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蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・36

「うそ……だろ……」
 かすれた声で、ランドがつぶやいた。
「不死者(アンデッド)? キースって人、最初から死んでたの?」
「……ああ。僕は、彼に触れた時に、そうじゃないかと思ってた」
「――なんで教えてくれなかったんだよ?!」
 振り向き、ランドが怒鳴った。涙があふれそうになっていた。ロランは淡々と答えた。
「教えてどうなるんだよ。それに、ランドは彼が生きていると信じてた。それでいいと思ったんだ。だって、あの人は……ルナをずっと待っていたんだから」
「体が死んでも、魂をこの場にとどめて? あの人は、自分の意思で不死者になって、ぼくらを待ったのか。ルナを助けるために……?」
 ロランはうなずいた。ランドは、キースのいた場所を見た。彼にあげた薬草や食料が、そのまま残っている。
「――っ」
 ひくっ、とランドの胸がふるえた。唇がわななき、涙が伝う。
「……ランド」
「こんなのってないよ。悲しすぎるよ……!」
 しきりに肩をふるわせ、ランドは交互の手で涙を拭う。ロランがそっと肩に手を置くと、すすり上げる声はますますひどくなり、ついにはロランの肩に顔を伏せて泣き出した。
 泣きじゃくる背を支えてやりながら、ロラナの背中を見た。闇の中でも、彼女の白いローブは清廉に浮かんでいた。
 きっとキースの死を悼んでいるのだろう。時折、悲痛な嗚咽が耳に届いてくる。
 二人のすすり泣きに、ロランはじっと耐えていた。耐えるしか、この場を支えることはできなかった。
 自分が悲しくて泣くのは、楽なことだ。けれど、大切な友が泣いている姿を見、その声を聞くことほどつらいことはない。
(こんなことを繰り返させないためにも)
 ロランは初めて、邪教を、魔物を、その首謀者である邪神官ハーゴンを憎んだ。心の底から。
(邪神官ハーゴンを倒す。――必ず)

 

 ローレシアの城に王子が帰還した知らせに、城内が湧いた。ただの帰還ではない。滅亡したムーンブルク王家唯一の生き残り、王女ルナを連れ帰っていたからである。
 ランドとルナを伴い、謁見の間に訪れた息子を、ローレシア王は玉座から立って迎えた。手放しで喜びかけた笑顔が、三人を見てすっと引く。
 息子達は変わっていた。まだ幼さが多く残っていた雰囲気が、どの顔からも抜け落ちていた。その代わり、悲壮な炎のようなものが、彼らの瞳に宿っている。
(地獄を見て来たか……そうか……)
 ムーンブルクの惨状は、日々、王のもとにも届いていた。しかし話で聞くのと違い、実際にそれを目の当たりにすれば、誰でも変わらざるを得まい。まして、柔らかな心を持つ少年達ならば。
「……ロラン、ランド王子。よく無事で戻ってきた。そしてルナ姫」
 ルナは自ら進み出て、王に一礼した。王は厳粛に言った。
「このたびの惨事、そなたの国の勇敢な兵士により、このローレシアにも伝えられた。ヒンメル王の崩御、そしてムーンブルクの民の死。……ローレシア国民一同、謹んでお悔やみ申し上げる」
 深々と哀悼の礼をする王に、ルナも気丈に礼を返す。
「心からのお言葉、感謝いたします。そして、わたくしを捜索するよう取り計らってくださったことにも。ロラン王子とランド王子のおかげで、こうして無事にお会いすることができました。ありがとうございます」
「ルナ姫……」
 王の目に、我が子の成長を見る親の、どこか寂しそうな色が浮かんだ。その顔を少し和らげて言う。
「親戚同士、堅苦しいことはここまでにしよう。三人とも、食事の用意をさせておる。食べていきなさい」


 ムーンブルクの王女生還という吉報だったが、王は大がかりな祝宴は開かなかった。ルナはまだ喪中であるから、その心中を慮って、身内のみで夕食となった。
 食堂で、ロランと王、ランドとルナが席に着く。王が穏やかに微笑んで勧めた。
「さあ、遠慮せずに食べなさい」
 ローレシアの新鮮な魚介を中心とした豪勢な料理に、神妙な面持ちをしていたランドが、ごくりと唾を飲み込んだ。
「いただきます!」
 ランドが言い、食事が始まった。一番食欲がないと思われたルナは、その細い体のどこにと思われるほど、どの皿も気持ちよく平らげていく。ロランとランドも、一度食べたら止まらなかった。
 粗食と空腹が続く旅だったので、食べられる時に食べておこうという、王族にしては少し悲しい習性が旅の間に身に付いてしまったせいである。
 若さだのう。王は微笑ましく息子達を眺めていた。
 やがて食後のケーキが出されるころ、王はルナに言った。
「ルナ姫。ヒンメルが亡き今、ムーンブルク再興のために、このローレシア三世ローレンスが後見人になる。これは、ヒンメルとフォルストとも取り決めていたことでな。もちろん、受けてくれるな?」
「――はい」
 おいしい食事になごんでいた頬がひきしまり、ルナは王を見てうなずいた。ロト三国王との間に、そんな取り決めがあったとは。父の傍らで、ロランは少し驚くとともに、納得してもいた。もし自分がルナと同じ目に遭ったら、サマルトリア王かムーンブルク王に後見されていたのだろう。ランドも同じく。
「だが今は、再興のことは考えずともよい。まずはゆっくりと、心と体を休めることだ。わしのことは、実の父親と思ってくれて構わん。のう、ロラン?」
 いきなり話を振られて、ロランは慌ててうなずいた。
「ありがとうございます、ローレシア王」
 ルナの固かった面持ちが、少し和らいだ。王も微笑んでうなずく。だが、その微笑みもすぐに消え、打って変わって厳しいまなざしになる。
「……こうして、いつまでも皆で語らっていられればどんなによいか。しかしわしは、ロト三国の盟主として、そなたらに命じなければならぬ」
 ロラン達も姿勢をただし、真摯に王を見つめた。王は、一人一人の顔を見て言った。
「今ここに、分かたれしロトの血筋が合わさった。誇り高き勇者の子孫として、その背負った使命をまっとうする時がきたのだ。――ロラン、ランド、ルナ。人々に代わり、この世を破滅に陥れんとする邪教の大神官ハーゴンを討ち取り、世界に平和をもたらしてくれ」
 三人はうなずいた。どの顔にも迷いはなかった。頼む、と王は頭を下げた。
「年若きそなたらに、この世を背負わせる我らの罪を許してくれ。そして……これはわしやフォルスト達の頼みだ」
 ――なんとしても、生きて帰ってこい。
 父王は、三人にそう告げた。