蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・37

第二章 勇者航路

【いざ、南へ】

 行けども行けども、森の中。密生した木々の中を、3人の少年達が足早に進んでいく。
 森の中には、かろうじて、南に続く小道が残っていた。時たま、朽ちた倒木が行く手をさえぎっていると、青い服の少年が軽々とそれらをどかし、灌木は切り払い、二人が通れるよう道を作っていく。
 ムーンペタから一路北東へ。どこまでも続く森林を行くのは、ロラン、ランド、ルナの3人である。

 


 ローレシアにルナを連れて一度帰還したロランは、翌日、ランドのルーラの呪文でサマルトリアを訪ねた。ランドの家族にも会わせておきたかったからである。

「おお、ルナ姫、無事で何よりであった!」
 ルナが謁見の間で会釈すると、王は玉座を立ち、両手を広げて喜んだ。その晩はささやかな祝宴がもうけられ、身内だけで食事を楽しんだ。

「ねー、お兄ちゃん、私も連れてってよお! お兄ちゃんばっかり冒険してずるいよぉ」

 食後のお茶の時間に、ランドの妹アリシアが兄の腕を引っ張ってねだった。

「だめだよ、お前は」

 カップから口を離し、ランドが穏やかにたしなめた。

「まだ小さいし、アリシアは父さんの傍にいてやらなきゃ。それに、お前と一緒に行ってぼくにも何かあったら、父さん、ひとりぼっちになっちゃうんだぞ?」

 アリシアの頬が真っ赤になり、みるみる涙が盛り上がった。

「そんなの嫌! お兄ちゃんに何かあったら困るから私も行くの! ずっと離ればなれなんて嫌だもん!」

 しゃくりあげるアリシアに、見ていたロランはいたたまれなくなった。サマルトリア王は、痛ましげに眉を寄せた。

アリシア、ロラン王子とルナ姫の前だぞ。泣くのはおよし。ランド、お前も何か言ってやりなさい」

「まいったなぁ……」

 ランドは頭を掻いて、泣き続けるアリシアを抱きしめた。

「お願いだから、もう泣かないでくれよ。そんなつもりで言ったんじゃないんだから」

「じゃあ、私も連れてってよっ」

「それはだめ」

 泣きじゃくりながら見上げた妹に、兄はきっぱり言い切った。アリシアの顔がくしゃっとなった。ますます大声で泣きわめく。

「ああ、もう。見てられないわ」

 ルナがテーブルに両手をついて立ちあがった。アリシアの傍へ歩み寄ると、膝をついて彼女を見上げる。

アリシアちゃん、ほら、涙を拭いて。かわいいお顔が台無しよ?」

 振り向いたアリシアのぐしゃぐしゃになった顔を、ルナは自分のハンカチで優しく拭いた。

「一緒に行きたいって気持ち、わかるわ。家族ですものね」

「――お姉ちゃんも、どうせだめって言うんでしょ?」

 洟をすすりながら唇をとがらせる小さな姫に、ルナは切ない瞳でうなずいた。

「できることなら、あなたと一緒に行きたいわ。きっと楽しい旅になるでしょうね。でも、魔物との戦いはとても恐ろしいものなの。もしあなたを守れなかったら、私達みんなが、死ぬまで後悔するわ」

「……」

 しゃくりあげが、少しずつ静かになっていった。何かを悟ったように、アリシアはじっとルナを見る。

「あなたがここにいてくれることで、ランドも安心して戦えるわ。それが――」

「私の役目、なのね?」

「そう」

 ルナは微笑み、しっかりとこちらを見つめるアリシアの小さな頬に右手を当てた。見守っていたサマルトリア王がほっと息をつき、ランドはしょんぼりとうつむいた。

「ぼく、お兄ちゃん失格かも……」

「そんなことないよ。まあ、ルナの方がこの場合、適役だったってことさ」

 落として丸くなった肩に手を置いたロランの胸に、自分の城で朗報を待っている父の顔が思い浮かんだ。
 


「――さて、問題は、ハーゴンの本拠地にどうやって向かうかだ」
 食事と入浴を終えてさっぱりしたあと、あてがわれたサマルトリア城の一室で、ロラン達は世界地図を広げ、今後のことを考えていた。
ハーゴンロンダルキアにいる。それは確かだわ」
 ルナが、ムーンブルクの国土の南をしなやかな指で押さえる。
「でも周りを高い岩山で囲まれて、とても人では登れない。だからお父さまは、ロンダルキアへ登るための道を探していたの」
「その道は、必ずあるはずなんだよね。邪教団は、あちこちで人をさらってもいる。その人達が通る道が絶対必要だし」
 ランドも地図を見つめて言った。
「ごめんね、こんなおおざっぱな地図で……もっと詳しく地形が描かれていれば、たどり着く道も推測できそうなもんだけど」
「気にするなよ。これだって、ずいぶん助かってるさ。今すぐにロンダルキアには行けないんだ、近場の行く先だけでもわかればいい」
 ロランは言い、地図を眺めた。世界には、アレフガルド大陸、ローレシア大陸のほかに、はるか南西にベラヌール大陸、ローレシア大陸の南にはデルコンダル島がある。ロンダルキア周辺にも、岩山と密林に囲まれた大地があった。
「世界を巡れば、どこかでハーゴンに近づく情報があるはずだ。行けるところまで行ってみよう」
 ランドとルナもうなずいた。
「ねえ、手始めにアレフガルドを目指すってのはどう?」
 ランドが言った。
「ぼくらのご先祖の土地。ぼく達、まだ行ったことないだろ?」
「そうだな……」
 ロランはルナと顔を見合わせた。ルナはうなずいた。
「いいと思うわ。あそこは古い歴史があるし、何か役に立つ話もあるかもしれない」
 でも、とルナは再び地図に目を落とした。
「そこへ陸路で渡るには、ちょっと困ったことがあるのよね……」
 ルナは、ムーンブルク城から西を示した。
「大砂漠にはオアシスがあって、少し前までは隊商や旅人の中間地点だったの。ムーンブルクの城下町も、西からの隊商でにぎわっていたわ」
 ムーンブルクのことを話すルナに、悲しみの影は見られない。忘れてしまったのでも、何も感じなくなったのでもない。今すべきことを優先させようとする、頭の切り替えの早さゆえだった。
 ルナの話では、こうだった。
 ルプガナは、大砂漠から北に延びた半島の東端にある、古くから栄えた港町である。アレフガルドとも交流があり、その昔、ローレシア1世とローラは、船でルプガナに渡って南下し、現在のムーンブルクへたどり着いたという。
「でも、今は歩いてルプガナまで行けないの。この海峡を見て」
 指先が砂漠から北上し、ルプガナの大地との境目を分断する細い海峡を示した。
「この対岸には二つの塔が立っていて、お互いを吊り橋で結んでいたのよ。海峡を竜に見立てて、二つの塔はドラゴンの角と呼ばれているわ」
「なるほど、ルプガナからの隊商は、その橋を渡って南下していたわけか」
 と、ロラン。
「そう。でも、数年前に二つの塔に魔物の群れが棲み着いてしまって、橋を壊されたのよ。もちろん隊商は通れなくなって、通商経路はそれきり分断されているわ」
「ええっ、大事な橋じゃないか。君の所で、修理はしなかったの?」
 ランドが驚くと、ルナは難しい顔をした。
「魔物が完全にいなくなって、たくさんの人手を使って何年もかければできたかもね。でも、この土地は風がとても強くて、橋を架けるための縄を渡すのが大変なの。今の技術じゃ、再建も難しいと言われてる」
「昔の人は、どうやってそんな場所に吊り橋を造ったんだ?」
 ロランが訊くと、ルナはにこりとした。
「あなた達、良い場所を見つけていたわね。――どうやら、次に行く所が決まったみたいよ」