蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・46

 遠く離れた所でせっせと洗濯板に泡を立てながら、ルナはロランとランドがはしゃぐ姿を見ていた。
 あんなに笑っている二人を見るのは、小さいころ以来だ。お互いにふざけ合って、片方が背中から組み付いて水に押し倒せば、片方が腰に突進して抱きつき、水中に突き落とす。それでまた二人して水面に顔を出し、笑い合っている。
(いいなあ、男の子って)
 洗濯物をこすりつけながら、ルナは二人が遠いように感じた。いつの間にかランドがロランに泳ぎを教わっていた。両手を持ってもらい、一生懸命足をばたつかせて進んでいる。その様子がなんだかかわいらしく思えて、ルナはくすくす笑っていた。
 もし自分も男だったら、あの間に入れたのに。そう思うと、少し寂しかった。小さいころはなかった隔たりが、年頃になった今は、はっきりと感じる。
 だからどうしても、口うるさくなってしまう。年上のようにふるまって、自分に注目させておかないと不安になってしまう――取り残されそうで。
 時々、ちょっと言い過ぎかしらと思うのだが、二人の態度が変わらないことを見ると、このままで大丈夫そうだった。
 ルナはそれに安心し、また、物足りなくも思うのだった。

 



 その晩は、ルナが水に入った。もちろん厳重に「見るな」と男子二人に命じた上でだ。
 水音を立てるルナからさほど離れていない廃屋で、ロランとランドは火を囲んでいた。昼間、ルナが洗ってくれた衣類のおかげで、久しぶりに気分も晴れやかだ。表には、馬達をつないである。
 廃屋に家具はなく、四方を石造りの壁に囲まれただけだが、屋根と壁があるだけでありがたかった。多少ほこりっぽいのは目をつぶる。
「ルナ、寒くないかなあ。だから昼間入りなよって言ったのに」
 ルナのいる方向をちらりと見やり、ランドが心配そうに言った。
「暗い方が目立たないから安心するって気持ちもわかるよ……女の子だし」
「そうだよね。頑張ってるよね、ルナは。アリシアだったら、初日の野営ですぐ音を上げるかも」
 そう言うランドの目は穏やかで優しい。一緒に旅に行きたいなどとわがままが目立つアリシアだが、それも兄が大好きだからだ。何をするにも真似をしたがり、後をついてくるのだと、ランドは笑った。
「楽しそうだな、きょうだいがいるって。僕は家族が親父だけだから……ちょっとうらやましいよ」
「え、ルナはきょうだいじゃないの?」
「え?」
 きょとんとしたランドに、ロランも同じ顔をしていた。
「ルナが?」
「だって、君の父上が、自分を親と思っていいって、あの晩言ってただろ。……違うの?」
「それは……」
 ルナをローレシア城に連れて帰った時の話である。
「本当に家族になったわけじゃないと思うけど……」
「でも同じことじゃないかなぁ?」
 ランドは純真に言い切った。その目を見ていると、そうかもと思えてくる。懐の深い父王は、後見としながらもルナを養女にすると、その後ロランに告げたのだった。ルナがムーンブルク王家を再興するまでのことだが、やはりそれは、家族が一人増えたということなのだろう。
「そうだな……そうかも」
 ロランは微笑んでいた。純粋に、家族が増えたことがうれしくなってきたのだ。ランドもにっこりした。
「そうなると、やっぱりルナはお姉さんかなあ。同い年だけど」
「かもな……何かと結構、小うるさいし」
 ロランが何げなしに言った途端、慌ただしく足音が近づいてきて、はっと口を片手で押さえる。
「ああっ、寒い! さーむーいー!」
 髪を濡らし、全身をがたがたさせながら、ルナが室内へ駆け込んできた。廃屋に扉はない。
「大丈夫? 唇が紫色だよ?」
 ランドが慌てて温かいお茶を用意する。ルナは自分を抱きしめながら、ロランとランドの間を押しのけ、火のそばに陣取った。
「やっぱり私もお昼に入っておけばよかった……」
「だから言ったじゃないか……」
 あきれつつ、ロランは毛布をルナの肩にかけてやった。ふるえる手でランドから湯気の立つカップを受け取りながら、ルナはぶつぶつ言う。
「できるわけないでしょう。いいわよね男子は、人前で裸になれて」
「……ごめん」
 困って、ロランはこめかみを指で掻く。ランドが薪をくべて、火を少し大きくした。
 すねるルナに、ロランは備蓄にあった焼き菓子を出して機嫌を取った。木の実がたくさん入った甘い物だ。ランドは、ルナの繰り言に、とらえどころのない受け答えをしている。
 ふとロランは、懐かしい気持ちに見舞われた。ずっと昔もこんなことがあったような気がした。
 それは、小さいころの記憶に基づくものではない。血が教える、古い古い記憶――。
 家族みたいだ、という思いが、胸にすっと落ち着いた。