蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・42

「あれは!」
 部屋の中央に、首のない人の上半身を模した人形があり、それに青く美しいマントが掛けられていた。ロラン達は我先にと駆け寄った。
「これじゃないか?」
「ええ、間違いないわ、風のマントはこれよ!」
「うわあ、きれいだなぁ……本物の鳥の翼みたいだよ」
 そのあまりの美しさに、3人とも手を伸ばせず、しばらくそれを見つめていた。マントは二重構造になっており、大小の翼が二枚重なっているような形をしている。金の留め具には空の青を固めたような丸い石が付いていた。
「でもこれ……1着しかないんだね?」
 あたりを見回して、ランドが言う。ロランもはっとした。
「本当だ。これじゃ、3人でドラゴンの角を飛ぶのは無理じゃないのか?」
「う……そうよね……。どうしましょう」
 言われて、ルナも眉根を寄せた。そこまで考えてはいなかったらしい。
「ここ、工房だったみたいだね」
 ふらふらと珍しそうに部屋を歩いていたランドが、床のあちこちに広がる金色の残骸を見つけた。しゃがんで、錆もない金属の部品を調べる。
「どうも織機(おりき)だったみたいだよ。魔法文字が書かれてる……魔法の織機だったのかも。これでマントを織ってたのかなあ」
 ロランも、もしかしたらもう1着ぐらいあるのではないかと、床を探してみた。織機の残骸の隙間に、ぼろぼろになった一冊の書物を見つける。
「本かな?……だめだ、僕には読めない字で書いてある」
「貸して」
 ルナが革表紙のそれを受け取り、古びた紙をやぶらないようにそっとめくった。
「読める? 見たとこ、古代文字っぽいけど」
 ランドがのぞき込む。ルナはしばらく目を通していたが、やがて声に出して読み始めた。
「……この聖なる織機にて織れる布は二つ……風をはらみて飛ぶ自由の象徴、水をはらみて炎より守る、慈愛の象徴……。それぞれの匠の名にドンの称号を与え、これを伝えんとす」
「聖なる織機……もしかして、この部屋に散らばってるもののことか?」
 ロランもあらためて残骸を見やる。もったいないなあ、とランド。
「どうして全部壊れてるんだろう。魔物の仕業には、ちょっと思えないけど。だってこの部屋、聖なる力に満ちてるもんね」
 ランドが青い床を示した。床に描かれた模様に魔除けの効果があるのだという。
「あっ。今気づいたけど、この日記?かしら……これ、あまり古くないわ。最近書かれたみたい」
 ルナが片手を口に当てる。
「やだ、これ……あとはえんえんと愚痴が書いてあるわ。……もうこんなところは嫌だ。いくら匠の末裔だからって、こんなへんぴな塔で風のマントを織り続けるのは飽きた。魔物の顔も見飽きたわい。わしはぴちぴちギャルのいる南の島へ行くんじゃ! おさらば、風の塔!」
 微妙な沈黙が下りた。ランドが小首をかしげる。
「きっと、少し前までここに住んでたんだね。ちゃんとぴ……ぴちぴち何とかって人に会えたのかなぁ。それ、おいしい魚屋さんかな?」
「たぶん人の名前だろ。織機は分解して行ったのかな、わざわざ。悪用されないように?」
 ロランが誰ともなく問うと、ルナが言った。
「いいえ、自然と壊れたんだわ。祈りの指輪と同じように、魔力を受けるための器は、込められた魔力がすべて解放されると、状態を維持できなくなってしまうのよ。この織機も、もとからあった魔力を使われて解放されたのか、あるいは、織り手が魔力を込めることによって維持されるものだったのかも」
 ルナが推測した。ほかに予測もつかず、そうなのだろうとロランは思う。ランドも異論はないようだった。
「ともかく、このマントは頂いておこう。ここにいた匠の人に感謝しなきゃな」
 ロランは人形からマントを外した。手にすると驚くほど薄くて軽く、ふわりと空気をはらんで広がる。こんなに軽いものが人を支えて飛べるのかと、少し不安にもなる。折り畳むと、小さくまとまった。
「さあ、町へ戻りましょう! まずはお風呂、お風呂よっ」
 ぱちんと両手を胸元でたたき、ルナがランドを見た。はいはい、とランドがロランとルナを脇に集める。
リレミト!」
 移動呪文の一つで、洞窟や塔など、密閉された空間から脱出する魔法だ。ほんの少し体が浮き上がる感覚がし、ロラン達は塔の入り口へと現れていた。ルーラほど酔う感じはしなかった。
 続いて、ランドはルーラを唱え、ムーンペタへ戻る。旅の疲れを癒すべく、またフィリアの宿に世話になることにした。
 二日滞在して、旅の汚れを落としている間、3人とも風のマントを試そうと言う者はなかった。確かな匠の魔法の品とはいえ、目もくらむような高い所から飛んでみたいとは、さすがにロランでも意欲が湧かなかったからである。
 こっそり現実から目を逸らしつつ、3人はムーンペタの町を出た。
 次に目指すは、ルプガナの町。そこへ至るためのドラゴンの角であった。