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蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・57

 エレーネの立てた予定通り、ロラン達の船は3日目にルプガナ港へ帰港した。
 迎えたルートンは無事を喜び、ロラン達は彼とともに宝を持ってマーフィーの仮の宿へ向かった。
 財産が丸ごと戻ってきて、マーフィーは飛び跳ねて喜んだ。ロラン達が帰るまで、港にある漁師小屋で寝泊まりしていたので、むさくるしさに拍車が掛かっていた。
「これはお礼です。どうぞ使ってください」
 そう言ってロランに差し出したのは、装飾のない、淡い黄色の鳩笛だった。
 お金とかじゃないのか……。
 ロラン達の目の前で、肌身離さず持っていたペンダント状の鍵で箱を開けたマーフィーは、目もくらむような金塊や宝石の中から、迷わずそれを取って差し出したのである。王族であるが、ロラン達はこの旅で金銭にはかなり細かくなっていたため、報酬があるならその方がよかった。
「ありがとう……ございます」
 王子が家臣に向ける儀礼的な笑顔で、ロランは笛を受け取った。マーフィーは誇らしげに言った。
「その笛は、山彦の笛と言いましてね。精霊がこしらえたという、世界に一つしかない物なんですよ。でも普通の人には鳴らせないし、吹けたとしても山彦はただでは返ってこないそうです」
「ただでは返らない?」
「ええ。何か特殊なお宝に反応して山彦が返るんだって、これを売りつけた骨董屋が言ってましたが……何の事やら」
 それはこっちが言いたいが、ロラン達は黙っていた。ランドがロランの手にある笛をのぞきこむ。
「ねえ、ちょっと吹いてみたら?」
「僕が? 楽器は苦手だよ」
「音だけでも聴いてみたいわ。やってみてよ」
 ルナにもうながされ、ロランは笛を唇に当てた。マーフィーが言った。
「私もやってみましたが、全然鳴らなかったんですよねぇ。やっぱりデマだったか……」
「っ!」
 驚いた拍子に、ロランは笛にぷっと吐息を吹き込んでいた。すると、小鳥がさえずるような澄んだ音色が放たれる。
「鳴った?!」
 ランドとルナが目を見張った。ロランは笛を放して目を丸くする。
「鳴ったよな……今」
「もう一度やってみてよ」
 ランドがわくわくした顔で言う。ロランは息を吸うと、笛を吹いた。ごく単純な四つの音階を吹いてみる。やわらかな音色が流れ、薄汚れた小屋を清めるようだった。
「ぼくにも吹かせて!」
 ロランが笛を渡すと、ランドも同じ音階を奏でた。笛は同じように応えた。続いてルナも吹く。笛は清らかに歌った。
「すごい……」
 あぜんとしてマーフィーがつぶやく。満足そうなのはルートンだ。
「ただ者ではない、そういうことじゃな」
 エレーネもうなずく。
「どうせなら、金の鍵がよかったわ……なんてね」
 袖で笛の口を軽く拭ってロランに返しながら、冗談めかしてルナが言うと、マーフィーは汚れた頭髪を掻いた。
「金の鍵は、宝箱の鍵と一緒に首に下げていたんですが、いつの間にかなくしてしまってたんです。ザハンの漁師船に助けられた時、落としてしまったのかなあ」
「そうですか……お気の毒に」
 ランドが同情してみせる。マーフィーは苦笑した。
「いや、これも自分一人だけ幸せになろうって魂胆に神様もあきれたんですよ。それで鍵を取り上げてしまったのかも。
 もともと金の鍵も、山彦の笛を売りつけてきた怪しい商人から買い取ったものですし。骨董というのは、どっかからの流れ品……人には言えない手段で手に入れた物もあったりしますからね。あれは、私にはふさわしくなかったってことです」
「これに懲りたら、この町で誠心誠意働けよ」
 ルートンが威厳を持って言うと、へえ、とマーフィーは笑って頭を下げた。

 

 ロラン達はその翌日、ルートンとエレーネに見送られてルプガナ港を出た。彼らの好意で、無料で食料や水を分けてもらっている。ちょうど武具屋に頼んでいた身かわしの服もできあがっており、準備に事欠かない満足な船出だった。
「……不思議な人達だったわね」
 船が遠ざかり、見えなくなると、岸壁に立って手を振っていたエレーネがぽつりと言った。うむ、とルートンがうなずく。
「お前から聞いた魔物退治の腕、船を操るのみ込みの早さ、それにあの気品ある器量。もしかしたら、あの方々は、ハーゴンを討伐するために立ち上がられたという、ロト王家ゆかりの方かもしれん」
「おじいちゃん?!」
 弾かれたようにエレーネは祖父を振り向いた。気づいていたのか、と。ルートンは遠い目をして彼方を見ていた。
「うわさはここまで伝わっておる。なにせここは、ルプガナだからな。お前もうすうすは、そう思っていたんだろう?」
「……ええ」
 ルートンは孫娘を見て微笑んだ。
「だったらわしらは、世界を救うかもしれん勇者殿にお力添えできたわけじゃ。もっと胸を張れい」
「うん。それはうれしいの。……だけど、それ以上に心配」
 エレーネは祈るように遠くを見つめた。
「……死んでほしくない。あんなにいい人達が、どうか、魔物の犠牲になったりしませんように」
 ルートンは何も言わなかった。しかし同じ思いであったに違いない。
 二人はしばらくの間、朝日にきらめく海を見つめていた。