蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・26

【人と人とが出逢う町】

 サマルトリア城から南に下ると、ムーンブルク半島を望む海峡がある。その突端を結ぶ位置に、白い石でできた門を持つ美しい関所があった。
 ムーンブルク半島を結ぶ海底道、〈ローラの門〉である。
 かつてロトの子孫の勇者――ローレシア1世と、妻ローラがアレフガルドから現ローレシアへ歩んだ道のりに、この海峡もあった。
 サマルトリアおよびムーンブルク側の両岸は断崖になっており、海流も激しいため船の行き来は難しかったのだが、昔から住んでいる土地の人間は、もとから存在していた海底洞窟を道路として利用していた。
 しかし足場が悪く、馬車などの通行は困難で、おまけに近くの島には野党が巣くっていた。この孤島と洞窟はつながっていて、しばしば旅人や隊商が襲われていたのである。
 ムーンペタの町は、その昔から自治の町として栄えていた。ローレシア1世が妻ローラと共に町を訪れた時、この海底洞窟の窮状を知った彼は、盗賊団退治に乗り出し、見事撃退。町の人々は感謝し、ローラの薦めに従って、海底洞窟を整備した。誰もが安全に通れるよう、関所ももうけた。
 以来、海底洞窟はローラの門と呼ばれ、ムーンブルクサマルトリアを結ぶ重要な道路となったのである。


「やっと着いたな……」
「ぼく、もうおなかぺこぺこだよ」
 ムーンブルク城が崩壊したというのに、ムーンペタの町は夕暮れ近くでもにぎわっていた。町の入り口で、ロランとランドはやつれた姿で雑踏をしばし眺めていた。
 銀の鍵を湖の洞窟で入手したあと、キメラの翼でリリザへ戻り、物資を調達してからローラの門を渡った。そこからひたすら南下を続け、ようやく町へ到着したのである。
 ムーンブルクへ渡ると、出現する魔物は急に強くなった。
 生半可な剣は通じない、固い甲殻の鎧ムカデ、こちらの身に着けた鎧の強度を下げる呪文〈ルカナン〉を使ってくる、緑色のタホドラキー。ほかの魔物をホイミで回復させてしまうホイミスライム、体全体に毒を持つ、緑の体をどろどろに溶けさせたバブルスライム。洞窟で出遭った魔術師と同じ者も多く現れた。
 戦いで得たお金で、ロランは鎖鎌をリリザで買っていたが、銅の剣より少しましという程度で、決め手に欠けた。鎧ムカデには何度も苦戦し、ランドのギラの呪文がなければ、いたずらに傷を負っていたところだ。
 そのランドも、再会した当初より魔力も成長していたものの、野宿続きで満足な休息も取れずに、魔法を使い続けていた。顔色はロランよりも悪い。
「とにかく休もう」
 ランドをうながし、ロランは宿を探して歩き出した。
(王はなくても人は生きる、か……)
 ロランの見る限り、ここもリリザと変わりないようだった。皆、自分の生活をそのまま続けている。町長や議会がしっかりしているおかげでもあるが、ロランはふと、王とは何だろうと疑問に思った。
「あら? あの……もしや、旅のお方」
 雑踏から声をかけられ、ロランは立ち止まった。振り向くと、若いというよりやや年増の女性が、驚いたように手を口元に当ててこちらを見ている。
「……ああ、やっぱり!」
 目が合うや否や、女性は買い物籠を腕にかけ、小走りにこちらへやって来た。そしてロランとランドに、ドレスをつまんだ宮廷風のおじぎをする。
「ロラン様とランド様でいらっしゃいますね?――お忘れでございましょうか、ロラン様。私、ローレシア王妃の侍女をしていました、フィリアと申します」
「フィリアさん……?」
「知り合い?」
 小声でランドがロランに尋ねる。ロランは困って、ううんとうなった。フィリアは怒らず、微笑んだ。
「無理もございません。私は侍女の一人でしたし、ロラン様が7歳におなりになった時、こちらへ嫁ぎましたので」
「確かに僕達は、人違いではありません。あなたのことは、何となく思い出しました。よく、お菓子を焼いてくれましたよね」
 ロランが言うと、フィリアはうれしそうに微笑んでうなずいた。ランドもぱっと顔を輝かせる。
「そうそう、料理長じゃなく侍女さんが焼いてくれたクッキー、おいしかったよ! あなただったんですね、思い出した、思い出した!」
「ありがとう存じます。お二人も、ご立派になられて……」
 旅やつれたロランとランドを、フィリアはどこかまぶしげに見つめた。ロランがやや申し訳なさそうに切り出す。
「すみませんが、僕らは旅の途中なので、これで。お話は、またいつか」
「あ、宿をお探しでしたら、どうか家へ。私の主人は宿屋を営んでおりますの」
 思わぬ偶然に、ロランとランドは顔を見合わせた。


 フィリアとその夫が営む宿は、町では中堅の大きさだった。夫婦は無料でいいと言ってくれたが、それではそちらも困るだろうからと、ロランは二人分の宿代を払った。王子二人との再会の喜びに、フィリアは張り切ってもてなしをしてくれた。温かい料理や入浴の準備はもちろん、汚れ物の洗濯まで。
 ほとんど顔も忘れていたのに、そこまでしてくれるフィリアにロランは申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、好意に甘えるのも恩返しなのだとランドに言われ、受け入れることにした。
「僕達が旅をしていること、不思議に思わないのですか?」
 清潔なシーツでベッドを整えているフィリアに、ロランは尋ねた。手を止め、フィリアはにこりとした。
「王子様達のおうわさは、もうこちらまで届いていますよ。ローレシアサマルトリアの両殿下が、邪教の集団を倒すために立ち上がってくださったと。だから、いつかきっとこの町にも来てくださると信じておりました」
「そうですか……」
「今でも、きのうのことのように思い出しますわ。お小さかったランド様とルナ様が、ロラン様を訪ねてご家族とお城へご訪問なさったこと。よく遊びにおいででしたね」
「うんうん。あのころは楽しかったね。行く前の夜は、楽しみすぎていつも眠れなかったよ」
 ランドがにこにこして言った。フィリアも笑いかけ、清楚な顔が曇った。
「ルナ姫様……あの方も本当にかわいらしいお方でした。そして、今はとてもお美しくなられたと聞いております。でも……ムーンブルクのお城は……」
 涙をこらえ、フィリアは口元を手できつくおさえる。ロランとランドも笑みを消していた。
「ルナは行方不明だと聞いています。フィリアさんは、そのことについて何か知りませんか?」
 フィリアはうつむいて小さくかぶりを振った。
「いいえ……。おうわさも耳には。この町にも来たという話はありません」
 ロランはランドを見た。ランドも同じ事を考えていたらしく、お互い目を見ただけでうなずき合った。
「やっぱり、行ってみるか。明日、ムーンブルク城に」
「うん。調べてみよう」
 フィリアは青ざめたが、止めるようなことは言わなかった。深々と戦士達に頭を下げる。
「お気をつけていってらっしゃいまし。お弁当、たくさん作りますから、ぜひ召しあがってくださいね」