蒼雪庵

いまだに推敲中

自作ドラゴンクエストⅡ~悪霊の神々・19

 サマルトリア城下町で多めに保存食や道具類を買うと、ロランとランドはサマルトリア王にあいさつに行った。王はランドとの合流をとても喜び、これからの旅も頑張れと励ましてくれた。

 ランドの妹アリシアは、ランドが部屋に来るなり、自分も連れていってほしいと駄々をこねた。

「だめだよ、お前は」

「お兄ちゃんのいじわるうっ」

 いささか困り顔でランドが言うと、アリシアは胸の前で小さなげんこつを二つ固め、目に涙をためて怒鳴った。

 ランドと離れるのが寂しいんだな、とロランは思った。ずっと城に閉じ込められて退屈なこともあるだろうが、一番の話し相手で遊び相手である兄がいなくなるのはつらいだろう。

 アリシアはランドの胸で泣きだし、ランドは黙って、泣きやむまで妹を抱きしめていた。

(僕にも兄弟がいたらな……)

 見守りながら、ロランは自分に妹か弟がいたらどうなっていただろうと考えていた。


 サマルトリアは世界の北に位置し、年間通して冷涼な気候である。ロラン達が歩いている、緩やかな起伏を描く平原には、背の低い植物が多く生い茂り、奇岩があちこち点在している。サマルトリア地方の特徴的な風景だ。

 王とアリシアに別れを告げると、サマルトリア城から北西へ、ロランとランドは進路を取った。
 この時期は曇り空が多く、この日も曇っていた。晴れていれば広大な景色を楽しめただろうが、今は物寂しさが漂っている。冬ならなおさらだろう。
「思ったんだけど」
 歩きながら、ロランが尋ねた。
「銀の鍵はランドの家に伝わっているんだろう? どうして洞窟にあるんだ?」
 ロランの後ろを歩くランドが、やや肩をすくめた。
「そりゃ、悪用されないためさ。言っちゃなんだけど、あれは全世界の一般人の家の扉を開けるくらいの力はあるからね」
「昔のサマルトリア王が作らせたのか? もしかして、よく鍵を落としてたとか」
「違う違う。取り上げたんだよ、初代サマルトリア王が」
 それなら面白いけどね、とランドは笑いながら由来を話した。

 初代サマルトリア王の時代、アレフガルドに住んでいた魔法の鍵職人が移り住んできた。当時、アレフガルド大陸にあったすべての町では、家々は魔法で作られた鍵を用いており、厳重な施錠をしていた。
 竜王の時代、格段に増えた悪党や魔物から身を守るためと言われているが、すぐ壊れてしまうので経済的ではなく、魔法の鍵産業はいつしか廃れ、普通の鍵を用いるようになった。
 しかし、魔法の鍵職人の生き残りが、ついに壊れない魔法の鍵を作り上げた。それが銀の鍵である。
 職人はさっそく、初代サマルトリア王にそれを献上した。量産して民に売り、皆が鍵を使えるようにと申し出たが、賢明な初代サマルトリア王は、この鍵に致命的な欠陥があることに気がついた。
 ランドの話した通りのこと――よほど複雑でなければ、鍵穴に関係なく解錠してしまう事実にである。
 これでは、誰でも他人の家に入れてしまうし、盗賊などが悪用しかねない。そのことを告げられた職人は多大な衝撃を受け、慚愧(ざんき)の念を持って廃業を決意した。王は彼をなぐさめ、代わりに、細工の腕を買って宝飾師の仕事を与えたという。
 そして銀の鍵は、王家の者でも悪心を抱かぬよう、城から西へ遠く離れた湖の洞窟へ封印したのであった。

「なるほど。その洞窟のある湖って、一度だけ、みんなで来たっけ」
「そうそう、お弁当持ってね」
 ランドが隣に来て、ロランは微笑み合った。6歳の夏に、ランドとルナ、父親達とそろって遊びに行ったことがあった。それが、皆で遠出した最後の思い出になっている。
「きれいな所だったな。でも、あの洞窟にそんな話があるなんて知らなかった」
「ぼくも、鍵を見るのは初めてなんだ。でも見つかれば、きっとこれだってわかる」
 半日歩くと、白く切り立つ岩山が見えてきた。細い谷になっていて、西へ抜けるにはここを通らなければならない。
 あの時は、馬車を仕立てて行ったんだ。ロランはまた、昔を思い出していた。絶え間なくランドやルナとおしゃべりをして、いろんなものを見て、そのすべてに感動した。親達も笑っていて、輝いていた。一番幸せだった、あのころ。
「魔物だ!」
 峡谷にさしかかったとたん、ランドが鋭い声で叫んだ。一瞬で現実に戻り、ロランは銅の剣を抜く。ランドは、まだ不慣れな棍棒を両手で構える。
 その左腕には、小さく丸い盾を着けていた。木の板になめし革を張っただけの簡素な盾だが、このあたりの魔物相手に身を守ることはできる。ロランが初めてリリザに立ち寄った時に買った、皮の盾だ。ランドの身がいささか不安なので、自分の分を与えたのである。
 ナイフのように鋭い岩が折り重なった壁面を滑り下りてくるのは、赤と黒の縞模様が毒々しい大蛇、キングコブラだ。3匹もいる。
 ロランは今さらながら、自分の武器が銅の剣であることに舌打ちした。ランドの武器が棍棒のままであることにも。
 キングコブラが、今まで遭った魔物より強いだろうことは直感した。旅の日程を送らせてでも、町の周辺で戦ってゴールドを稼ぎ、鎖鎌を買えばよかったか。
 ぬめぬめと光る大蛇の胴の太さは大人の脚ほどもあり、長さはその3倍はあろう。鈍器でどこまで通じるか。