蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・24

 同時刻。城内の西にある拘留所の牢で、鎖につながれた仮面の男はゆっくりと顔を上げた。目の部分には、翠色をした大きく丸い宝玉がひとつきり。口に当たる部分には、長方形の穴が開いている。廊下の灯火に、その穴が上向きに歪んで見えた。
 嗤(わら)いの形に。


「む? なんだ、空が急に暗く――」
 まだ昼間だというのに、夕暮れのように日が陰った。空がみるみる、黒い雲のようなものに覆われていく。そこへ、あちこちから絶叫と悲鳴がほとばしり始めた。ルナ達は表情を失い、周囲を見回した。一体何が、とルナが貼りついた唇を開きかけた時、切羽詰まった声が庭園へ駆け込んできた。
「陛下、大変です! 城内に魔物の群れが!」
「何っ!?」
 ルナに似た金髪をひるがえし、王は急を知らせに来た衛兵を振り向いた。ルナは直感した。
「お父さま、あの者です! あの者が魔物を手引きしたのです!」
「なんとっ――。拘留所はどうなったのだ?! 見張りの兵は?」
 王は愕然とし、衛兵に問いただした。衛兵は青ざめて答えた。
「あちらはすでに炎に包まれて確認不明です。ですが、空中に何やら怪しげな円陣が現れ、そこから魔物が多数出現しております! こちらにも魔物と火の手が迫っております、どうか早くお逃げください!」
「ぬうっ――!」
 王は怒りに肩をふるわせた。己の完全な失態だった。まさか、あの神官が、そこまでの力を持っていたとは!
 仮面を着けたローブの人物――人間ではなくなった魔物――が、各地を襲撃する際に魔物を召喚するらしい、とはつかんでいた。だが、その詳しい姿までは情報を得ていなかった。
 それに、そこまで強大な力を持つ者が、たやすくこちらの手に落ちることはないと油断していた。それほど、昨日捕まえた邪教の神官は、あっさりと見つかり、捕まったのである。
 城下町であからさまに邪教を説法していた。さえない中年男の姿を取って。
 事情聴取のために捕らえたら、すぐに正体を現した。自分は末端で何も知らないと、弱音さえ吐いたのだ。それを信用したわけではないが、ほとんど魔力を感じられず、弱々しい気配を信じ込んでしまったことは否めない。
 だがルナだけは、その者をひと目見てひどく嫌がった。早く城から離せと言い、先程もそう進言してきた。自分はそれを惜しんだ――生きたまま神官を捕らえたのは初めてだったし、貴重な手がかりを得られると思ったからだ。
 この惨事、すべて自らの油断と傲慢から招いたか。王は両の拳を握りしめた。鋭くルナを振り返り、叫ぶ。
「そなたはすぐに逃げよ! キース、ルナを守って逃がせ!」
「お父さま、お父さまは?!」
「わしは一刻も早く、ローレシア王にこのことを伝えなければいかん。行け!」
「嫌です、私も戦う――」
 ルナが叫んだ時、空から1体の鳥人が奇声を上げて襲いかかってきた。鳥の頭に二本の角、人間の体にコウモリの巨大な羽根。ホークマンだ。
 ホークマンは殺戮の喜びに嗤いながら、手にした鋼の剣を衛兵に向かって振り下ろしてきた。首を斬られ、鮮血がすさまじい勢いでほとばしった。ルナは悲鳴を上げた。キースがルナの前に剣を構えて身構える。
ベギラマ!」
 王が両手をホークマンにかざす。閃光が鳥人へ走り、ホークマンは炎に包まれた。身もだえる魔物に、王は死んだ衛兵が持っていた鉄の槍を取ると、ひと息に突き刺して命を絶つ。
「何をしている、行けっ――!」
 王がルナを振り向いた、その時であった。
 ホークマンを焼いたのと同じ閃光と炎が、王を背中から襲った。すさまじい絶叫をあげ、王は生きながら焼かれる地獄に喘いだ。
「ル……ナ」
「お父さまーっ!!」
 燃えさかり、喉の辺りを押さえながら、王はよろよろとルナに向かって歩き、ルナは王を抱きとめようと腕を伸ばした。だが、キースの腕につかまれて阻まれる。
「姫様、お気を確かに!!」
「いや、いやああ! お父さまあああ!!」
 王はもがくルナの目の前で前のめりに倒れた。ルナは絶叫した。
木々の影から、邪悪な紋章を描いたローブ姿が現れる。もだえていたルナの血が凍りついた。こいつが父を。すぐにわかった。
 父の敵を討とうという気概は失せていた。全身を支配するのは、ただ――恐怖。
 悪魔神官は、どこに隠し持っていたのか、両手に巨大な棘付きの鉄の棍棒を2本携えていた。王を焼く炎が近くの草に燃え移り、庭園も炎に飲み込まれつつあった。
 空間は、魔物に殺されていく人間の絶叫で満ちていた。戦いを挑むも返り討ちに遭う者、たわむれに手足をもがれる者、追いつめられてなすすべ無く食われる者、老人、子ども、男も、女も。
 精鋭と呼ばれても、実戦経験のない兵士達は脆かった。
「姫様、お逃げください!!」
 キースが叫ぶ。ルナは無言で身をひるがえした。庭園の奥には、王族のみが知る隠し階段があった。キースは油断なく悪魔神官に剣を向けつつ、王女の後を追う。
 必死にルナは庭園の壁をたたき、探り、ようやく隠し階段の仕掛けを出す小さなレリーフを見つけて押した。足元に階段が現れ、ふるえる膝で駆け下りる。
 だが、城外へ通じる隠し階段を探す前に、敵はゆっくりと追いついていた。ルナは壁を背に、無言でふるえた。キースがルナを背にかばい、悪魔神官と対面する。