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蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・28

 そろそろ昼になりそうだったので、二人は福引所へ向かうことにした。池を離れて賢者の庵に通じる小屋へ回り込むと、野良らしい白い小犬が、二人を見つけて駆け寄ってきた。
「あ、犬だ。かわいいなあ」
 尻尾を振り、さかんに吠えたてる小犬を見て、ロランがにっこりする。
「ロラン、犬が好きだもんね」
 ランドもしゃがんで手袋を脱ぎ、小犬に手を伸ばした。くんくんと指先の匂いをかぎ、小犬はちろりと先をなめた。
「あはは、かわいい、かわいい」
「そら、おいで。食べな」
 ロランは荷物から乾し肉を一枚出すと、小さくちぎって小犬の鼻先に近づけた。小犬は腹を空かせているらしく、目を輝かせて我慢できないとばかりに舌なめずりをしたが、おすわりの姿勢のまま、なぜか食いつこうとしない。尻尾はさかんに左右に振られているのだが。
「どうした? 人見知りしてるのかな」
「そんなことないよ。そういう犬は喜んで走ってこないし。……なんか、我慢してるみたいだけど?」
「うーん、仕方ない、しまうか」
 ロランが乾し肉を戻そうとすると、小犬はぱっと飛びついて、手から大きい方の乾し肉をさらってしまった。あっけに取られている隙に、がつがつと飲み込んでしまう。
 ……すべて食べてしまってから、しまったという顔をした。上がっていた尻尾が垂れ、地面にぺたりと伏せて悲しそうに鼻で泣く。
「……お前、落ちこんでるのか? 変わったやつだなあ」
 よほどしつけの良い犬だったのか。ロランは笑って、小さな頭をなでてやった。
「いいよ、お前がおなかいっぱいになれば」
「ロラン、そろそろ……」
「ああ。ごめんな、行かなきゃ」
 ランドにうながされ、ロランは立ち上がった。小犬も慌てて立ち上がり、ロランの脚絆をかじって引いた。
「あ、こら。だめだよ」
 ロランはしきりに引っぱる小犬を足首から放し、目の前に抱き上げた。ふさふさした腹の下に目をやる。
「お前、女の子か。だめだぞ、女の子がそんなことし……てっ!」
 女の子と言ったとたん、小犬は猛烈に吠えて暴れ出した。じたばたと振った後ろ足がロランの顎を捉え、思いのほか強い蹴りにロランはのけぞった。思わず手を放すと、小犬はぺしゃりと肩から地面に落ちたが、転んだ痛みもものともせず、さっきと違う勢いで吠えまくる。
「なんか……怒らせたみたいだな……」
 ロランは痛む顎をさすった。言葉がわかるのかな、とランド。
「うーん……不思議な犬だなあ」
 ともかく、早く用事を済ませてムーンブルク城へ向かわなくてはならない。小犬は気になったが、やむを得ずその場に残して、市街地へ戻ることにする。
 だが、小犬はひょこひょこと二人の後をついてくるではないか。
「ああ、困ったなあ……こういうの、弱いんだよ」
 ロランがなるべく振り向かないようにランドに言うと、ランドも眉を寄せた。
「ぼくもだよ。……あ、もうやってるんじゃない?」
 福引所には、気の早い客が数人列を作っていた。
「はい、残念賞にもう一枚。また挑戦されますか?」
 普段は居酒屋の店主をしていると思われる、蝶ネクタイと白いシャツの小じゃれた男がきりもりしていた。残念賞の福引券をもらった男は、ちっと舌打ちをして断り、ぶつぶつ言いながらロラン達の脇を通り過ぎる。
「仕方ねえ、こいつは売るか……売れば53ゴールドになるし」
「ごっ……53ゴールド?!」
 男が通り過ぎたあと、ロランは最後尾に並ぼうとするランドの袖を引っ張った。
「おい、売ると53ゴールドだって! 薬草があと五つも買えるぞ。城まで遠いし、薬草の買い足しに使った方がいいんじゃ……」
「やだよ、これはぼくがもらったんだからね!」
 かばうように券を抱き、ランドはだだをこねた。
「それに見てよ、あの豪華景品表! 1等は世界中の店で割引してもらえるゴールドカード、2等は魔力を回復させる祈りの指輪、3等は魔力がなくてもギラの呪文が使える魔道士の杖! そんなすごいものをただでくれるなんて!」
「当たればだろ? 見ろよ、当たってる人全然いないよ。やっぱり売った方が無難じゃ……」
 もめている間に、ランドの順番が来てしまった。ロランはため息をついた。
「福引1回、お願いします!」
 大声で券を差し出すランドに、道行く人も興味をそそられたらしい。何人かが足を止めてこちらを見物にかかり、ロランは恥ずかしさを隠すため、少し離れて他人のふりをすることにした。小犬は同情してか、ロランを見上げてくーんと鳴く。
「はい、1回ですね。その取っ手を手前に引いて、絵柄をそろえてください。さあ、何が当たるかお楽しみ!」
 福引所の主は、台の上のからくりを示した。派手な模様が描かれた鉄の箱の中心には、太陽や月などの印がバラバラに配置されており、取っ手を引くとそれらが回転するので、3回引いて止め、絵柄を合わせるのだという。
「ようし、がんばるぞー」
 腕まくりをして望むランドに、見物人から口笛と拍手が湧き起こった。ロランは横目でその様子を見守る。
 ランドは目を輝かせて、1回目を引いた。絵は、月の印だ。祈りの指輪がもらえるのは星を三つそろえることなので、ちょっと落胆したようだったが、続けて引く。
 2回目も、月だった。おおと見物客がどよめく。ロランも気になって、ランドの脇でのぞきこんだ。カラカラと軽快に回る絵柄は、とても目で追い切れない。
「うんん……そこだあっ!」
 やおらランドは気合を発し、3回目の取っ手を引いた。かたん、かたんと絵柄は、じらすように二つ並んだ月を通り過ぎる。そして。
「月が……三つ?!」
「おめでとうございます!」
 ロランが目を丸くし、主が激しく手持ちの鐘を鳴らした。小さなラッパでファンファーレも吹いて祝福する。
「3等、魔道士の杖です!」
 うわおぉう、とランドは奇妙な歓声をあげ、ロランの首っ玉にかじりついて飛び跳ねた。
「やった、やった、やったよぉう、ロラン!」
「わかった、わかったから……苦しいっ」
 ランドのあまりの喜びように、見物人も拍手で祝ってくれた。どうもどうもと、ランドが堂に入った優雅な手つきで手を振り返す。足元では、小犬も自分のことのようにうれしがって、尻尾を振って吠え、飛び跳ねていた。