蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・47

【風と勇気とマントと】

  大砂漠のオアシスから北上したロラン達は、緩やかに弧を描く半島の先までたどり着いていた。西に青く霞むのは、目指すアレフガルド大陸だ。
「これがドラゴンの角か……」
 ロランは目の前に立つ高い塔を見上げた。青空に、蔦を所々からませた石組みの美しい建築物が映えている。頂上には海鳥の巣があるらしく、白い鳥達が舞い、太陽が中天に輝いていた。
「ここに昔、吊り橋があったなんてねえ」
 ランドが片手を額にかざし、向こう岸を見る。海峡は、地図で見ると運河のように細く狭いが、実際に目にするとかなり広かった。
 北側に、同じ造りの塔が立っていた。ここからだと、肘を立てたくらいの大きさである。この海峡を竜に見立て、二本の塔はドラゴンの角と呼ばれていた。
 この塔が支柱となり、橋を支えていた姿を想像してみる。頭に浮かんだ壮大な姿に、3人は思わず感動のため息をついていた。
「すごいな、昔の人は。かなり大きい吊り橋だったんじゃないか?」
「壊されてなかったら、たくさんの人が自由に行き来していたんだね。見てみたかったねえ」
「とりあえず、のぼってみましょう。……チルとルチルは、ここでお別れね」
 ルナが言い、傍らの馬達を振り返った。ロランは切ない気持ちで、二頭の馬を見つめた。
「本当にありがとう。君達のおかげで、無事にここまで来られたよ」
 ランドが優しく言い、一頭ずつ荷を降ろしにかかった。ロランとルナも手伝う。そして3人ともチルとルチルの首を抱き、なでて、別れを惜しんだ。姉妹馬は、小さくいなないて顔をすり寄せた。ルチルは特に、ランドには愛情たっぷりに。
「元気でね」
 馬達に残った聖水をたっぷりかけて、ランドがチルの腰を手のひらで軽くたたいた。チルとルチルは一度だけ振り返り、魔除けの鈴を鳴らしながらゆっくり歩き出した。3人は手を振り、その姿が遠ざかるまで見送った。
「行っちゃったな……。ちゃんと帰れるといいな」
「大丈夫よ。イスカル司教様特製の聖水ですもの」
 一番馬達をかわいがっていたランドは、さすがに寂しそうだった。微笑こそ浮かべているものの、肩がしょんぼりと落ちている。ロランがそっと肩に手を置くと、小さくうなずいてみせた。
「……さあ、塔に入ろう」
 ロランが言い、3人は扉のないがらんどうの塔に足を踏み入れた。


 塔は正方形を縦にした形で、長く広い螺旋階段が頂上まで続く吹き抜け構造だった。魔物が棲み着いているとルナは言ったが、生き物が暮らすには不便な空間である。魔物には関係ないのかもしれないが。
 そしてそれを裏付けるように、のぼった先からさまざまな種類の魔物が襲ってきた。もうおなじみになってしまったマンドリル、リビングデッド、マンイーターホイミスライム。そしてメタルスライム
「――メタルスライム?!」
 ランドが銀色のスライムを見て、びっくりする。
「ものすごく珍しいじゃないか!」
 スライムと同じ顔、同じ大きさのそいつは、てらてらと銀色に輝いていた。まるで水銀のしずくが動いているようだ。
 階段の途中で、メタルスライムは無表情な瞳でこちらを見ていたが、つるりと顔が反転し、左右に滑るように逃げ出した。
「待てっ!」
 物珍しさから、ロラン達は後を追う。背負う荷物は旅の途中でだいぶ軽くなっていたので、こちらも走るのは速い。
 だがメタルスライムの方が速く、階段の曲がり角で見失ってしまった。さすがに息を切らし、3人が立ち止まった時、ルナが悲鳴を上げた。
「いやあっ!」
「ルナ?!」
 驚いて振り向くと、ルナは塔の吹き抜けの空間を見て凍りついていた。ロランとランドもぎょっとする。
 空中に、無数の蛇がからみついた球体が3体ほど浮かんでいた。うごめく蛇の中心には血走った巨大な目玉が付いている。メドーサボールだ。
「うぞうぞしてる……! 私、こういうのだめっ……!」
 ルナの足がふらつき卒倒しかけた。危うく階段から落ちそうになり、ロランがとっさに腕をつかんで引き戻す。
「しっかりしろ! こんな所で気絶したら危ない!」
「襲ってきた!」
 ランドが叫び、鉄の槍を青眼に構えた。だが、メドーサボールの1匹が単眼を光らせ、もごもごと濁った音を発する。ロランにはそれが、ラリホーと聞こえた。目の前に紫色の水泡が浮かび、パチンと弾ける。甘い香りが漂い、ふうっと気が遠くなった。
「ロラン!」
 たちまち昏倒するロランに、ルナがすがりつき、揺すって叫ぶ。
「起きて! 起きてったら!」
 しかしロランは眠ったままだ。残る2匹に果敢に突きかかりながら、ランドが言った。
「魔法で眠らされたら、自然に起きるまで無理だよ! それよりこっちを倒した方が早い!」
 絶え間なく動き続ける蛇の群れをまともに見ていると、気がおかしくなりそうだった。ルナは素早く魔道士の杖を構え、呪文を唱えた。
「バギ!」
 小さな竜巻が真空の刃で魔物の群れを襲う。うち何匹かの蛇が切り刻まれ、緑色の血を流してもだえた。魔物とて、傷つけば苦しむのだ。ルナはそれを見るのが嫌だった。魔物は皆、身内の命を奪った憎い相手だ。本性が残虐だと理解していても、しかし、命を絶つことには抵抗を感じる。
(もっと強い呪文が欲しい――。一撃で終わらせてあげられるくらいの、強い力が)
 何度もバギの呪文を唱えながら、ルナは思った。
 ランドの必死の援護もあって、ようやくメドーサボールは消滅した。二人が息を切らせてその場にへたりこむと、入れ替わりでロランが目を覚ます。
「……あれ? 敵は?」
「終わったわよ、ねぼすけさん」
 ルナが微笑んでみせると、ロランは置き去りにされたかのように口をぽかんと開けた。
「……え?」
「まあ、たまにはぼくらも頑張らなきゃね。いつもロランに頑張ってもらってるもんね」
「そうね」
 ランドが言い、ルナも笑う。自分が眠らされていたのだとようやく気づき、ロランは情けない顔をした。
「ごめん」
「いいのよ。さ、行きましょう」
 ルナが先に立ち上がった。塔の頂上は、もうすぐだった。