蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・27

 翌朝、フィリアに弁当を持たせてもらい、ロランとランドは宿屋を出た。すぐに城へ向かいたかったが、まず装備を調えるため、武器と防具の店を訪ねる。まだ準備中のところを頼みこみ、店を開けてもらった。
「お客さん、これはいいよ。鉄の槍に鋼鉄(はがね)の剣。鋼鉄の鎧や盾も、ここいらじゃ欠かせないね」
「つまり全部買ってけってことだね」
 ランドが面白そうに言うと、大柄な主人は大口を開けて「当たり!」と笑った。
「まず剣は欲しいな。ランドには、鎖かたびらと鉄の槍も」
「ロラン、鎧は? 君なら鋼鉄の鎧も装備できるんじゃない?」
「できるよ。でも、動きにくいんだよな……それに全部買うお金もないし。――すみません、鋼鉄の剣と、鎖かたびら2着と、鉄の槍を。この鎖鎌と銅の剣は下取りしてください」
「あいよ、毎度あり!」
 ロランが会計をしていると、ランドは装備売り場の奥へ行って、薬草などを買っていた。
「毎度ありがとうございます。感謝の気持ちをこめて、福引券をおまけしておきますね」
「あ、毎度ありって、毎度ありがとうございますの略なんだ!」
 道具売り場のおばさん――武器店主の妻は、拳で平手をぽんと打って納得したランドを見て、ぷっと吹きだした。武具担当の主人が、遠慮なく笑った。
「変わってるねえ、あんたの連れ」
 ロランは恥ずかしくて黙っていた。ランドが、もらった福引券をひらひら掲げて走り寄ってくる。
「ロラン~! 福引やりたい! やってみたい!」
「わかった、わかったから静かにしろよ」
「福引所なら、こっから北に行った所にあるよ。開くのは昼間だから、今からだとちょっと早いな」
 笑いが止まらない主人が、親切にそう教えてくれた。


 ランドがどうしても福引をやりたいと言い張るので、城への出発は少し遅らせることにした。周りの魔物が強いせいか、ここで生産されている武具は質がいい。いい剣が手に入って、ロランも満足していた。これなら魔物と遭遇しても、さほど時間をかけずに倒せるだろう。
 福引所はすぐに見つかったが、時間が早いと言われた通り、閉まっていた。仕方がないので、開くまで町を歩くことにした。
 町の北西には大きな池があり、その真ん中に小島があって、小さな庵が見えた。そには賢者の老人が一人住んでいるのだと、通りかかった人から教えてもらった。
 何か重要な決断をするときには、町長や議会も訪ねる相手なのだという。
「そんなすごい人なら会ってみたいけどねえ」
 ランドが池の彼方を眺めて言った。ロランも、仕方ないよと言った。
「そこに通じる道が、特別な鍵じゃないと開かない入り口でふさがってるんなら、つまり、僕らは呼ばれてないってことさ」
 池には地下通路が通じており、そこから行かないと賢者に会うことはできなかった。小舟を使って島に行こうとしても、魔法で行く手を阻まれるらしい。
「たぶんあの庵の扉は、金の鍵じゃないと開かないね」
「金の鍵?」
 ロランが問い返すと、ランドはうなずいた。
「銀の鍵よりもっと高度な技術と魔法で作られた、金色の鍵があるんだ。今から数百年前、時のラダトーム王が王侯貴族の館や大教会なんかの、重要施設の扉を閉めるために作らせた。今では、鍵を作る技術も失われているから、世界にある本数はわずかだと言われているよ」
「ちょっと待て。金の鍵が、たとえば城なんかの宝物庫の鍵を開けられるってことは、あちこちで泥棒もできるってことじゃないか?」
「そうだよ。でも、この世界に歴史が始まってからロト王家ができるまでは、国家と呼べるのはアレフガルドラダトームしかなかった。アレフガルドの首都や城、各町でのみ使う分には、それで十分だったんだね。合い鍵みたいにしてさ」
「そうか……。でも、その鍵に合う扉がこの町にもあるってことは、いくつかあった金の鍵は世界中に散らばったってことか」
「そうなんだ。君も見てると思うけど、僕らの城にも金の鍵じゃないと開かない扉があるよ。宝物庫とかさ」
「ああ、そういえば似てる気がする……。金の鍵に対応する扉は魔法もかかってるから、様式が似るんだな」
「そういうこと。でも父さんは、ぼくには城の宝物庫を開けさせてくれなかったんだ。あそこにはロトの盾があるのに」
 ランドはすねたように両手を頭の後ろに組んだ。もちろん、本気の仕草ではない。
「どうして?」
「ぼくが自分で世界を回って、失われた金の鍵を自力で見つけてきたら、その時は盾を授けるってさ。でもね、ほんとの話……」
 ランドは秘密を語るべくロランに顔を寄せた。ロランも耳を近づけた。
「父さんもあそこの鍵、開けられないんだ。金の鍵は、うちの城にないんだよね。ずっと昔に盗難にあったらしくて」
「ええっ……!」
「盾のある部屋には、番をしている魔法使いのおじいさんがいるんだけど、その人はアバカムで出入りしてるんだ。ぼく見たもの」
 アバカムとは、いかなる鍵も開ける呪文である。単純な魔法のようだが、修得は攻撃呪文や回復呪文より難しく、使える者はめったにいない。
「まあ、金の鍵とロトの盾のことは、ちょっとした黒歴史なのさ」
「ロトの盾か……本当にご先祖様が使ったのかな?」
 直系の子孫といえども、ロランは親達から聞かされた話を丸ごと信じてはいない。竜王を倒したという曾祖父の顔を直接見ていないし、彼が使った伝説の勇者ロトの武具も、一度も見たことがないのだ。しかもローレシア城には、なぜか武具が一つも伝えられていなかった。
「ぼくは、本物だと思う」
 ランドが言った。
「一年に一回、王族にだけ、ロトの盾ご開帳の儀式があってさ。毎年見てたんだけど、すごくきれいな盾だった。青くて、金の縁取りがしてあって、真ん中にもロトの紋章が金と宝石で象眼してあるんだ。見てると、なんだか勇気が湧いてきてさ。ぼくもこの盾にふさわしい人間になりたいなって思ってた」
「じゃあ、いつか金の鍵を手に入れられたら、ランドの盾になるんだな」
 少しうらやましさが出そうになり、あえて笑って言うと、ランドは惜しげもなく否定した。
「ううん。あれは、ぼくの盾じゃない。ロランを待ってるんだ」
「僕を?」
「うん」
 ランドは、どこか苦いように微笑んでロランを見た。
「実はさ、君を捜して旅立つ前、盾番のおじいさんに頼んだんだ。ロトの盾を持たせてくれって。強力な盾が持てれば、旅も楽になるしさ。
 おじいさんはあっさり許してくれて、その時は浮かれちゃったけど……初めて盾を持たせてもらって、わかっちゃったのさ。ぼくには、これは使えないって」
「ランド……」
「初めて好きになった人にふられるって、あんな気持ちだったのかな。今でも惜しい気はするけど、でも、ロランが使ってくれるなら、ぼくもうれしいし、盾も喜ぶと思う」
「……うん」
 ロランが深刻な面持ちでうなずくと、ランドは肩をぶつけて笑った。
「やだな、そんな顔するなよ。盾が使えないってのは、魔法とかの意味じゃない。あれがものすごく重かったからさ!」