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蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・64

 地下は広く、多くの通路へつながる階段があったが、不思議と迷うことなくロラン達は下へ下へと降りていった。地下6階まで降りると、広大な空間が3人を迎えた。
「広い……」
 上を見上げてロランは吐息をもらした。暗いせいで遠くの壁や天井が見えない。まるで闇に浮かんでいるような錯覚を起こさせ、ランドはあの悪夢を思い出した。
「……っ」
 胸の痣が痛み、思わず顔をしかめる。わずかに肩が丸まったのを、ルナが気づいた。
「ランド、どうしたの?」
「う、ううん、なんでもない」
 ランドは急いで姿勢を戻した。
「あんまり広くて、怖くなっちゃったかも」
「はぐれるなよ。そんなに怖いなら、僕につかまれよ」
「あははっ、そうしようかな」
 ランドは明るく笑ってみせた。結局ロランの袖はつかまず、先へ進む。
 まっすぐ歩いていくと、方向感覚もおかしくなってきた。このまま闇にのみ込まれてしまうのではと思い始めた時、ロランの持つたいまつが二体の竜の像に挟まれた下への階段を照らした。
「行くぞ」
 ひと声かけて、ロランが先に降りる。ランドとルナも続いた。
 階段は長かった。降りていると、奇妙に酔う感覚がある。両脇を石壁に囲まれていたが、次第に目の前が明るくなってきた。階段は壁を失い、そのものが宙に浮いて下方へと架け橋になっていた。
「これは……」
 階段を下りながら、ロラン達は周囲に広がる光景に圧倒されていた。
 地下深く降りたはずなのに、そこは海だった。光源がどこにあるかわからないが、青い空間は夕暮れのようにあたりを見渡せる。上と下の境界線がなく、目を凝らしても青い霞しか見えなかった。
 降りた先には、石を組んだ壮大な城が建っていた。入り口に扉はなく、長い回廊へと続いている。
「たぶんここが、あの竜王の居城なんだな」
 高さのある入り口を見上げ、ロランはつぶやいた。
「魔道士のお爺さんは、邪悪ではない気配がいるって話してたけど、ここかなあ?」
「確かめてみるしかないわね」
 用心しながら、ロラン達は回廊へ足を踏み入れた。城内は静寂に満ちており、魔物の影はなかった。長い回廊を北に行き、東へ折れると、二本の小さな橋が架かった浮島のある庭園に出た。その先に、城の向こう側へ続く入り口が見えた。
 浮島を渡って向こう側へ着く。そこからは、床に豪華な意匠の絨毯が敷かれていて、壁にも凝った装飾のかがり火が燃えていた。
「やっぱり誰か住んでるんだ……」
「ちゃんとご飯食べてるのかな……」
 絨毯は毛足が深く、足音がしない。ロランの誰ともなしの問いに、ランドが少し心配そうに答えた。
 廊下は短く、3人は金の装飾がされた大扉へ着いた。目を見交わし、ロランが開けようと手を伸ばすと、中から深い声がした。
「ようこそ、ロトの末裔の諸君。入りたまえ」
 ぎょっとして、ロランは弾かれたように手を戻した。扉は触れられることなく、両内側にすっと開いた。

 

 艶のある布と装飾に飾られた広間にある、巨大な金色の玉座には、一人の男が肘掛けに頬杖をついて座していた。左手には、竜の頭を模した木の杖を携えている。
 紫のローブに赤い縁取りの付いた扇状の白い襟が、両脇に伸びた角のような黒髪の後頭部を飾っていた。この奇妙な頭部は、髪をそのように固めたのか、頭蓋骨そのものの形なのか判別がつかない。
「待っていたよ、勇者の子孫達。私は竜王のひ孫だ」
 こちらが問いかける前に、男は名乗った。青ざめた肌に眉のない整った顔は、若々しくもあり、壮年にも見える。
 その見た目もさることながら、堂々と名乗った身分に、ロラン達はあっけに取られた。
「……竜王の、ひ孫だって?」
 ようようロランが口を開くと、竜王のひ孫は唇の端を上げた。
「そうよ。にわかには信じられぬだろうがな」
竜王は倒されたはずじゃ……。子どもがいたの?」
 ルナが不信を露わにすると、竜王のひ孫は頬杖の姿勢を崩さず答えた。
「私の一族は、唯一にして個なるもの。この体も魂も一つしか存在しない。よって親は自分であり、子もまた自分なのだ。お前達の先祖が殺した竜王は、その死後、卵に変化した。その卵が孵(かえ)り、成長し寿命を終え、また卵になり……私が4代目というわけだ」
「100年前の竜王は、ローラ姫を伴侶にしようとしましたけど?」
 恐れもなくランドが尋ねると、竜王のひ孫はわずかに顔を反らして笑った。
「はっは。魔王に成り果てた曾祖父は、人間の妻を迎えることで、闇の覇者として人間達に印象づけようとしたのだ。ローラ姫は当時、アレフガルドの平和の象徴であった。決して恋慕によるものではない」
「待っていたと言いましたが、どうしてですか?」
 竜王を名乗る以上、先祖の因縁深き相手だ。しかし邪気は感じられず、ロランも敬語になっていた。
「最近、ハーゴンと名乗る輩がアレフガルドにまで進出してきた。ここに来るまでに、けがらわしい魔物どもを見たであろう。我が城にも幅を利かせておる。実に不愉快じゃ。そこで、お主らに手を貸そうと思ったのだ」
「手伝ってくれるんですか?」
 ランドが目を丸くする。ふふん、と竜王のひ孫は皮肉に笑った。
「ともに戦うわけではないぞ、緑の王子よ。しかし、必要なことは教えてやる」
「そんな……都合が良すぎるわ。そんなにハーゴンが不満なら、あなたが出て戦えばいいじゃないですか。竜王の子孫なら、それだけの力があるはずでしょう?」
「剛毅な姫よ。その言い分もっともだな。だが、私はここを動くことはできん。私が動けば、闇もまた動く。ハーゴンの魔物が力を振るう今、私が自分の闇を引きずってあちらへ攻め込めば、世界の均衡が崩れるのだ」
「均衡が崩れる……?」
 ロランが繰り返すと、竜王のひ孫は斜に構えていた姿勢を正しく戻し、3人を正面から見すえた。
「そうだ。私の一族は本来、天に属する者だ。魔物は魔界に属する。魔王や邪神などは、普段はそこに棲み分けている。しかし、我が先祖の竜王は、魔界から来た魔物ではなかった」
「天に属するってことは、神様だったんですか?」
 ランドの質問に、竜王のひ孫は深くうなずいた。
「そうだ。竜は神だ。世界で一番尊く、中心となる存在だ。その下に天界を統べるあまたの神々がいる。大地の精霊ルビスもその1柱。曾祖父は、もとは上の世界を治める竜の女王の子であった」
「上の世界って……?」
 ロランが眉を寄せる。竜王のひ孫は、にやりと笑った。
「長くなるが、聴くかね?」