蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・43

【西の大砂漠紀行】

 夜明けの清浄な光さえ拒むムーンブルク城下町の前に、ロランとランド、ルナが立っていた。瘴気が立ちこめている場所とそうではない所は、まるで線引きでもされたかのように見た目でもはっきりしている。ロラン達は、その境目にいた。
 かつてここは、文字通り世界の中心地だった。西からの隊商が砂漠を越えて訪れ、北からは、サマルトリアローレシアの旅人や商人が西を目指すためにやって来た。
 町にはたくさんの珍しい品々があふれ、活気に引き寄せられた移民も数多くいた。国は慈母のごとくすべてを懐に抱き、栄えた。人々はこの町を、太陽さえもしのぐ麗しき月の都と呼んだ。
 東に正義と平和の守護を司るローレシア。北に献身と均衡を司るサマルトリア。南に慈愛と繁栄を司るムーンブルクありき。
 地図を見れば実に、ロトの血筋は世界のおよそ半分を治め、人々が安寧に暮らせるよう守ってきたのである。
(これから僕らは、父さん達が守ってきたこの地を離れる)
 ロランは瘴気にかすむムーンブルク城を見つめた。
(ご先祖様がたどってきた道のりをさかのぼって、アレフガルドへ行くんだ……)
 ルナは杖を顔の前に捧げ持ち、深々と礼をした。言葉はない。血の気の失せた横顔から、まだ癒えぬ深い痛みがうかがわれた。
 ロランとランドも倣って礼をする。そして、ここで亡くなった犠牲者のために祈った。
 昇ってきた朝日が、祈る少年達を優しく照らしていた。

 


 城から西へ進むと荒れ地があり、橋を渡ったその先にムーンブルク大陸と西のルプガナ大陸をつなぐ島がある。その島の西端に、大陸とつながる関所を兼ねた聖堂があった。
 かつては多くの人が行き来していたこの場所には、宿場もあって町のようになっていたのだが、ドラゴンの角経路が絶たれた現在、そこで商売をする者もいなくなって久しい。聖堂の周りは、商店だった廃墟が静かに朽ちかけていた。
 廃れてしまった場所を見るのは寂しく、つらかった。世界中のあちこちで、衰退が始まっている。ロランは不安になった。
(まるで手から砂がこぼれ落ちるみたいだ……。人だけじゃない、世界で何かが、どんどん失われていってる)
 ロランと同じ不安を、ランドとルナも感じ取っているようだった。廃墟に関する感想をあえて言うことなく、3人は聖堂へ入る。馬車でも通れそうな入り口をくぐると、地下へつながるなだらかな大階段が彼らを迎えた。そこを降りていく。
 魔除けの青と白の幾何学模様で装飾された壁と床は、年代を経ても美しかった。内部は清潔で広く、ひんやりとしているのは周囲を地下水が流れているせいだ。
 見た目は聖堂だが、そこは静かに祈るための場所ではない。石畳の床の奥にはたくさんの人が通れそうな橋が架けられ、進んだ所に金縁の扉があった。
 さらにその右手に、上へのぼる大階段がある。この地下建築物は、隣の大陸へ渡るための地下道を兼ねているのだった。
 橋の傍には神を祭る祭壇が設けられ、そこに司祭服の男が立っている。
「ようこそ、ムーンブルクのルナ姫殿下。ご無事で何よりでございました」
「イスカル司教様」
 近づくと、穏やかな声で彼があいさつをしてきた。ルナが優雅に礼をし、ロランとランドも一礼した。青い司祭服をまとった初老の司祭も、丁寧な礼を返す。
「この方は、イスカル司教様。この関所を守っている方よ。関所を聖堂にして司教を置くのは、旅人が傷ついていたり、困っていた時に助けられるようにと、初代ムーンブルク女王が決められたことなの」
「しかし、ここが衰えて久しい」
 イスカル司教は、整った顔を寂しそうに笑ませた。
「少し前までは、数多くの人々が行き来したものですが……。ドラゴンの角の吊り橋が壊れて以来、それも途絶えております。そして、ムーンブルク落城のご不幸があってからは、ますますこの地域に人が立ち寄ることもなくなりました。今ではわたくし一人が、ここを守っております」
「お役目を今も務めてくださっていること、亡き王に代わり深く感謝いたします。――それで司教様、私達、ここから西へ行きたいんです」
 ムーンブルク城のことにはあえて触れず、ルナが言った。
「通してくださいますね、司教様?」
「それが殿下のお役目でもあります。誰がお止めしましょうか。どうぞ、お通りくださいませ。――ああ、砂漠を越えるには、その装備だけではいささか不安ですな。わたくしの飼っております砂漠馬(さばくうま)をお連れください」
「砂漠馬?」
 ロランが問い返すと、司教は3人をいったん地上へ連れて行った。聖堂の裏手にある厩舎へと導く。
「これが砂漠馬ですか」
 ランドがほほうと見入る。左様で、と司教は微笑んだ。
 厩舎には、数頭の馬がいた。どれも砂色をしており、背中に大きなこぶがあって、全体的に大きくがっしりとした体つきだ。
 馬によく似ているが足が特徴的で、二つに割れた平たい蹄があった。柔らかい砂地を歩くために発達したのだと司教が言った。
「今ではこの子らを世話するのが楽しみと生き甲斐で……。皆、賢い子ばかりです」
「そんな大切な馬をお借りしていいのですか?」
 ロランが問うと、司教は笑った。
「あなた方こそ、背中に背負ったその食料だけで砂漠を横断できると、本気で考えていたわけではありますまい?」
「ごめんなさい。実は、旅の扉が使えないかと思っていたんです」
 ロランの代わりに、ルナが答えた。
「なるほど。しかし、ここの旅の扉は、金の鍵がないと開かない扉でふさがっておりましてな。わたくしもその鍵を持ち合わせておりませんので、長らく封印された状態なのです」
「そうですか……」
 ルナは小さく吐息をついた。振り向いて、事情がのみ込めないロランとランドに説明する。