蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・61

【悪夢来たりて】
 
 ラダトームから東の船着き場へ戻ったロラン達は、陸沿いに航路を取って北進し、アレフガルドの東側へ回り込んでいた。
 目指すは竜王の島。海路だと、北アレフガルドの東にある海峡を西に進めば行けるのだが、島近辺の海流が複雑なため、かつて存在した町、リムルダールのあった南アレフガルド島を目指していた。そこから陸路で渡ろうというのである。
 ラダトーム城で思いがけず歓待を受けたロラン達だが、祝宴の次の日に町をあとにした。旅立つ前に大司教サウエルに懇願されて、集まった町の人々に、城の露台で顔を見せることになってしまったが。
 町の人々は、ロト三王族の来訪を純粋に信じ、喜んでいた。万歳を叫び、激励の声を上げた。それほど心にすがる相手に飢えていたのだ。一番頼りにしたい王が不在なのだから、無理もない。
 紙吹雪が舞う大歓声の中、手を振ってみせながら、ロランは群衆の中で一人、複雑な顔をしてこちらを見る壮年の男を見つけた。
 人品卑しからぬ茶色い髯の男は、ロランと目が合うと、そそくさと人混みをかきわけて去ってしまった。
(あれはきっと、政務から逃げているっていうラダトーム王かもしれないな)
 船の縁に両肘を乗せて風に当たりながら、ロランはそれを思い出していた。
 一体どんな気持ちで自分達を見つめていたんだろう。王としての責務を投げ出した恥ずかしさを、これで少しは反省してくれればいいが。
 それでも逃げ続けるなら、一刻も早く彼の不安の原因であるハーゴンを倒すしかない。王の不在は国の存続にも関わるのだ。
 そこまで考えて、ロランは今も国を守る父を思って、胸が痛くなった。父は何も言わないが、その苦労と重圧は計り知れないだろう。自分の判断で国民の生死が決まってしまうこともあるのだから。
 自分の行動で誰かの――世界の生死が決まるというのなら、ロラン達の肩にも、それはかかっているのだ。
(戦うしかない。勝つしか、道はないんだ……)
 ロランは自分の右手を見つめ、ぎゅっと握りしめた。
「あれがリムルダール地下道ね」
 ルナが傍らに来て、右手を示した。ロランも顔を上げて、北アレフガルド大陸の岸を見る。遠目に、ローラの門に似た関所のような建物が見えた。
竜王に捕らわれたローラ姫が、半年間も幽閉されていた場所……」
 見つめるルナの金色の髪が、潮風にあおられた。ロランも、ローラ幽閉の話を思い出していた。
 竜王は、慈愛と安らぎの象徴として慕われていたローラを、世界征服の暁には妻にせんと、その地下洞窟に幽閉していたという。そこは勇者ロトの時代に、当時の王が北アレフガルドリムルダールの町を結ぶ通路として造らせた地下道だった。
 ローレシア1世がローラをそこから助け出したあと、旅の間抱き上げたまま城まで連れて帰ったことは、強き男の手本として伝えられている。世界中の子ども達が、おとぎ話として聞かされる逸話だ。
「でも本当のところは、半年間も幽閉されてたから、足が弱って歩けなかったのよね。初代は当然のことをしただけよ」
 ルナが苦笑した。
「現実ってそういうものよね。ラダトームの人達は、私達を見てあんなに喜んでたけど、私達がどんな思いで旅をしているかまでは、きっと考えていないんだわ」
「そうだな。みんな自分の理想を僕達に見て、その幻に期待している。でも僕達は、その期待に応えなきゃならない。邪教をなくして世の中を平穏にしたいって気持ちは、同じだから」
「ええ……私もそう思う」
「ところで、ランドは?」
 ロランは甲板を振り向いた。マストの上も見上げるが、見張り台にも姿はなかった。
「私は、あなたの所にいると思って来たんだけど……」
 ルナも困った顔をして、あたりを見回す。ロランは舷側を離れた。
「ちょっと見てくる」