蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・70

「どう思う、ロラン」
 また3階へ戻りながら、ルナが訊いてきた。ロランはすぐに答えることができた。
旅の扉が、ベラヌールにあるんだ。きっとそれが、ロンダルキアのどこかにつながってるんだ」
「そうよね。私もそう思ったわ。でも噂でしか伝わってないってことは、ベラヌールはそれを隠してるんだと思う」
「神聖都市、なんて名前が付いてるくらいだもんね。魔界とつながってたら、物騒だよね」
 ランドが言った。ロランも同意する。
「ああ。きっと大昔から旅の扉ベラヌールとつながっていて、それが厳重に守られてるんだろう。でも……ロンダルキアは、こちらから見ると、きれいな山だった。魔界って呼ばれたのは、いつからなんだろうな」
「そうね……。ハーゴンの名前が出てきたのは、そんなに昔じゃないから、魔界に近いっていう噂が流れたのも、ハーゴンがそこを根城にしたせいよね」
「その噂を流した人は、すごいね」
 どことなく緊張感のない声で、ランドが言った。いつものことだ。しかし、その声音の裏は真剣なのを、ロランとルナは知っている。
「街ぐるみで秘密にしていたことを他の人にしゃべっちゃったんだもんね。つまり、問題の旅の扉がどこにあるかも知ってるってことだよね」
「そうか……確かに。その人に会えれば、ロンダルキアに近づけるかも」
 ロランが名案とばかりに笑顔を浮かべたが、ルナは苦笑した。
「それも、雲をつかむような話だわね。その人がどこにいるかもわからないんだし」
「あ、そうか……」
「探すといえば、紋章は?」
 2階まで戻ってきて、ランドがふと立ち止まった。あ、とロランは口を開けた。
「忘れてた……」
「もう、ロランったら。って、私もさっきの話で忘れてたけどね」
 ルナも気恥ずかしげに笑う。ロランは鞄から山彦の笛を取り出した。
「外では山彦が返らなかったけど、ここなら反応するかも」
 ロランは山彦の笛を吹いた。ぬくもりのある音色が旋律を奏でる。すると。
「……あ?!」
 3人はお互いを見た。かすかだが、確かに旋律が返ってきたのだ。まるで、自分はここだと教えるかのように。
「ロラン、もう一回!」
 ランドがせかした。ロランは、今度は別の旋律を吹いた。どこかにある紋章へ呼びかけるように。やはり、音色が返ってきた。
「間違いない、ここにあるんだ」
 ロランは笑って笛をしまった。でも、とルナ。
「また一から探さないとならないのね……」
 ここまで来た労苦を思うと、もう動きたくなくなってくる。がんばろ、とランドが励ました。
「ぼく、行ってない階段とか覚えてるからさ。今度はそこへ行けばたどり着くと思うよ」

 

 ランドの記憶力に助けられ、ロラン達は別の順路で7階までのぼってきた。しつこく襲ってくる魔物は、できるだけ駆け足で逃げ、どうしても避けられない場合のみ戦ったが、それでも消耗は激しかった。
「そういえばさ、紋章って形がないんだよね?」
 7階は、8階まで続く区画と、別の階下へつながる区画とに区切られている以外、壁が崩れて吹きさらしになっていた。夕方が迫って風が強くなり、高度もあって少し肌寒い。
 疲労で、さすがのロランも頭がぼうっとしている時に、ランドが話しかけてきた。
「形がないのに、どうやったら見つけられるのかなあ。宝箱を開けると出てくるとか?」
「知らないよ……。それを考えたくないから、ここまでのぼって来たけど。紋章がありそうな宝箱なんてなかったもんな」
 ロランもため息をついた。ルナも疲れて億劫なのか、黙っている。それを見て、ランドは微笑んだ。
「でも、きっと見つかるよ。どういうものなのかわからないけどさ、もしかしたら、ぼくらを見つけて向こうから来るかもしれないよ」
「あなたは、どうしてそう、のんきなの?」
 ルナの言い方がきつくなった。ロランが止めかけたが、ルナの口が早かった。
「今の状況、ちゃんとわかってる? 私もあなたも、もう魔法力がほとんど残ってないのよ。回復呪文が使えなくなって、ロランが力尽きるようなことになったら、生きてここから戻れないかもしれない。紋章らしきものも見つかってない。それなのに……どうしてそんなに気楽でいられるのよ」
「ん……」
 ランドは目をぱちぱちさせた。ランドが傷ついたのではと、ロランはひやひやしたが、彼の澄んだ空色の瞳は濡れなかった。
「そう思うからさ。きっとなんとかなる、って」
「なによそれ! 無責任じゃない?」
「やめろ、ルナ!」
 ルナが声を荒らげると、さすがにロランが間に入った。そこへ、しわがれた笑い声が響いてきた。
「迷子になって、お困りですかな? そうそう、人間、腹が減って疲れては気も立ちますからな」
 ぎょっとしてロランが振り向くと、長い杖をついた青いローブと頭巾の老爺が、胸までの白髯をなびかせてこちらへ歩いてくる。
「あなたは……?」
 こんな所に、あの戦士以外で人がいたとは。しかし、戦士は何も言っていない。ロラン達は警戒して老爺を見た。
「お話、じじいにも聞こえておりました。お若いの、紋章をお探しとな?」
 ロラン達が黙っていると、老爺は微笑み、手のひらを差し向けた。
「あいや、どうか何もおっしゃらず。紋章を欲するなら、じじいについてきてくだされ。必ずありかに案内して差し上げましょう」
 ロランとルナは目配せした。これは罠に違いない。危険に踏みこむわけにはいかないと、ロランが拒否を言おうとした。だが。
「それでは、よろしくお願いします」
「ランド?!」
 ランドが一歩前に進み出て、ニコニコしながら老爺に頼んだのだ。ロランはランドの肩をつかんだ。
「おい、さすがにこれはまずいんじゃないのか? こっちにはもう……」
 余力がないんだ、と言おうとして、老爺の視線に気づき、やめる。ランドは「大丈夫」と繰り返した。そして、ロランだけに聞こえる声で言う。
メタルスライムの穴に入らずんば、はぐれメタルを得ず、さ」
 ロランは複雑な面持ちでランドから手を放した。老爺はにっこり笑った。
「では、ご案内いたしまする」