蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・54

【沈んだ財宝はいずこ】

 ロラン達も同席していることにマーフィーは少しためらったが、テーブルでエレーネに温かいお茶をもらって落ち着くと、少しずつ話し始めた。
ペルポイへ向かう途中、急に嵐が来たんです。ここから北の沖でした。船は横波に転覆して沈んでしまい……乗組員は半数が助からず、私も救命艇でなんとか逃れはしましたが、全財産が船の中に……」
 数日漂流し、幸運にも通りかかったザハンの漁船に助けられ、さっき帰り着いたのだという。
 同情すべき話に見えたが、ルートンは厳しかった。
ルプガナの船は嵐に強い。転覆するということは、積載量を超えていたのだろう? お主一人だけペルポイに逃れようとするから、そうなる」
「返す言葉もありません……」
 よほど反省しているのか、マーフィーは反論せずうなだれた。
ペルポイって?」
 ランドが尋ねる。ルートンが答えた。
「ここから北の航路を行けば、神聖都市ベラヌールのある大陸に行き着きます。そこから東に行けば、ロンダルキアの裾野へ。そこにある町の名です。大変な商業都市として栄えていましたが、十数年前に地上から姿を消しました」
「え?! どうして……ハーゴンの集団に襲われたのですか?」
 ロランが目を見張ると、ルートンはかぶりを振った。
「いいえ、彼らは自ら地下に逃れたのですよ。ハーゴンの集団が世界中の町を襲撃する事実を知り、住民は地下に町を造って住み着いたのです。
 短期間で何千人もの人間を住まわせる空洞を造るには、大変な人手が要りますが、その計画にアレフガルドの城塞都市メルキドの住人が乗りましてな。彼らはゴーレムを何体も使って工事を行ったそうです」
「ゴーレム……文献で読んだことがあるわ。石を組んで造った魔法生物で、大昔、魔物から町を守るためにメルキドの学者が製造したと」
 ルナが言った。ゴーレムは長い間町の番人として入り口に立ちふさがっていたが、外からの人間も排除しようとするため、封鎖状態にあった。ローレシア1世が竜王討伐の途中でやむなく退治したのは、その町に住む賢者にどうしても会う必要があったからである。
「ゴーレムは竜王の時代から姿を消していましたが、技術は残っていたんですな」
 ルナの後を継ぎ、ルートンが続けた。
「工事が終わった後は、魔法を解いて石に戻したそうです。そして、ペルポイはかつてのメルキドと同じように閉じこもってしまった。ただし、金の鍵を持つ者は受け入れるという条件で」
「金の鍵……」
 ロランはつぶやいた。世界各地でささやかれる、金の鍵の存在。ロラン達がどこかへ向かおうとするたびに出てくる。おそらくそれがなければ、必要な場所へも行けないのだろう。
「金の鍵は、もう世界では本数が限られているのです。それを持つ者は選ればれた者だとペルポイの町長は言い、各地の富豪や貴族に手紙をやっては、金の鍵を持っていれば安全なこの町に入れてやると……そう申しておりましてな」
「ひどいわ。自分達だけで助かろうなんて」
 憤りをこめてルナがつぶやくと、マーフィーは身を縮めた。
「あ、ごめんなさい……」
「いえ、いいんです。おっしゃるとおりです。だからバチが当たったんです」
 さすがにルナが小声で謝ると、マーフィーは目元を手の甲で拭った。
「私一人の欲のせいで、船乗り達も犠牲にしてしまった。その罪、どうやってつぐなえばいいのか……」
「働くことじゃ」
 同情は見せず、しかし突き放しもせず、ルートンが言った。
「今度は世のため人のため、奉仕することじゃ」
「しかし、商売を新たに始めようにも、財産は海の底に……」
 移住のために家も売り払い、住む所もないんですよと、マーフィーはついにさめざめと泣き出した。
「おじいちゃん。北の沖って、暗礁がある所で有名よね?」
 ふいにエレーネが言った。
「マーフィーさんの船、もしかしたら暗礁に乗り上げているかもしれないわ。もしかしたら財宝もそこに残ってるかも」
「おお。さすがわしの孫。なるほど、ありえるかもしれんな」
 ルートンが手を打ち、泣いていたマーフィーがびっくりして顔を上げる。
「本当に?! ああ、そうかもしれない。船が座礁していたら、深海に沈まずに残ってるかも……!」
「うむ。さっそく、引き上げ作業をせねばな。それには……」
 ルートンはロラン達を見た。何を頼まれるかすぐに悟り、ロラン達は顔を見合わせた。

 

 
 翌日、ロラン達はルートンとエレーネ、マーフィーとともにルプガナ港へ入った。入場券か入場許可証、もしくは定期船の切符がないと入れない仕組みだが、ルートンの顔で門を開けてもらえた。
 早朝ながら、港は活気があった。漁船から客船、貨物船までそろい、人々が働いている。港湾部には巨大な建造物があり、海まで続いていた。
「あれは、何のために?」
 造船所は別の場所に見受けられた。あちらはどうやら巨大な水路になっているようだ。建物から船が一隻出てくる。船はすべて、あの建物を通って海へ出入りするらしい。ロランが尋ねると、ルートンが答えた。
「海の魔物から船を守るためです。この近海には昔からしびれクラゲとウミウシがわんさか湧いていましてな。船底にそいつらがくっついてくるんです。あの水路には魔除けの文字が刻まれていて、壁から聖水を少しずつ流しております。くっついてきた魔物は、通過する途中で船から離れる仕組みです」
「なるほど」
 その理由も納得できた。しびれクラゲはホイミスライムに似た白いクラゲの魔物で、麻痺毒を持つため危険である。ナメクジに似た魔物ウミウシも、眠りをさそう甘い息を吐き、眠った者をじわじわと食べてしまうので、大群で遭うと厄介である。
 ほかにも、魔物が人間に化けて客船に乗りこむこともあるので、この水路が検問の代わりになるらしい。水路に刻まれた魔除けの文字が、化けの皮を剥がす仕組みである。