに口にした。
 一口食べて、絶句した。
 口の中に広がるスパイスの不協和音、まったく感じられない元の素材の味、食感であった。
 いつも何かしら前向きなことを言うランドも、スプーンをくわえたまま半端な笑みを浮かべていた。たぶん、しゃべろうと息継ぎをしたら吐きそうだったのだろう。
 ロランとランドの様子がおかしいのを見て、ルナは首をかしげた。自分でも一口食べてみて、うっ!と頬がふくらんだ。
「……ルナ、これ味見しながら作った?」
 おそるおそるロランが尋ねると、ルナはふるふるとかぶりを振った。
「で、でも、おいしくなるはずだったのよ……私の考えた調合だと。理論上はね!」
 来た、理論上。ロランとランドは弱々しく笑った。ルナは人一倍頭が良いせいか、実践より脳内で完成させてしまうことがある。
「い、いや、これも面白い味だよ? ルナには珍しく冒険した味覚じゃないかな……」
「だめよ、こんなの! 全部食べたらおなか壊すわ! もう捨てるッ!」
 ようやくスプーンを口から離したランドが励ますと、ルナはわあんと泣きながら細腕でシチューの大鍋をつかみ、追いかけた二人が止めるのも聞かず舷側に走って中身をぶちまけた。
 すると、海中からぷかりぷかりと何かが浮かんできた。夜目にもわかるのは、しびれクラゲの群れだ。どうやらルナのシチューを食べて当たったらしい。
 3人は黙った。魔物も倒すその威力、聖水より強力だとロランは思った。もう二度とルナはそのシチューを作らないようだったが。


 風にも助けられ、船は素晴らしい速さで進んだ。そして数日後、ロラン達の船はテパへ続く第一の河口付近に着いた。
「すごい。月がきれい」
 甲板に出たルナが、天空に浮かぶ巨大な満月に感動する。海面に浮かぶ月影の美しさは格別だが、今回は際立っていた。空と海が一面に白く輝き、上下の感覚がなくなる。船は光の中に浮かんでいるようだった。
 ランドが月に目を細め、「いよいよだよ」と言った。ロランが舵を取って船を河口に近づけると、それは起きた。
「川の水が逆に流れ始めた?!」
 ロランは一瞬目を疑った。だが間違いなく河口の水は上流へすさまじい勢いで流れていく。船はそれに乗ってぐんぐんと川をさかのぼり始めた。
 これが、ルートンが言っていた「珍しいもの」だったのだ。月の満ち欠けによる川の逆流現象のことを、ランドも知っていたのである。
「ひゃっほぉ」
 舷側に両手をついて髪をなびかせ、ランドが妙な歓声を上げ、ルナも瞳を輝かせて前を見つめていた。ロランも、月光の下の疾走にひたすら感激していた。
 風向きも川上に向かっており、船は自走機関を使わずとも帆と流れの力だけで上流まで走った。自走機関と帆で遡上していれば、2、3日はかかったところだ。
 明け方に上陸地点まで到着し、そのまま船に泊まって朝を待った。そして日が昇ってから、船を係留してテパへの道をたどった。
  しかしここからがきつかった。ほとんど人が通らない山道は断崖も多く、3人は助け合いながら一つ一つ山を越え、森を抜けた。その苦労の合間に、魔物が襲ってくる。
 毒々しい桃色の大猿ヒババンゴは、マンドリルより知性が高く、幻惑の呪文マヌーサや、守備力を下げるルカナンの呪文を唱えてから殴りに来る恐ろしい相手だが、魔力を奪い取る青い人形パペットマンも、長旅に魔力を温存しておきたいランドとルナを苦しめた。
 金色の毛皮を持つゴールドオークは槍の達人で、毛皮も固い強敵だ。余程の自信の表れか、これは単体でしか出ないことが救いだった。
「ぼくって狙われやすいのかなぁ……弱そうに見えるから」
 戦いが終わった後、ルナにべホイミをかけてもらいながらランドが苦笑した。おそらくそいつらは、一番弱っていそうな相手を選んでいたのだろう。ロランの胸が詰まったが、ルナが微笑んで励ました。
「きっと装備のせいよ。テパには良い武器職人もいるみたいだし、着いたら何か探してみましょう」
 森を何日も進み、山脈を迂回する苦しい道のりを経て、やっと3人はテパの村に着いたのだった。