蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・59

「王様は休暇中だって。ものは言いようだわね」
 ルナが厳しい目つきでつぶやく。ロランは、怒りこそ湧かなかったものの、同じ王族として情けない気持ちになった。自分の父は、少ない国費を裂いて国民を守ろうと努力しているというのに。
「お城の図書室はどこかなぁ。あの人に訊いてくる」
 ランドは、大聖堂の前にある一室から出てくる、魔道士らしきローブ姿の老爺に駆け寄った。
「すみません。お尋ねしたいのですが、このお城で書物を読める所はありますか?」
「うん? なんじゃ、旅の人かね? あいにくじゃが、書物は通りすがりの人には見せられ……んっ?!」
 しわ深い目をしょぼしょぼさせた老魔道士は、ランドの目を見てみるみる瞳を輝かせた。ついで、後ろにいるロランとルナを見つめる。
「まさか……。……様とローラ様。いや……しかし、似ておる……お主ら、いや、あなた方は……」
 老爺のつぶやいた最初の名は、ロト王家にしか伝わっていない、初代ローレシア王の名だった。ランドをはじめ、ロランとルナも固まった。
「どうして、その名を?」
 ロランが歩み寄ると、老魔道士は持っていた樫の杖を肩に置き、拝むように両手をすりあわせ、ロランを仰いだ。
「知らぬはずがありましょうや。わしは勇者殿のお姿をこの目で見ておりまする。ああ、なんと、今ここにご子孫がお帰りあそばされた! これは祝いじゃ、めでたいことじゃ! あいや、そこにお待ち下され。すぐ大司教にこのことを伝え……ああ、いかんっ」
 自分で言って、老魔道士は額を打った。
「年を取るともうろくしていかん。その間にご子孫がいなくなったらどうするっ。ついてきてもらうのじゃ、いいなっ」
 どうやら自分に言い聞かせて確認しているらしい。盛大なひとり言に、思わずロラン達は返事していた。


 どこかへ隠れた王に代わり、国政は諸大臣と大司教が執り行っていた。大臣達をとりまとめるのは、壮年の大司教サウエルだった。贅を尽くした城の客間にロラン達を案内すると、大司教は白い法衣を床に付けて深々と敬意を表す。
「ようこそお帰り下さいました。ロトの尊き御子様がた。アレフガルドの民に代わってサウエルが感謝を述べまする」
「どうぞ顔を上げてください。お心うれしく思いますが、僕達は決して、英雄となりにここへ来たのではないのです」
 ロランは膝をつき、サウエルを立たせた。
「それより、本当に僕達を信じるのですか? いくら顔が似ているからといって、赤の他人ということもありえるのですよ?」
「見間違いということはありませんわい」
 いささか憤慨しながら、老魔道士が言った。
「あの方のご存命から、わしは生きておりまする。あの方には、この手で何度も祝福してさしあげたのですじゃ。わしが祈れば、魔力がたちどころに全快しますでな。光あれと祈れば、ルビス様が応えてくださる。あのお方はいつも、助かったと笑うてくださりましたわい」
「これが言うのですから、間違いはありませんでしょう。それに、私にも感じるのです。あなた方の放つ気高い気配を。何より、御身のまとわれるご衣装に、大きく表れているではありませんか。雄々しく翼を広げる、不死鳥の紋章が。世界でそれを許されるのは、ロト王家の方々しかおりませぬ」
「あ……」
 ロラン達は、それぞれ身に着けている服の紋章を見て頬を赤らめた。この鳥の印は聖なる意匠として、一般人は使わない。しきたりでも、王家で禁じているわけでもない。だがあえて触れないことで、聖紋に対する敬意と畏怖を示しているのである。
「お噂も、こちらまで届いております。邪神官ハーゴンを討つべく旅をしておられると。その気高きお志、我らの王にも見習っていただきたい……いや、これは失言でしたな」
 聖職者にあるまじきこと、とサウエルは咳払いした。
「私達、ハーゴンの本拠地へ近づくための手がかりを探しているんです。サウエル様、何かご存じありませんか?」
 ルナの問いかけに、サウエルは残念そうに目を伏せた。
「申し訳ありません。私の所に、そのような情報は……。ああ、しかし、こんな噂を耳にしました。ラダトームの向かいに、島があることはご存じでしょう。かつて闇の大魔王が、その次に竜王が住まったとされる島です。そこに最近、人の気配がすると……」
「それを伝えたのは、わしじゃわい」
 縮れた長い白髯をしごきながら、老魔道士はサウエルに言った。
「闇の島に邪気とは違う、奇妙な気配がするとおぬしに伝えたわい。それを年寄りのたわごとだと受けつけなかったのは、どこのどいつじゃったかのう?」
「そういう風には言ってない! まったく、年を取るごとに気が短くなりますね、あなたは……」
 どうやら二人はケンカ友達らしい。ロラン達の視線に、サウエルは赤らんで咳払いを繰り返した。
「ともかく、竜王の島――と私どもは呼んでおりますが、その島に行ってみてはいかがでしょう。それと、ここから南東のはずれに、いにしえの知識を受け継ぐ賢者が一人住まっているといいます。彼に会ってみるのもよろしいかと」
「なるほど。感謝します」
 ロラン達は一礼した。そのまますぐ旅立ってしまいそうだったので、サウエルが急いで引き止める。
「お、お待ちを。まさかもう発ってしまわれるのですか?」
「急ぐ旅ですから」
 ロランが言うと、サウエルは「そこをなんとか」と言った。
「国王が玉座を離れてから、国民は意気消沈しております。どうか今日あすはこの城にとどまられて、皆に勇気を与えてはくださいませんか。ロトの勇者とローラ姫のご子孫がお帰りあそばされたという報せは、きっと皆、励まされましょう」
「しかし……」
 ロランは渋い顔をした。サウエルの言う意味は、つまり舞踏会と祝宴を催したいということだ。ロランは小さいころから、そういった催し事が苦手で、年中行事でそれらが近づくと憂鬱になったものだ。
「ま、出るしかないよ」
 渋るロランに、ランドが肩に手を置いてのんびりと言った。ルナもうなずく。
「それも私達の務めですもの」
 サウエルはほっとした顔になり、よかったと繰り返した。宗教家として、俗世に関わらない生き方をしてきたのに、王がいない現在、人望を買われてその代わりを務めている苦労がしのばれる。彼の顔を立てるためにも、出てあげてもいいかとロランは思い直した。
「それでは、あらためてお部屋をご用意いたしますので。祝宴の準備ができ次第、おいでになってください」
 大司教は厳かに礼をすると、老魔道士とともに部屋を出て行った。司教なのに、まるで宿屋の主人みたいだなぁと、ランドがつぶやいた。


 その晩、ラダトーム城は、およそ100年ぶりに喜びに沸いた。酒蔵で眠っていた美酒が樽ごと開けられ、山海の珍味が取りそろえられた。腕をなまらせていた料理人達は、高貴なお客に味わってもらうべく存分に腕を振るい、貴族達はこぞって着飾り、祝宴の場に集った。